5."Separate September" -c3 『良報』
-c3『良報』
「はぁ~…」
「もう無理……」
「またあと1日これをするのか……」
教室中にため息が聞こえる。
俺もそれに交じってため息をつく。
何とか終わった文化祭1日目。
まだ1日目なのに、もうすでにみんな疲れ果てていた。
……まさか、こんなにも文化祭がハードなものだとは思っていなかった。
谷口さんから頼まれた買い出しは凄い量で…それを速攻で彼女に届けなくてはならなかった俺達は、本日二回目の全力疾走をしたのだった。
そして、帰ってきたらすぐに店番…というハードスケジュールだったせいで、俺達四人は他の人にも増してヘトヘトだった。
矢吹に至っては、もう教室の床で眠ってしまっていた。
そんな空気の中に谷口さんが戻ってきた。
彼女が戻ってくると、みんなは顔をあげる(矢吹は眠ったままだったが)。
谷口さんが軽く今日の反省会と明日のことを連絡し、今日は解散になった。
ヘトヘトになったみんなはすぐに帰って行った。
床に転がっていた矢吹は篠原と末永に頼んで連れて帰って貰った。
委員の谷口さんと俺はまだ残って作業をしなくてはならなかった為、まだ帰れなかった。
早く帰りたかった俺は、手早く教卓で予算の計算をしていた。
すると、谷口さんが俺に「はい」と何かを差し出した。
俺は視線をそれに向ける。
それは綺麗にラッピングされたクッキーだった。
俺は彼女を見る。
「料理部のお店で売ってるんだけどね…。でも、まことくんには…わたしが作ったものを、わたしておきたかったから……」
そう言い彼女ははにかんだ。
俺は早くなる鼓動を抑えながら、それを受け取る。
「あ、ありがとう」
その言葉に彼女は笑うと、教室を出て行こうとする。
だが、一瞬立ち止まって、もう一度振り向く。
「…まことくん。今日まで、たくさん頑張ってくれたから、明日は一日仕事しなくていいからね。」
「え…谷口さんは?…明日、仕事するの?」
「…わたしは…一応店長だから。でも…昼からは、おやすみしていいよって、みんなが言ってくれたの。」
「…そっか…」
沈黙が流れる。
俺は迷った。
ここで谷口さんを誘うべきか…。
ヴーーヴーーヴーー
……タイミングが良いのか悪いのか。
いつもは滅多にならない携帯が鳴り響く。
俺はポケットから携帯を取り出した。
その様子を見て谷口さんは、少し寂しそうに微笑むと「まことくん、その計算がおわったら、帰ってくれていいからね。」と言言い残し、教室を出て行ってしまった。
俺は去っていく谷口さんを見送る。
なんだかよくわからないもやっとした気持ちだけが残った。
ほんと、タイミングが悪いな、俺の携帯よ…。
もやもやを喉のあたりに持て余しながら、携帯を開く。
画面には“原野陽翔”と表示されていた。
その名前に一気にテンションが上がった。
陽翔さんだ!
さっきと打って変わってウキウキとした気持でメールを受信する。
『文化祭1日目、お疲れ様(^0^)/
僕は今日、旅行から帰ってきました(´∀`)
明日は文化祭行くね!
じちゃクエも持って行くからね!!』
メールの内容に俺は嬉しくなった。
……明日は久しぶりに陽翔さんに会える!
そう思うと、計算のスピードも上がった。