4."Odd August" -c6 『後夜』
-c6『後夜』
『今日はありがとう。とても楽しかった! おやすみなさい。』
谷口さんからこんなメールが来たのは、俺たちが互いの家に入ってしばらくした後だった。
風呂から上がったばかりだった俺は、携帯を握りしめ、そのままベッドにダイブした。
蒲団はいつもよりふかふかしているように感じられて、俺はその中にじっと疲れた身体をうずめる。
あの後。
花火を見終わった俺たちは、そのまま何もなく、帰路についた。
何となく気まずいような雰囲気が流れていた。
明るいところへ行っても俺は谷口さんを直視できなかったし、谷口さんも俺の目を見ないようにしていたように思った。
俺はゴロンと仰向けに寝がえりをうつ。
広がる安堵感。
俺は初めて、自分が少しホッとしていることに気がついた。
俺はあの時確かに、告白しようとした。
あの空気の中で、確かに。
だが、今思えば。
もしあの時伝えてしまって、失敗していたら。
………俺は顔からサッと血の気が引くのが分かった。
花火があのタイミングで上がって、よかったのかも知れない。
俺はそう思うことにした。
後先考えない行動に出なくてよかったと、思おう。
“もうあんなチャンスはないかも知れないのに”なんて、思っては、いけない。
俺は静かな安堵感の底から吹き出しそうになる後悔を、押しこめた。
俺は立ち上がって、部屋の電気を消す。
今日はもう、寝よう。
今日はいろいろなことがあった。
俺の思考はもう回らない。
明日、師匠に報告のメールをして。
いろいろ考えるのはそれからでも遅くはないだろう。
眠りに落ちる前。
ふっと、俺は思い出した。
花火が上がる直前、聞こえたあの言葉を。
『マコトとは、冬までの付き合いって契約してるんだから。』
なぜあの時、俺はこの言葉を思い出したのだろう。
何故、俺は………。
底なしの眠りに引き込まれて、それから。
夢の中に現れたのは、“疑問”だけだった。
To be continue….