6."11 SAMURAIs" -c1 『風流』
-c1『風流』
11月も半ばにさしかかってきた。
紅葉もピークを迎え、あたりは色とりどりの景色である。
日は徐々に短くなって、五時過ぎの学校の廊下をオレンジ色に照らしていた。
空高く馬肥ゆる秋かな。
だが、流石にこのくらいの季節になると、あたりはすっかり肌寒い。
風もだんだん冷たくなってきて、冬がもうそこまで顔を出している気配である。
今の俺にはそれが憂鬱の種だった。
秋は好きだが、冬はあまり好きではないのである。
いつまでも秋だったらいいのに。
そう思うが、そんなことは四季折々進んでいくこの国で叶う訳はないし、むしろ叶ってしまったら駄目な気さえしてくる。
移ろいゆく中の秋。
それが良いのかもしれない。
そんなことを思いながら、俺は手に持っていたブレザーを羽織直して、窓から見える銀杏に視線を戻した。
授業が終わってしばらく経った後の廊下は、なかなか閑散としている。
皆さっさとクラブに行ったり帰宅したのだろう。
長い廊下には、俺一人。
誰もいないのは気を遣わなくていい。
俺は思う。
まるで“例の計画”のせいで再び訪れたドタバタな毎日で疲れた心をいやしてくれるようだ。
窓の外の銀杏の真っ黄色が、そんな思考に彩りを添える。
俺は静けさを存分に堪能。
普段の喧騒がまるで嘘のよう。
こんな静かで素敵な毎日をひそかに希望。
……あ、韻踏んだな、今。
なんだか今日は頭の中が風流な感じだ……。
そんなしょうもないことで可笑しくなった、その時。
俺は手元の携帯に振動を感じた。
携帯を開くと。
『休憩終わりしこと甚だし』
「…………、はあ。」
師匠まで風流で被せてくるとは思わなかった。
……もうそんなに経ったんですか、なるほど……。
画面に表示されたメールをみて思わずため息。
その一人和やかタイムを打ち破る勢いのある短文に現実に回帰、である。
儚い時間だった……まるで、どこかに行ってしまった俺の静かな秋のようだ……。
だが、まあ、仕方ない。
彼女も自分の時間を割いて付き合ってくれているのだ。
俺は首を振って風流な思考回路を振り払い、気合いを入れて向かいの図書室のドアを開けた。