意外と好待遇?
あ、一応、世界観は現代日本がベースではありますが、ちょっと違う世界です。
それからは大変だった。
辞令に伴う仕事の引継ぎ、新しい職場への顔出し、警察の独身寮からの引越し。
なぜか民間警察でありながら殉職率の高い職場での仕事内容は厳しい事も予想されるので、辞めようとも思った。
……が、ただでさえ求人が、仕事がない世の中で、そのせいで犯罪率が上がって警察の手が回らなくなって民間警察が作られた。
そんな情勢の中で仕事があるだけマシだと、明日の飯にも困る生活は想像さえしたくないから少しだけ頑張ってみようと思う。
仕事なんていつでもやめれるさ。なんて、強がりを心の中で思いながら。
驚いたのは㈱日本民間警察──略して『民警』の社員に与えられるのは、今までの警察の独身寮からは考えられないほど新しくて豪華で広いアパート。
最初は幹部用に借りられたものかと間違えているのでは? と、会社に問い合わせたほどだ。
そして、新しい職場の上司が小柄の可愛らしい女性であったこと。
正直、好みすぎる。
名前を浅生 綴、20代後半と言う話だ(詳しい年齢までは教えてくれなかった)。
俺と同じく、警察からの出向との事。
──少しだけ新しい職場に明るい期待を感じた。
……と、言うのも過去の話。
現在、俺は全体的に緑色とか黒とか茶色がまだら模様になった服を着込んでいる。
所謂、迷彩服とか呼ばれるものだ。なぜ?
そして、基礎体力訓練と呼ばれる地獄を3ヶ月ほど経験して、返事になぜか『レンジャー!』とか単体で叫んだり、語尾につけたりしなければならない先よりも地獄の部隊に2ヶ月ほどいる。
あれ? なんで自衛隊に……わからない。
結局、あの綺麗で豪華な大きな部屋で過ごしたのは1週間ぐらい。
今は野山の乾いていて寝やすい所が俺の寝床。
天井なんて広くて高くて。
壁なんてない辺り一面が俺の部屋! 文字通りに、だ!
風通しだって悪くない。ただ、虫が沢山なのと雨が防げない、頻繁に教官が襲ってくるのが難点かな?
あっははははははははぁ!
……騙された! チクショウ!
極度の疲労と睡眠不足で妙なハイテンションなのに、体は鉛のように重い。
時折、思考の片隅に浮かぶ『倒れてしまえば』『あの高いところから飛び降りれば』なんて後ろ向きな誘惑に負けそうになる。
その度、教官の叱咤激励という名の罵詈雑言を『やれます』『レンジャー!』と機械的に返す。
……本当に。マジで。俺って警察官じゃなかったっけ?
そう言えば、この会社の歓迎会で、自衛隊からの出向だという人がちらほらいたような気がする。
笑いながら朗らかに交わした冗談みたいな挨拶と、酒に酔わされて気づかなかったが。
あの時に気がつくべきだったんだ。
何で民警に自衛隊からの出向された人(と、のたまうヤツが複数)がいるの、とか。
会社の説明の時に支給された装備のものものしさとか。
拳銃以外の殺傷能力の低い、テイザーガンとか熊さえも怯む催涙スプレーとか。
制服が何でか、自衛隊の野戦服を紺色に染めただけで何一つ装飾が変わらない異常性とか。
『拳銃以外、警察よりも装備いいじゃん』なんてはしゃいでいた俺を殺してやりたい。
これならあの犯人確保の時、死ぬほどの思いをしなくても良かったじゃん、なんて阿呆な事を抜かす俺を粉砕してやりたい。
「──もう限界か!? 根性無ぇのか!! 股にぶら下がってるのは飾りか!! やる気が無ぇなら帰れ!! 母親の垂れ下がったオッパイでも吸ってろ!!」
耳元での怒声にハッと気がつく。目の前には緑色が。青臭い。
……どうやら気を失って倒れていたらしい。
体が鉄になったように硬い。背中の装備が数字以上に重く感じる。
「まだやる気か!? 落伍しちまえ!! 貴様みたいな女みたいなヤツはこの部隊には要らん!!」
続けざまにかけられる罵詈雑言に叫び返す。
「まだ出来ますレンジャー!」
──会社辞めよう。
辞めてやる。
そんな事を考えながら歩き出す。
……明日はどっちだ。
7時から仕事なのに現在4時とか……。
風邪引いてる体に鞭うってどうする気だ、自分よ……。