㈱民間警察のお仕事!(1)
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「ほら、手ぇ出しなさいな。……ちょっと、大丈夫?」
スカートを気にしながら立った渡井さんが手の平をこちらに向けていた。
手を貸してやるから立て、と言うことなんだろう。
だが、俺は先ほどの事で頭が一杯で渡井さんの行動は見えていたが、認識できない。
先ほどの光景。感触。
男である俺の力以上の腕力。
飛び退いた時の距離。
驚異的な速さ。
全てが、同じ“人”だとカテゴリするには余りにも異質すぎる気がする。
今、俺に差し伸べられている華奢な手、細い腕。
一見、そこいらにいる女性と何一つ変わらない。
男の指に比べ余りにも繊細な指と腕。
力の入れ具合を間違えただけで容易く壊れそう。
そんなものが、俺に死のイメージを見せたのだ。信じろと言うほうが。
「タイチョ~、コイツ何かトリップしてるんですけど?」
「お前のケツの感触思い出してるんだろ。気にすんな」
「……うげぇ。なんか、キモチ悪」
──突然の激痛が左太もも襲った。
予想外の痛みに思わず叫び、見た。
しゃがみ込みなぜか俺の太ももをツネり上げている渡井さんを。……黒、ですか。
「何してるんですか!」
わずかに走った心の動揺を抑え、渡井さんに言う。
「アンタがキモチ悪いこと考えてるのがイケナイ!」
……さっぱり理由がわからない。それが俺の脚をツネる理由なのですか? そして、……意外に地味なデザインですね。
「いい加減、止めてください!」
そう言ったのだが、渡井さんは止めてくれはしない。口を尖らせ「ブーブー」と不満を擬音にする。
……いい年した女性がまさか。現実に「ブーブー」と言うとは。
「……いいじゃんか! そんぐらい。九条も役得してんだし!」
グッと親指を立て、無茶苦茶いい笑顔で桑原さんが言った。
……ヤバイ。桑原さん気づいてるっぽい。
そっと、そっと。桑原さんに視線を向け、ダメです、と小さくを首を振って意思を表示する。
笑顔のまま、桑原さんは大きく首を縦に動かす。『──わかってる』まるで、そう言っているかのように。
だが、次の瞬間。俺はこの人を信じてはいけない事を知る。
今まで上に向けていた親指をそのまま──手首から先だけを180度回したのだ。
そしてオマケとばかりに、厭らしい邪悪な笑顔を浮かべ「──ところで、渡井。お前、九条にパンツ見られてるぞ」と、言った。
俺の意識はここで途切れた。
「で、どうだったよ。渡井のパンツ」
移動中の車の中。運転手を渡井さんにして助手席に観鏡さん、後部座席に俺と桑原さんの形で座っている。
そんな時、桑原さんが言った。
無言で差し向けられる、バックミラー越しの渡井さんの睨む視線。
未だに痛む俺の右ほほは『無視するんだ』と雄弁に語る。
「何色だった?」
一瞬、揺らぐ車。渡井さんの無言の抵抗の結果だ。
渡井さんは俺を気絶させたことを悪く思っているらしく、先ほどからあまりこの会話に強く出てこない。
気絶から回復した際、少し泣きそうな顔で俺に謝り倒していた。
……だと言うのに。この人は少しも空気を読むことをしない。
「セクシー系だったか? 地味系だったか? 絵でも描いてあるお子ちゃま系か?」
どんどんと荒くなる運転。……この流れはダメだ、と理性と右ほほが教えてくれる。
「渡井さん。先ほどの体術、なんだったんですか?」
この空気で渡井さんに話しかけるのは気が引けるが、桑原の話を何としても終らせたい一心で言う。
数秒の沈黙。ちらりとバックミラー越しに向けられる視線。
それらを乗り越えた後、大きくため息を吐いて渡井さんは声を発してくれた。
「本当は、会社に帰ってから言う話なんだろうけど──」
いつもとは違う重い声だった。こんな真面目な話し方など今まで聴いたことがない。
驚いてバックミラーに写る渡会さんを見る。
視線は、桑原さんに向けられていた。
「いいよ。言っても。先か後かの話だから。問題ナッシング」
それに対応した口調はいつもの桑原さんのモノ。緊張の欠片も感じられない。
確認を取らなければらないほどの事項なのか? 疑問に思って桑原さんを見る。
窓の外を見ながら、手をプラプラと振っていた。
「……了解です。で、九条さぁ、私の体術って言ってたけど。それからして違う。
そもそもなんだけど、この会社がなんで出来たか知ってる?」
不意の問い。頭を懸命に動かして考えてみるが、何も思いつかない。
自衛隊、警察の人間が大勢出向している訳の解らない会社。
それが俺が思うこの会社の印象。
俺達警察出向組みは大っぴらだが、自衛隊出向組みは何故かその事を言うことを固く口止めされている。
彼等の所属・勤務地はあくまでも近くの駐屯地、となっているらしい。
この会社に出向になりその事を言わないよう、誓約書まで書かされた。
「なんて言うか、結局それが私の事にも繋がるんだけど、私 遺伝子に異常があるんだよね。それが原因」
言われて血が引いた。俺は遠まわしに桑原さんの病気を不躾にも聞いてしまったことに気づいたから。
「あ、大丈夫だから。私、生活して生きていく上でなんにもないから。気を使わなくてもいいよ~」
焦っていると笑いながら渡井さんがそう言ってくれた。
どうやら、こちらの反応をうかがっていたらしい。
「予想通りの反応ありがと~」と、続けた。
「ん~。何て言うかね、スんゴイのよ運動能力とか」
「はぁ……?」
それしかいえなかった。遺伝子に異常があるから運動能力が高い? 何言ってるの、状態。
「見たでしょう? 私の力。そんなのが世の中には結構いるの。遺伝子の……何とかって言う部分が反応して──」
「──ジャンクDNAでしょう。渡井さん。そのぐらい覚えておきなさい」
渡井さんの言葉の不足を、観鏡さんが怒るでもなく淡々と加えた。
「……ごめんなさぁい。で、私たちはよく働きが解ってない遺伝子の部分が動いてこうなってるんだって」
よくわかんないケド。と、小声で渡井さんは言う。
当事者である渡井さんがそんな事言うなら、普通の人間である俺にとってはナニが何だか状態だ。
「九条君。渡井さんの言葉の不足をさせてもらおう。まず、人間が人間であるための設計図が遺伝子、DNAだ。学校の授業で勉強しただろう?」
はい、と小学校の頃にだか中学校の頃に勉強した授業を思い出しながら答える。
劣性遺伝だか、優性遺伝だか。何対だかで出来てるだか……これは高校だっけ?
「その地図の中によく解らない部分がある。なんであるのか、どんな作用をしてるのか今は解き明かされていない部分だ」
「それが私たち、なんでか発現しちゃったの~」
明るく、能天気に笑う渡井さん。……本当に病気とかでは無いのだろうか。
「渡井は単純に考えているようだが、これが大問題になっている」
なんで、とは考えなかった。
「それが、普通の生活の中であれば問題はない。だが、犯罪者がこの能力を手に入れると現行の公警の手に余る。
なにせ、一人ひとりは何かしらの格闘の経験がある警察官と言えど、人数的な問題、拘束する手段の不足、何もかもが足りない」
それを補うのが民警だ、と続けた。
確かに、外国では許可されているテイザーガン(電極を飛ばして相手を感電させる)を初めとする制圧武器は公警では許されていない。
民警では拳銃を持たない代わりに、護身用の武器を携帯させられている。
あくまでも“護身用”と言うのがミソだが、それでも持てる。
人数と言う観点でも、民警では1人の犯人に対して複数のチームが行動するため、あまり危険な事態にならない。……との事だ。
だが俺は知っている。この会社は毎年数人以上の殉職者を出していることを。
「……今日は新人の様子を見るために、仕掛けられた。あえて事情も言わず、理不尽な条件下で。すまなかったな、九条」
「観鏡サブは真面目すぎますよぅ。これは新人の洗礼なんですから」
渡井さんは言う。私も受けたんですから、と。
「私、後輩君にはびっくりしました」
何度か観鏡さんと渡井さんが話し合っていると突然、俺の話になった。
「浅生課長からは聞いてましたが、まさかここまで できるんなんて」
「それは俺もだ。隊長からは存分にイジメろ、とは聞かされていたが。……隊長は何か九条に関して聞いていたんですか?」
前席の2人は黙る。桑原さんは「ん~?」と間の抜けた返事。
「別に~。大した事は聞いてないよ。浅生課長からは“前原”を捕まえた警察官、とは聞いてたけど」
「……えぇぇぇぇ?」
渡井さんが叫んだ。うるせぇ。
しかし……前原? どこかで聞いた……ああ、俺が以前に取り押さえた痴漢の常習者だ。
たまたま休みでブラブラしている俺のところに飛び込んできたのを、取り押さえた。……と、言うより気絶させた。
とんでもなく力が強い男だったと、強く記憶している。
そして、その時の事から民警の装備が羨ましく思っていた。
「“前原”ですかっ、あの!?」
「その前原だよ~。ってか運転が荒い。怖い。ちゃんと運転しろ」
運転が荒くなった渡井さんを嗜めつつ、桑原さんは言う。
「アイツ、スタンガン喰らっても気絶しなかった! オマケに逃げる最中に私の胸を揉んで行った! ハラ立つ!」
「あん時は災難だったね~。で、俺達から逃げ切った後に休みだった九条に捕まったんだよ」
ちくしょ~と、叫び続ける渡井さん。桑原さんはクツクツと低い笑いを漏らす。
「九条。なんでアイツを捕まえた? 捕り物から逃げたのを知ってはいなかったんだろ」
「……目の前で女の人に抱きついて、逃げようとした人間がいたら捕まえますよ流石に」
観鏡さんの質問に、あの時の状況を思い出して答える。
俺はコンビニ帰り。突然聞こえた悲鳴を頼りに駆けつければ、T字の角で女性に抱きつく男の目の前に出たのだ。
『その人、痴漢ですっ!』しゃがみ込んで叫ぶ女性。俺は逃げようとするとっさに背負い投げ。
背中を強かにぶつけ、動きが鈍くなった犯人を後ろ手に拘束しようとすると、犯人はトンデモナイ腕力で抵抗して……。
それから逃げれないようにあれこれしたのだが結局、気絶させる手段を取った。
「すると何か、時を考えると渡井に痴漢した後にヤツはまた痴漢して捕まった、と?」
俺はハイと答えると、観鏡さんは「病気の域だな」とつぶやき笑う。
桑原さんは腹を抱えて笑っていた。
「ちくしょ~! ちくしょー! ただの痴漢にぃ~! 逃げられたのもハラ立つのに! 胸まで揉まれて! しかも普通の人間に捕まりやがって!」
運転の最中だと言うのにバンバンとハンドルを叩く渡井さん。
あの、その。何と言うか……、ご愁傷様でした。
そんな事は当然言えるわけも無い。
本社にたどり着くまで俺以外の3人はそれぞれに笑い、悔しがったりと騒がしかった。
キャラクターが安定しない……。
文章が安定しない……。
と、言うか書き始める前に読んだ小説とかの影響を受けすぎる。
……困ったもんです。ま、その前に文章が全然ダメですけどねwww
読んでくれた方、ありがとうございます!
次回もなるべく早めに更新したいとは思っていますので、なにとぞお付き合いください!