5."Separate September" -b1 『会議』
-b1『会議』
九月下旬。
まだまだ暑い日が続いている。
文化祭まであと二週間を切った今、だんだんと文化祭の準備にも熱が籠ってきていた。
我が鷹尾高校は行事ごとになると、かなり熱くなる傾向がある。
それはどんなに小さな行事であっても、だ。
その為、学校1盛り上がる行事…文化祭においては、もう既にかなりの盛り上がりを見せていた。
だが、文化委員補佐役の俺はここまでこれといった仕事はしていなかった。
ほとんどの仕事を谷口さんが一人でこなしてくれていたからだ。
そのおかげで俺は、放課後もいつもよりは遅いといえども、まだ夕方といえる時間には家に帰りつけていたし、文化祭だからといって忙しくは無く、割といつも通りの日々を過ごせていた。
……が、彼女一人に背負わして自分だけ楽をしていると知り、流石の俺でも“これでは駄目だ”と思い、本格的に忙しくなり始める今、“せめても”と遠慮する彼女を押し切り、文化委員の会議に来ている。
……はずなのに…今の俺は前でまじめに話している文化委員長の話は全く耳に入ってきていなかった。
「ねぇ??言ったでしょ!」
「本当だ…。初めて見たけどカッコイイね~!」
「初めてとか遅くない?わたし、入学式から中澤くんのこと知ってるもん♪」
「え~!?すごいね…。…でも、年下無理!…とか言ってなかったっけ?」
「中澤くんならいいの!!あ!あとでメアド聞こうっと♪」
さっきから、こんな感じの会話が四方八方から耳に入ってくる。
俺は、軽くため息をつき隣を見た。
隣では、髪の毛を揺らしながら一生懸命メモをとっている谷口さんの姿があった。
あぁ、結局任せっきりだな…。
折角谷口さんの補佐役としてきちんと補佐をしようと、無い勇気を振り絞り「…俺も、会議…行くよ」って言ったのに…。
だけど、補佐どころか何も出来ていない。
……こんなことでは、師匠に怒られてしまう…。
………。
……ん?
そういや、鷹尾神社で話して以来、師匠からいっさい連絡が来ない。
確かに“修行の頻度は減らす”とは言っていたけれど…。
こんなに連絡が来ないことは珍しかった。
やっぱり主役だけあって忙しいのだろうか。
……後でメールでもしておこう。
思考を巡らせていると、トントンという音と共に俺の頭に声が飛び込んできた。
「…では、何か質問がある人?」
文化委員長が一通り説明を終えた様子で、プリントの束を教卓の上で整え教室を見渡していた。
今までうるさかった人達も、こういう時は静かになる。
その様子を見て、文化委員長は口を開いた。
「次の会議は一週間後、また昼休みに生物準備室で行います。今日配った予算の経過報告書、そして、もしこの一週間で疑問や質問ができたら、次の会議の時にお願いします。では、解散。」
そう言い会議を終了した。
俺はその声とほぼ被る勢いで席を立つ。
そして谷口さんに「ごめん。…先、行くね…」とだけ伝え生物準備室を後にした。
その理由はただ一つ。
会議中に俺の話をしていた人達との接触を避ける為だった。
彼女達にメアドなんて聞かれたら最後。
……それこそ中学の時の二の舞である。
もうあんな恐怖体験はしたくない。
しかし、文化祭まであと二週間弱。
……一週間後と言わず、まだ会う機会はありそうだ…。
俺は深いため息をつく。
……やはりここは師匠に策を考えて貰おうかな…。
そんなことを考えながら俺は廊下を人目を避けて駆け抜けた。