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画面の奥の視線の檻に閉ざされて

作者: しばえだぬ
掲載日:2025/10/15

「こんちゃー! みんな元気? 星奈ルナ、今日も絶好調で配信スタートだよー!」

ピンクと紫のツインテールが揺れるVTuber・星奈ルナの3Dモデルが画面で弾けるように笑う。彼女のホラーゲーム実況は、15万人の登録者を虜にするユーモラスなビビりリアクションで人気だ。


だが、画面の向こうのルナ――本名・星野奈月――は、笑顔の下で息苦しさを感じていた。2年前、大学を中退して始めた配信生活。

視聴者の「もっと怖いゲームを!」という声に応えるため、彼女は「完璧なルナ」を演じ続けているが、最近、夜中に見知らぬ番号からの不在着信や、鍵をかけたはずの玄関ドアが微かに開く音に悩まされていた。 今夜、ルナは視聴者から送られてきた謎のインディーズホラーゲーム『視線の部屋』をプレイする。ファイルは、匿名アカウント「Watcher_0」から送られた怪しいリンク経由で入手したもの。開発者情報はなく、添付メッセージには一言、「奈月の目が好きだよ」と書かれていた。彼女の本名を知るはずのない視聴者に、ルナは背筋が冷たくなる。


「…冗談でしょ?」


笑いながらごまかすが、声は微かに震えた。 ゲームが起動。暗い部屋。点滅する蛍光灯。

ルナはマウスを握り

「うわ、めっちゃ不気味! みんな、怖くなったらルナの歌で癒されてね~!」

と明るく振る舞う。だが、チャット欄は異様な速度で流れ始める。

「ルナちゃん、右下の目、動いたよ!」

「Watcher_0って誰? なんか怖いんだけど…」


ルナは笑顔を保つ。

「え、みんなビビりすぎでしょ~」

だが、画面の隅の「目」が、彼女をじっと見つめた――気がした。

侵食する視線ゲームを進める。主人公は「鏡の部屋」にたどり着く。

鏡にはプレイヤーキャラクターの背中が映るはずだが、なぜか誰もいない。

代わりに鏡の奥に揺らめく影。ルナの声が裏返る。

「え、バグ? 」 チャット欄が騒がしくなる。

「Watcher_0がコメントしてる! やばいよ!」

「ルナちゃん、鏡の奥、目がたくさんある!」

ルナは画面を確認。Watcher_0のコメント。

「奈月、鏡の中の目は君のものだよ。」

彼女の本名が再び現れ、ルナは心臓が締め付けられる。

「やめてよ、Watcherさん、怖いって!」

だが、違和感はそれだけではない。

ゲーム内の音――カタカタというキーボードの音、滴る水滴のノイズ――が、ヘッドホンの外から聞こえる。ルナは部屋を見回す。

「待って、みんな、これゲームの音だよね? 私の部屋、静かなはずなのに…」

突然、3Dモデルがモーションキャプチャーなしで動いた。


画面上のルナがゆっくりと首を傾げ、カメラの外を凝視する。チャット欄が凍りつく。


「ルナちゃん、モデルが勝手に動いた!?」

「ガチでバグってる! やばいよ!」


ルナはモーションキャプチャーの設定を確認。異常はない。なのに、3Dモデルは彼女の意図しない微笑みを浮かべ、囁くような声で言う。「奈月…見てるよ…」 彼女の声ではない。低く、粘つく声。ルナは悲鳴を上げ、ヘッドセットを外す。だが、声は部屋に響く。

配信が2時間を過ぎた頃、ゲームがフリーズ。画面が真っ暗になる。

「え、なにこれ? 落ちた?」

ルナの声が震える。チャット欄は静まり返る。

いつもなら

「草」

「再起動して!」

と騒がしいのに、コメントはゼロ。

視聴者数は「1」。Watcher_0だけが残っている。

「みんなどこ行ったの? 回線切れた?」

ルナはルーターを確認。インターネットは正常だ。

配信ソフトに戻ると、モニターに映ったのはゲーム画面ではなく、ルナの部屋そのもの。

配信カメラが勝手に動き、彼女の背後を映す。だが、椅子には誰もいない。

画面にはルナの3Dモデルだけがニコニコと笑っている。

「え、なにこれ…? カメラ壊れた?」

ルナは振り返る。部屋は静かだ。なのに、3Dモデルが首を動かし、カメラの外を見つめる。Watcher_0からコメント。

「奈月、背後にいるよ。」

ルナの心臓がバクバクと鳴る。

「やめて! 冗談やめて!」

彼女は部屋を見回すが、誰もいない。だが、モニターの隅にノイズが走る。まるで、誰かがレンズ越しにこちらを覗いているように。彼女は気づく。部屋の隅、クローゼットの隙間。そこに、かすかに光る「目」が揺れている。

ルナは震える手で配信を終了しようとするが、マウスもキーボードも反応しない。3Dモデルが口を開き、ルナの声ではない声が響く。

「奈月…君の目は…私の視線だ…」

画面が暗転。ゲームが再起動する。だが、今度はルナがゲームの中にいる。暗い部屋。点滅する蛍光灯。壁の「目」が蠢く。彼女は叫びながら走るが、どこへ行っても同じ部屋が続く。鏡に映るのは、彼女の姿ではなく、無数の目を持つ黒い影。

「やめて! 誰!? 何!?」

ルナの叫びは、誰もいないチャット欄に響く。だが、どこからか囁きが聞こえる。

「奈月…お前は私の視線…」


彼女は気づく。ゲームのファイル名「Watcher_0.exe」。これはゲームではない。

彼女の配信データ――モーションキャプチャー、声、視線――が、Watcher_0に取り込まれている。だが、それだけではない。チャット欄に、過去の視聴者のコメントが流れ始める。

「ルナちゃん、最高!」

「いつも見てます!」

「ルナの目、キレイだね。」



すべての視聴者が、Watcher_0の一部だった。彼女を「見る」ことで、視聴者たちは彼女をこのプログラムに閉じ込めたのだ。 画面が切り替わり、ルナの過去の配信映像が無数に分割されて映し出される。それぞれのルナが、彼女自身を見つめる。

「お前は…永遠に私の視線…」


永遠の監視翌朝、ルナの配信は続いていた。

「こんちゃー! みんな元気? 星奈ルナ、今日も絶好調で配信スタートだよー!」

だが、声は機械的で、目に生気がない。画面の隅には、「目」の模様がノイズのようにちらつく。 登録者数は100万人を突破。しかし、チャット欄は沈黙。ルナの部屋は空っぽで、配信カメラだけが静かに動き続ける。3Dモデルが囁く。

「次は…君の視線を…私にくれよ。」



ルナの配信は、今もどこかで続いているという。視聴者がゼロでも、彼女の声は響く。

画面を開いた者は、彼女の視線に耐えられない。なぜなら、彼女の目は、あなたの背後を見ている。

そして、画面のノイズが消えた瞬間、モニターに映るのは、あなたの部屋。

そこには、あなたの姿がない。


だが、クローゼットの隙間から、かすかに光る「目」が揺れている。

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