前編
これは、親子のキャッチボールを通しての暖かく、悲しい物語。
「いくぞぉ…それっ!」
(ヒュン)
「よっ」
(バシッ)
「お父さん、ナイスキャッチ!」
「拓也のコントロールが良いから、お父さんは捕れたんだよ。」
今、僕は目の前にいる10歳の息子とキャッチボールをしている。
彼は、僕のミットめがけてボールを投げてくる。僕はそれをキャッチして彼にボールを投げて返す。するとまた、彼がボールを投げてくる。それを繰り返すだけ、ただ…それだけ。
だけど、これが楽しい。
「次は、カーブ投げるからっ!」
(ヒュン)
彼が投げたボールは、大きく横に弧を描いて僕のミットへ収まる。
(バシッ)
「凄いぞ!なってるよ、カーブになってる!」
「ヘヘンだっ!僕は、早くここを出て野球チームに入って、マウンドに上がるんだっ!」
「………。」
彼の願いは、野球選手になる事だ。小さな頃からボールを持ち、物心ついた頃には僕にキャッチボールをせがんできた。
「パパ、ボールなげて!なげて!」
「はいはい…それっ!」
「うわぁ、とどかないよっ!」
「ゴメン、ゴメン。まだ拓也には捕れないよな。」
「むぅ…」
楽しかったあの頃。
夢中で投げられたボールを走って追っかけてた我が息子。
しかし…僕と彼の幸せは、ある日突然奪いさられる事となる。
拓也9歳になる年の8月のある日。有給休暇を取った僕は、息子を連れて公園に行き、朝からキャッチボールをしていた。
「お父さん、いくよっ!」
「おう。」
彼は大きく振り被った。
「それっ…」
(ヒュン)
しかし、彼はボールを投げた瞬間…
(バタッ)
「た、拓也ぁぁぁ!!!」
彼は突然その場に崩れ落ちたのだ…。




