5."Separate September" -c2 『友情』
-c2『友情』
……いや、凄いとしか言いようがなかった。
本当に凄まじくクオリティーが高くて… 。
...やっぱり、流石です。師匠。
俺達4人は教室から猛ダッシュしたおかげで、息も絶え絶えで汗だくだったが、何とか滑り込みセーフで体育館についた。
そして、1組の劇はすぐに始まったので、適当に座って見た訳だが……。
いや…本当に凄かった。
正直、師匠の演技力には驚いた。
あなたは本当に何でも出来るんですね…。
俺は頭の中で師匠の雄姿を思い出しながら、グラウンドへと続く外階段の端に座り一服していた。
他の三人はというと…
「誠のおかげで店番抜けだせたしな!しゃーねー!!オレっちが奢ってやるよ!」と矢吹。
「中澤!ほんとにありがとう!昼飯買ってくるからここで待ってろよ!」と篠原。
「取りあえず適当に買ってくるね」と末永。
そんな訳で、俺は一人で三人の帰りを待っていた。
師匠に対して再度尊敬の念を抱いていると、三人が戻ってきた。
「まことー!」
そう叫んだ矢吹の手にはたくさん袋がさげられていた。
三人は俺を囲むように腰かける。
そして、矢吹から焼きそばとホットドック、篠原からカステラとみたらし団子、末永からジュースを受け取る。
持ちきれなくなった俺は落ちないように、階段に置く。
「…すごい沢山、買ってきたな」
「明日もあるからって止めんたんだけどね。」
俺の言葉に末永は苦笑しながら答える。
「なぁーにを言ってんだ、すえ!!今を精一杯生きないでどうすんだよ!!」
「その通りだな。明日食べようと思ってても、時間が無くて食べれなくて後悔すんの嫌だろ?」
矢吹と篠原の言葉に末永は「そうだね」と適当に相槌をうつ。
末永彰人。
彼は入学当初から篠原といたイメージが強い。
出席番号が前後だった二人は、クラスのみんなからはセットで見られることが多いのだ。
今まであまり話したことは無かったが、彼は同級生にしてはとても落ち着いていると思う。
口調といい行動といい。
俺はホットドックにかぶりつく。
うん…なかなか美味しい。
すると、篠原が焼きそばをすすりながら話始めた。
「それにしても…ズッ…やっぱり…ズゾゾゾッ…原野はんはふごかったよな。」
「…篠原。話すなら、焼きそばを食べ終わってからにしなよ」
末永の言葉に篠原は頷き、ジュースを流し込む。
そして、もう一度話し始めた。
「中澤。本当、ありがとな!俺、ほんと原野さんのファンだからさ。見れて良かったよ」
篠原の言葉に俺は頷く。
...本当に俺の周りは感情をストレートに出す人ばかりだ。
俺はホットドックを食べ終え、次は焼きそばを食べ始める。
すると、今まで黙々と食べていた矢吹が話し始めた。
「やっぱ流石だよなー、原野!あいつ小学校の時から劇とかすると、ぜってー主役やんだよ!あ、もちろん推薦だけどな!そんで、すんげー演技するから、また一段とみんなの人気者になんだよ!」
「やっぱり原野さんは凄いな!」
「おう!あ、そういや幼稚園の時も主役やってたよーな…」
「へー。矢吹と原野さんが幼馴染って噂、本当だったんだね」
「あったり前だろー!?でも、幼馴染っていうか腐れ縁ってやつだな!」
「幼馴染でも腐れ縁でも!原野さんとずっと一緒っていうお前が羨ましいよ…。俺なんか、彼女の視界にも入ってないだろうから…」
篠原ががっくり肩を落とす。
矢吹はそんな篠原の背中をばんっと叩いて、二カっと笑った。
「なーに落ち込んでんだよ!!俺なんて12年間一緒だってのに、高校でクラス離れたから忘れかけられてたんだぜー!?」
矢吹はかははと笑う。
そんな彼らの会話を聞いていた俺に、末永が声をかけてきた。
「中澤ってさ、凄く固い奴だと思ってたよ。」
「え…?」
「あ、俺も。融通がきかなくて、冗談の通じないクールタイプ。」
そう言い篠原は俺をみたらし団子で指し「でも」と続ける。
「さっき一緒に全力疾走して“あぁ、こいつ全然そんなことないな”って思った」
篠原はみたらし団子を頬張る。
俺は焼きそばを食べながら、その言葉にどう反応するべきか考えていた。
すると、カステラを食べ終わった矢吹が口を開いた。
「確かにな、誠は一見クールに見えるよな!でもまぁ、あんまりそんなこと無いんだけどな!!」
…喜んでいいのだろうか?
「うん。でも、今日で分かったよ。なんで矢吹が中澤を気に入っているか。ね、篠原。」
「あぁ。お前って、案外おもしろいかもな」
「すえ!篠原!!分かってんじゃねーか!!」
そう言い、矢吹が篠原の背中をばしばし叩く。
みたらし団子を食べていた篠原は激しくせき込んだ。
「何で俺だけだよ!」
「いやー、たまたまお前が近くにいたからな!!」
矢吹はまた笑って篠原を叩く。
末永はそんな彼らを見て笑っていた。
俺は昔から、人前に出ることが苦手なだけなのにクールと勘違いされ、友達からは一線引かれていた。
最初はそれが寂しかったが、もう慣れてきていた。
だから、友達からこんなことを言われるとは思っていなかったから、凄く驚いた。
それに、やっぱり嬉しかった。
温かいものがこみ上げてきて、一気に残りの焼きそばを口に入れた…その時だった。
ヴーーヴーーヴーー
ポケットで携帯が鳴り響いた。
俺は慌てて携帯を取り出す。
開くと谷口さんからの着信だった。
俺はジュースで焼きそばを一気に喉へと押し込む。
そして、電話に出た。
「もしもし」
『あ…もしもし、まことくん?』
「はい」
『あのね、今どこにいる?』
「今は…外階段のところ。…どうかした?」
『あ…えっとね。今、色々切れちゃってて…。今から買い出したのんでも、いいかな?』
「あ…いいよ。今、矢吹と…篠原と末永も、一緒にいるし…」
『ほんと!?よかった!じゃあ…』
「あ…ちょっと待って」
俺は谷口さんを止め、三人の方を向く。
すると、三人も俺を見ていたようで、すぐに目が合った。
「…今から言うこと、メモるか、暗記して欲しい。」
俺の唐突な発言に矢吹と篠原は「任せとけ!!」「よし!」と暗記する気満々だったが、末永が「携帯にメモるよ」と言ったので、俺は彼に頷いた。
そして、文句を言う矢吹と篠原を余所に、俺は末永に谷口さんから伝えられた買い出しするものを伝えたのだった。