5."Separate September" -d6 『擦違』
-d6『擦違』
それから俺は「いきなり何だったの?」という原野さんの言葉を上手くかわしながら、陽翔さんの模擬店回りに付き合った。
恐ろしいことに、陽翔さんは宣言通りに模擬店を全制覇した。
陽翔さんは終始楽しそうだったが、その高すぎるテンションに、俺と原野さんはもうすっかり疲れ果てていた。
そして。午後4時。
俺達三人は、朝話し合いを行った階段に戻ってきていた。
俺と原野さんは階段に座り大きなため息をつく。
その途端に今日一日の疲労がドッと降りかかってきた。
だが、一番騒いでいた陽翔さんは、もう本当に楽しそうに、鼻歌交じりで俺達の前に立っていた。
「セイくん、ユウヒちゃん!今日はありがとう!とっても楽しかったよ!」
使いすぎてしわくちゃになったパンフレットを握りしめながら、陽翔さんは俺達に笑顔を向ける。
…大変シャイニングである。
「…兄は本当に元気ね……。一番騒いでたのに……」
原野さんがゲンナリした顔で問うが、陽翔さんはシャイニングな笑顔のままで答える。
「全然疲れていないよ!今日一日、セイくんとユウヒちゃんと一緒にいれて凄く楽しかったからね!」
俺はその言葉に、一瞬で疲れを忘れた。
「俺もです」
思わず声がでた。
陽翔さんはいきなり声を出した俺を一瞬、驚いたように見たが、直ぐに笑顔に戻る。
「そうかい!それは良かったよ!!」
陽翔さんの言葉に俺も自然と笑顔になる。
俺達二人の会話を黙って見ていた原野さんも「……まぁ。あたしも、久しぶりに学校行事を全力で楽しめたし…。」と呟いた。
そして、原野さんは俺に視線を向ける。
「でも…マコト。巻き込んでごめんね」
続いて、苦笑い。
そんな、巻き込んだなんて!
俺は慌てて言う。
「いえ!原野さんと陽翔さんと一緒にいれて楽しかったですから…!それに俺も…二人といないと全力で楽しめなかっただろうし…」
言葉が上手く繋がらなくて焦る俺を見て、さっきまで渋い顔をしていた原野さんの表情が緩んだ。
「…ふっ」
彼女は吹き出したように笑う。
それにつられて陽翔さんも吹きだした。
俺はどうしたらいいか分からなくなったが、二人につられて笑顔になった。
すると、陽翔さんが何かを思い出したかのように「あ」と声をあげる。
「セイくん!昨日メールでいっていた、じちゃクエは持ってきた?」
「あ!はい」
俺は陽翔さんに言われるまで忘れていたゲーム機をポケットから取り出す。
「今日一日ずっと電源つけてました!」
「そうかい!僕もだよ!」
陽翔さんも、キラキラした瞳で答え、自分の鞄からゲーム機を取り出す。
原野さんは俺達二人の会話を聞いて不思議そうな顔をする。
「ねぇ。どうしてゲームしないのに、電源をつけたままにしてるの?ただの電力の無駄遣いじゃない。」
「違うよ!ユウヒちゃん!」
「…なにが…?」
確かに原野さんの言っていることは正しいが。
…なのだが、この場合は違う。
「違うんですよ、原野さん!!」
「だから…何がよ!」
陽翔さんは自分のゲーム機を原野さんの目前に掲げる。
「このじちゃクエⅦはね、新機能がついているんだ!その機能がね、すれ違った人と勝手に通信できちゃう!っていう優れものなんだよ!!」
「すれ違い通信ですよ!原野さん!!」
「……はぁ」
まだあまり理解していない様子の原野さんに陽翔さんは「これを見て!」といい画面を見せる。
そこには学校ですれ違ったであろう、プレイヤーの名前とそのキャラクターが並んでいた。
それを見た原野さんは興味なさげに「……ふぅん」と呟く。
その反応に「もうユウヒちゃんは!」と陽翔さんは叫ぶ。
「セイくん!ユウヒちゃんは昔から僕がゲームの話をしてもこんな反応なんだよ!!」
「だってしょうがないじゃない。兄のゲームの話、よく分からないんだもん」
「もったいないですよ、原野さん!」
俺も思わず叫ぶ。
…いや、本当にもったいないと思う。
俺は一人っ子故、こんなゲーム好きなお兄さんがいたら…と思うと、本当に羨ましい。
だが原野さんは「…そんなこと言われても」と不服そうな表情を浮かべていた。
俺は自分のゲーム画面を見る。
陽翔さんの画面と同じようにたくさんのプレイヤーの名前とそのキャラクターが出た。
俺はどんどんスクロールさせ、今日一日、学校内ですれ違った履歴を見ていく。
すると、ある所で今まで流して見ていた俺の手が止まった。
そこにいたキャラクターは今まで見てきた履歴の中で一際、イケていた。
プレイヤー名:ケイト
とかかれたそのキャラクターは黒髪に赤のメッシュが入った、何ともイケメンなお兄さんであった。
俺は思い出す。
……こんな感じの人といつすれ違ったんだろう?
あ……いや、でもこれは自分で髪の色や顔立ちまで決めることができる。
俺と陽翔さんは割と自分に似せてつくっているが、自分で好きなキャラクターをつくってプレイしている人も多いだろう。
だから、決してその人自身って訳ではない…けれど。
もしこのキャラクターが架空の人だったとしても、考えた人はかなりセンスいいな…。
そんなことを思いながら、俺はまだ言い合いを続けている陽翔さんと原野さんに参加した。