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Contrast  作者: WGAP
5."Separate September"
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5."Separate September" -b2 『経過』 

-b2『経過』



教室内に活気のある空気が広がっている。

机は前後左右に固められ、真ん中に大きなスペースが空いていた。

クラスメイト達がそこで楽しそうに作業をしている中、俺は教室の前方に寄せられた教卓で、予算の経過報告書を書いていた。


すると、俺の前で作業をしている男子達が話し始めた。


「1組の劇さぁ、原野さんが主役だろ?だからさっき覗きに行ったんだけどさぁ、1組の奴らドアもカーテンも閉め切って練習してんだよ…。折角、原野さんを見に行ったのに…」


その言葉に、ぼーっと報告書を書いていた俺の手が止まった。

どうやら原野さんの話題のようだ。


「まじ!?なんだよ…じゃあ本番しか見れないのか…。あー、俺も原野さんと同じクラスが良かったな…」

「ほんとそれだよなー。どうにかして、原野さんとお近づきになりたいもんだよ……。」

「いやぁー、お近づきは無理だろ…?矢吹曰く、“原野はあんまり人とつるまねぇからな!”だから。認識されて良いとこじゃないか?」

「……だよなー。」



……原野さんとの関係がばれたら、俺は何人の男子を敵に回すことになるのだろう…。

…そんなこと恐ろしくて考えたくもなかった。

だが、この話を聞いて再認識したが、やっぱり。

原野さんが俺と(いくら修業の為とはいえ)出かけたり、放課後あったりしてくれているのは本当に珍しいことのようだ。

あまり人とつるまない原野さんと(師弟関係だが…)仲良くさせてもらっている俺はラッキーなのかもしれない。



…そこで俺は気づく。

……そういや、師匠からメールが返ってきていないな。

昼休みの会議の後、俺は師匠にすぐにメールをした。


『劇の方、どうですか?俺の方はまずまず順調です。』


シンプルなメールだが、俺なりに考えて送ったつもりだ。

まず、師匠は疑問形でないと返信をしない。

これをわきまえて、きちんと疑問形の文章を作った。

そして、自分のことも一応報告した。

……なのに未だに何故か、師匠からメールは返ってきていなかった。



俺はポケットから携帯を取り出す。

それを開けて確認してみたが、やはり返事はきてなかった。

……やっぱり主役だけあって忙しいのかな?

そんなことを考えていると、珍しく矢吹の困った声が聞こえてきた。



「…あー、でもなー…一階だよ?ここ四階だよ?それに重いよ?」

俺は矢吹に視線を映した。

矢吹は教室の扉にもたれかかりながら、廊下にいるのであろう誰かと話していた。

「……んー…でもなー……。流石に女子一人に行かせるのは……」

そう言いながら矢吹はくるっと振り返り、教室内を見渡した。

困った顔で視線を動かす。

すると、矢吹の視線と矢吹を見ていた俺の視線がぶつかった。


その途端、矢吹の困った顔は一変、にこやかな……いや、にやけた笑顔になった。

何だかその顔に嫌な予感がした俺は咄嗟に顔を逸らした。

だが矢吹は(見ていないから分からないが、きっとにやけたあの顔で)俺に近づいて来て、ぽんっと肩に手を置いた。

そして何故か小声で俺に話し始める。


「…誠よ。こんな所で一人で報告書書いてるのなんて楽しくねーだろ?だ・か・ら!お前にもっと楽しくてドキドキしちゃう仕事を、オレっちがもってきてやったぜ!!!」

矢吹の言葉に、お前は何様だよ…、と思いながらも相槌をうつ。

「…なんだよそれ……」



 俺の言葉に矢吹は満面の笑みを浮かべた。

そして、矢吹は俺の腕をガシッとつかみ、「まあまあ、来たら分かるって!」と廊下へ引っ張っていく。

矢吹につかまれていた腕がいきなり解放され、一瞬バランスを崩しかけた俺は体勢を整える。


 前を見ると。

そこには驚いたように俺を見上げる谷口さんがいた。



「谷口さん!誠も一緒に行ってくれるってさ!!」

その言葉に俺は固まる。

……なにを言っているんだ矢吹。


 俺は矢吹に精一杯の冷たい視線をおくった。

…が、矢吹は何を勘違いしたのか、俺と目が合うと、“頑張れよ!”と言わんばかりに親指を立て、鼻歌交じりに廊下を駆け抜けていってしまった。

……って、お前どこに行くんだ。

そんな矢吹の後ろ姿を相変わらずの冷たい眼差しで見つめていると、谷口さんが口を開いた。



「あ…あの、まことくん…!わたし一人で行ってくるから、大丈夫だよ…!」

彼女は焦ったように、俺に向けて一生懸命手を振ってくる。

だが、無責任な押し付けをしてきた矢吹のせいで全くもって何も分かっていない為、今はとにかく状況を把握したかった。

「…あの…ごめん。行くって、どこに?…何をしに…?」


俺のその言葉に谷口さんは「え?」と首を傾げる。

その様子に胸が高鳴るのを抑えながら、答える。



「あー…えっと……矢吹に、いきなり連れてこられただけだから……。…状況が、把握、出来てないんだ…」

谷口さんは「そうなんだ!」と、まん丸い目を大きく見開いた。

「えーっとね、“クラスTシャツが出来上がったので、校門まで取りにきてください。ってさっき店のひとから連絡があった”って矢吹くんがおしえてくれてね、みんなほかの作業をしてたから、わたしが“一人で取りにいく”っていったの。そうしたら矢吹くんが“一人だと大変だ”って…。…それでまことくんを連れてきてくれたの。」



 なるほど…そういうことか矢吹…。

またお前の『余計なお世話』ってやつだな…。


深いため息をつく。

そんな俺に谷口さんはまた慌てたように話し始めた。

「でも、本当にひとりでだいじょうぶだよ!だから、まことくんはもどって?」

悔しいが…矢吹の言う通りだ。谷口さんじゃなくても、クラスTシャツ40人分を女子一人で取りに行かせるのは酷だろう。

矢吹の思惑通りになるのはムカつくが、今はそんな俺の感情よりも谷口さんの方が優先だ。



「…俺も、いくよ。……谷口さん一人じゃ…矢吹の言うとおり、大変だから……」

その言葉に、谷口さんは「いいの?」と聞いてくる。

俺は彼女の言葉に頷く。


 すると、彼女は「ありがとう!」と満面の笑みを向けてくれた。






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