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Contrast  作者: WGAP
5."Separate September"
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5."Separate September" -a1 『強行』 

-a1『強行』




 『今年度は秋が飛んで、夏から冬になるでしょう』なんて恐ろしいことを天気予報が言っているらしい、九月上旬。

八月の終わりに二学期に突入してからもう二週間ほどが経過し、俺はすっかり学校の感覚を戻しつつあった。

だが、天気予報が言うように外はまだまだ真夏の陽気。

太陽はまだこれでもかという位真上から照りつけてくるし、気温はまるで当然とでも言うように35度を超えてくる。

これはもはや“残暑が厳しい”なんてレベルではない。



 だがしかし。

誰が何と言おうが、矢吹が教室で『まだ俺の夏は終わってねえ!』なんて叫んでいようが、世間の流れはもう秋である。

気の早い雑貨屋さんなんて、もうハロウィングッズを店に並べ始めているのだ。


秋は良い。

一番過ごしやすい季節だ。

食欲の秋、食べ物の秋、読書の秋、芸術の秋、………そして、そう。

学生にとっては、文化祭の秋。



 我が鷹尾高校でも、10月中旬付近に行われる文化祭、『鷹尾祭』に向けての準備が着々と進められていた。




 俺は今、教室の窓際の一番後ろというベストポジションにある自分の席に座っている。

もう机の中に沈み込むくらいの勢いで、椅子に深く腰掛けて、ぼーっと考えごとをしていた。

この場所は一人で物思いにふけるには絶好の場所である。

なんせ、一番後ろの席なのでクラスメイトからの視線がない。

太陽の日差しが少々暑かったが、これもカーテンのおかげで何とか弱まっている。



 俺はぼんやりと前を見る。

考えごとの、論題は。

……教卓の前に立ってはきはきと鷹尾祭のクラスの出し物を決めるための進行を行っている、谷口和についてだった。




 鷹尾祭りに行ったあの日から、谷口さんと以前よりは会話をするようになった。

まぁ、以前の会話ゼロの時点と比べて、ではあるが、それでも進歩は進歩である。

お祭りの時に頑張ったおかげか、俺も少しは谷口さんに普通に話せるようになったし、谷口さんも俺に気さくに話しかけてきてくれるようになっていた。



 だが。

お祭りの最後の何となく気まずいような雰囲気は、まだ俺たちの中に残っていた。

何が具体的に気まずいというのはないのだけれど、漠然と気恥ずかしいような空気が消えないのである。

これが、谷口さんとの会話がいまいち弾まない原因となっていた。



 『それはきっと、お祭りの時に何か中途半端なことをしたせいね。』と、我が師匠、原野唯陽はこの現象を分析する。

『貴方、彼女が悩むような、何か中途半端なことしたんじゃないの?』


………心当たりが無いわけではなかったが、当にこれに違いないという確信もなかったので、俺はこの指摘の解答は出さなかった。





 目の前で谷口さんがハキハキと話している。

谷口さんはクラスの文化委員を務めており、鷹尾祭の準備に熱心に取り組んでいるようだった。

もう早くもクラスの出し物は決まり、後は、文化委員の補佐をするお手伝いを一人、選出するという項目だけが残されていた。



 「このお仕事、きっと楽しいとおもうの。だれか、いっしょにやりませんか?」

谷口さんが前で一生懸命喋っている。

俺はさっきから全く進行を聞いていなかったので気づかなかったが、どうやらなかなか立候補は出ていないらしかった。



 そりゃ、きっとみんな、面倒くさいのだろう。

俺もそれは痛く理解できた。

文化祭は大変である。

必ず一度はクラスがもめるし、喧嘩が起きたりもする。

そして、こんな問題が起きないために一番重要なのは、これをまとめて仕切る人なのだ。

それに加えて、仕切り役は忙しい。

文化祭前は皆忙しくなるのに、それに輪をかけて忙しいのだ。



 自分には出来ないな、と、俺は思う。

“谷口さんの補佐”というのは少々気になるところだが、俺には師匠との厳しい修行が待っている。

これと補佐を両立できる自信は無い。


……そこでふと俺は思い当たる。

そういえば最近、修行がない。

原野さんも鷹尾祭の準備で忙しいのだろうか。

後でメールしてみないといけない。




 「これさあ、誠が補佐やったらいいんじゃねーの!?」


いきなりだった。

俺の思考はぶちっと切られた。

ガヤガヤとしていたクラス中に、矢吹の大声が響き渡ったのだ。


………はあ?!

俺は思わずガタッと椅子の上でずっこけた。

「な…………!!」


「だからさー、誠がやったら丁度いいんじゃね?谷口さんとも家近いしさ、帰りが遅くなっても二人で帰れるから安心じゃん!」

教室の丁度中央あたりに座っている矢吹は、いつもに増して大声でクラスに呼び掛ける。

俺はいきなりのことに何が起こっているのか理解がついて行かない。

そんな俺のわずかな抵抗など、矢吹の言葉に口ぐちにささやき始めたクラスメイトたちに届くはずはなかった。


「……確かに。」

「中澤だったらちゃんとするだろうし……」

「まあ……のんちゃんなら幼馴染だし……中澤君でも……」

「わたしも文化委員やればよかったかも……」




 予想外に次々と聞こえてくる肯定の声。

俺はもっとパニックになる。

ちょ……ちょっと待て!!!


「ちょ、ちょっとみんなっ、そ、そんな、迷惑だよ、おしつけちゃ」

谷口さんも、もうすっかり慌ててしまって、教室の前で一人、わたわたしている。

だが矢吹はそんなことは些細なことは気にしない。


「いいのいいの!誠だったら大丈夫だって!」

クラス中の賛成のささやきに満足そうにうなずくと、矢吹は言った。


「んじゃあ、決定だな!」



そしていつものように、カハハと笑って。

俺を振り返り、得意げな顔を向けてくる矢吹。

こちらに向けてグッと、親指を立てている。




 ……なるほど、これが『余計なお世話』というやつなのか。

と、俺は身にしみて思った。





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