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Contrast  作者: WGAP
1."A May-day"
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1."A May-day" -a5 『翻弄』

-a5 『翻弄』




 教室ではもう掃除が始まっており、ガヤガヤとしたにぎわいに包まれていた。

俺の通っている高校には朝礼と終礼がなく、担任からの連絡事項などは昼休みと5限目の間に設けられたST(ショートホームルーム)の時に行われる。

だから、この放課後の掃除が一日の締めくくりとなるわけだ。



 「うっわ、掃除まだ終わってねえじゃん!!タイミング悪い…」

矢吹がその様子に気づいて渋い顔をした。

「お前、やっぱりサボるつもりだったのか。」

矢吹はわがクラスでは教室掃除のサボり魔として有名である。

学校が始まってまだ一ヶ月も経っていないのにそんな噂が出ているなんて、きっとよほどこいつは人目をはばからずに堂々と掃除をさぼっているのだろう。



 「いい感じに道に迷ったから、帰るころには終わってるかと思ったのによ…残念だ。」

「諦めて掃除するか?」

「いんや。見つからないうちにもう一回道に迷いに行こう。」

矢吹は大まじめに答える。

やはり今回も掃除をさぼるつもりらしい。


俺は頷いて軽く左手を振った。

「うん、それじゃあな。」

「ぬぁーーにをいっとるか、誠よ!お前も来るんだろうが!」

矢吹のハイキックが背中に命中。俺は咳き込んだ。

「な…」

「男が一人でぶらぶらしてんのなんて寂しすぎるだろ?」

男が二人でぶらぶらしているのも微妙な気もするが。

「よし、じゃあ食堂でも行ってジュース買って飲もうぜ。」



 矢吹はさっさと来た道を戻ろうとしている。

俺は引き留めようかと思ったが、『何が何でも掃除をしなければいけない!』という正義感も湧いてこなかったので、矢吹についていくことにした。

そう、何となく。




 するとその時。


「駄目だよ、二人とも!男の子は机運んでくれなきゃー。」

踵を返した俺の後ろから、聞きなれた高い声がした。

驚いて振り返ると、そこには小柄な女子生徒が立っていた。

毛先のふわふわした二つくくりをした彼女の手には大きなゴミ袋が二つ下げられている。


「うお、谷口さん?!」

矢吹が驚く。

彼女は小柄なので、俺の陰に隠れて見えなかったらしい。

矢吹は慌てて言い訳を始めた。

「あー、オレ、今日用事あってさ~」

「ジュースを飲みに行く用事?」

「あー、…いや、それとは別にあんだよ!な、誠?!」

「え?!」

「もー、本当?まことくん。」



 谷口さんが急に、俺の方へどこかからかったような笑顔を向けた。

俺はいきなりのことに頭が動かなくなる。

それは、突然話の矢面に立たされたから、ということもあるけど、それだけではなくて。

いきなり名前を呼ばれたとか、いきなり目が合ったとか、それもあるけど他にも要因があったりして。

耳に体温が集まっていくのがよくわかった。



 矢吹はしどろもどろになっている俺を視界の端にとらえて何かに気づいたのか、俺の方を見て『ニヤリ』とした。

あいつなりのアイコンタクトだったのだろうが、余計なお世話だった。

矢吹に“察せられた”という事実が、さらに俺を焦らせた。

動悸が激しい。


「え、あ、えっと」



「ところでさぁ、谷口さん。」

俺に助け船を出すように矢吹が谷口さんに話しかけた。

谷口さんは矢吹の方を見た。

俺は彼女の視線から解放された。

「その手に持ってるのって、ゴミ袋だよな?捨てに行く感じ?」

「そうなの、ちょっと中庭にね。」

「じゃあオレらが捨ててきてやるよ!な、誠?」

「え?!あ、…」

頼むから俺に話を振らないでくれ!!

「わぁ、本当?じゃあ頼んじゃおうかなあ。」

谷口さんはキラキラした表情をこちらに向けた。

俺は緊張のあまりぐっと唾を飲み込んだ。


「任せとけ。ばっちり捨ててきてやろう!」

矢吹は心なしかそわそわしながら、片手を差し出し、言う。

谷口さんは矢吹にゴミ袋を渡し、丸い眼を人懐っこく細めて俺達に笑いかける。

「ありがとう、まことくん、矢吹くん!」




 …完全に詰まされた感じだった。


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