3."A title of 7" -c5 『宣言』
-c5『宣言』
「えー…、では、修行を開始します。」
紅茶とクッキーがテーブルに並んだ、午後三時ごろ。
なんだか畏まって、師匠が開始宣言をした。
胡坐をかいて座っている原野さんの向かいで、俺と陽翔さんはなぜか正座である。
但し、陽翔さんは楽しくて仕方ないのか、はた目から見ても分かるくらいルンルンしていた。
「えっと、ここにトランプがあります。」
原野さんが自分の膝の上に置いていたトランプを持ち上げた。
「さっき兄の部屋で発見しました………丁度いいので、ばば抜きでもしようかと思います。」
「わーー」
陽翔さんが歓声を上げる。
「え……ばば抜き、ですか?」
俺は思わず尋ねた。
意図が読めない。
「……言っておくけど、ばば抜きを只のカードゲームだと思ったら大間違いよ。」
「え」
原野さんの目がマジである。
「…ばば抜きは心理戦。いかにさりげなく、且、巧妙に相手にばばを押し付けるか、これに全てがかかっているのよ。今回は修行ということもあるから、精神的負荷をもう半端なくかけますのでそのつもりで。くれぐれも油断しないように、相手の動向をよく観察して対策をとってこちらからも仕掛ける!!」
「は…はい。」
…ばば抜きってそんな過酷なゲームだったっけ。
「はいはいユウヒちゃん!」
思わず自分の知っているばば抜きのルールを思い返して確認した俺の隣で、陽翔さんが手を上げる。
「なんですか、兄。」
「負けたら罰ゲームとかにしない?その方が盛り上がるでしょ?」
「あ、いいね。それ採用。じゃあ、負けたら腹筋100回ね。」
「ひゃ…100回?!」
なんだか多いような気がするんですが、それ!!
「そのくらい多い方がみんな真剣になるでしょう?」
にっこり笑う師匠。
「そんなこと言っちゃって、ユウヒちゃんはいっつもゲームには真剣で本気じゃない~。」
ずっとにこにこしている陽翔さん。
「私はその姿勢を兄から受け継ぎましたが。」
原野さんが陽翔さんを一瞥しながらカードをシャッフルし始めた。
「兄はいつも本気でくるし。容赦ないし。コテンパンにされるし。そりゃこっちも本気になるわよ。」
「それはユウヒちゃんのプレイの仕方が真面目だからだよー。もっと裏の裏をかかないとね!」
「そうしても兄はまたその裏をかいてくるから結局結果は一緒なの!」
「そんなこと言っちゃって!」
原野さんのとげとげ攻撃にもまるで動じずに、陽翔さんはさらっと笑って見せた。
なるほど、師匠のあの性格はこの兄在りきだったのか。
「…とりあえず、本気ね。分かった?マコト。」
原野さんがカードをこっちによこしながらそう言った。
「……あ、はい。」
そんな、この流れで“嫌です!”なんて俺はとても言えない。