表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Contrast  作者: WGAP
5."Separate September"
63/138

5."Separate September" -a5 『許容』 

-a5『許容』




 現在時刻は5時15分。

集合時間は5時。

俺は15分遅れで鷹尾神社に到着した。



 完全に息が上がっている俺。

…そして目の前には…私服ですべり台に隣接しているジャングルジムにもたれかかっている原野さん。

黙ってこちらを見ている。

……見ている。



 「…メール、見たわよね?」

「…はい。」

……怖い。

先月の出来事がフラッシュバックしてくる。

なんで俺はこう、師匠を怒らせてばっかり……。


「遅刻厳禁よね?」

彼女がそう言ったので、俺はその台詞にかぶせるように

「すみません!!!」

と謝った。

これしか方法が思い浮かばなかった。


「……まぁ、いいけど」

そう言い、彼女は汗だくの俺からふいと視線をそらす。

そして、ジャングルジムから降りると、鷹尾神社の入口のほうへ歩いて行ってしまった。


 ……やばい。

これは本格的に怒らせてしまった。

頭の中では、一ヶ月前の陽翔さんの家での出来事がフラッシュバックしている。

…いや、これは本当にやばい…。

今は陽翔さんもいない。

一人でこのピンチを切り抜けなくてはならない。


 谷口さんと別れてからの俺のスピードは、凄かったと思う。

恐らく、16年間生きてきて1番の走りだった。

タイムを測れば今までで一番速かっただろうに…と思うくらい。

この時ばかりは周りの反応を気にしている余裕など無かった。

だから、学校の生徒達の驚きの声なんて俺には…。

……いや、ばっちり聞こえてたけど…。

あぁ…明日学校に行くのが憂鬱だ…。


 いや、今はそんなことどうでもいい。

師匠はおそらく帰ってしまった。

追いかけないと。

追いかけて謝って……許してくれるだろうか……。




 そんな時。

じゃりっと、後ろから足音が聞こえてきた。


 師匠が帰ってきた?!

まだ家に帰った訳じゃなかった!


 俺は、勢いよく振り返り、思いきり頭を下げた。

「本当に、遅れて、すみません!」

最良の方法を実行する。

もう腰の角度が90度を超えるくらい頭を下げていた。



 「…はあ。」

頭上でため息が吐かれた。

頭を下げている為、彼女の表情は分からない。

俺は次の言葉を待つ。

どんな言葉も甘んじて受ける覚悟はある……!



 だが、彼女の次の言葉は。

「…いいって言ったじゃない。別に怒ってないわよ。それにマコトを見れば、走ってきたことも分かるし…」


「……へ?」

思ってもみなかった師匠の返答に、間抜けな声がでる。

顔をあげると、なんだかあきれ顔の原野さん。


 そして彼女は、俺に右手を突き出した。

「はい。」

その手には、ジュースが握られていた。

何が何だかわからない俺にそれを渡すと、彼女はまた、ひょいっとジャングルジムに飛び乗り座る。



 俺は、師匠からもらったジュースを見つめ、感動していた。

まさかこんないいことがあるなんて。

…あぁ、全力で走ってきて良かったな。

大袈裟かもしれないけど、人間頑張れば必ず良いことだあるんだな…。




 俺がそんなことを思っていると、いきなり手元からジュースが奪われた。

……え?!

俺はいきなりのことに目を見開く。

まさか、『渡しただけでした』とか言うオチ……?

またジャングルジムから降りてきたのか、目の前の原野さんは、俺から奪ったジュースを片手に、なんだか照れているような怒っているようないぶかしんでいるような微妙な表情をして立っていた。


 「…別に毒なんて入れてないわよ。飲まないならあたしが飲むけど…」

そう言いキャップを開けようする。

俺は慌てて、原野さんからジュースを奪い返す。

そして、

「飲みます!飲みます!!ありがとうございます!ほんと!!」

ジュースをさらに強く握りしめた。

テンションが急上昇していくのが分かった。



そんな俺を見て、彼女の微妙な表情が和らいで。

「……ははっ!」

原野さんは吹きだしたように笑った。





 俺は原野さんの優しさに感動しながら、一口ジュースを飲んだ。

何故かいつもより美味しく感じるなあ。

俺はぼーっとそんなことを思った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ