4."Odd August" -b1 『進行』
-b1『進行』
つまり、原野さんの計画はこうだった。
決戦の鷹尾祭りにおいて、俺と谷口さんが参加する予定の二日目に矢吹が祭りにやってくれば、矢吹に見つかって計画が大幅に狂う可能性がある。
だからと言って、矢吹に「二日目の鷹尾祭りには来ないでね」なんて直接言えるはずはない。
そこで、だ。
一日目に祭りに参加せざるを得ない状況を作れば、二日目には流石に来ないのではないか…?
師匠はこう考えたのである。
他の人をけしかけるのは少々手間と苦労が多かったため、ここはシンプルに、と、師匠は自らが『一日目に矢吹を誘う』という行動にでた。
……だがしかし、彼女の想定の範囲だけでことは動かなかった。
矢吹が想像以上にこの誘いを喜んだのである。
想像力豊かな矢吹にとって、『思春期の男女が二人きりで祭り』なんて状況は歓喜対象以外の何物でもなかったのかも知れない。
あの日から、原野さんの携帯には、矢吹から毎日大量のメールが送られてくるようになった。
これには原野さんも流石に面喰って、「……ちょっとあの計画は変な誤解を生みかねなかったわね……軽率だった…。」と渋い顔をしていたのだが、何はともあれ。
これで矢吹対策はひと段落。
心配の種が一つだけ消えたのだった。
一方、肝心の谷口さん。
こちらも何とか、ぎこちないながらもメールのやり取りを続け、彼女と具体的なアポイントを取ることができた。
これは原野さんの協力もあってだったが、俺も何とか頑張った。
まだ、どんな反応が返ってくるか怖くて、メールがきてもしばらく開けないのことが多かったのだが……。
それでも、送ることさえできなかったことを考えると大きな進歩だと思いたい。
時間は刻一刻と、飛ぶように過ぎていく。
陽翔さん宅で計画を立てて、作戦を練って、指示を受けて。
谷口さんからのメールにビクビクして師匠に怒られたり、原野さんが矢吹からのマシンガンメールに頭を抱えたり、陽翔さんに昼ごはんを御馳走になったり、ときに修行と称してトランプをしたりして。
あっという間に。
俺は、鷹尾祭り当日をむかえた。