3."A title of 7" -b1 『誘惑』
-b1『誘惑』
雨が降ったり止んだりなおかしな天気の週末を終えると、気温が驚くほど高くなった。
とうとう梅雨明け、夏の到来である。
ほとんど何も考えずに終えた高校生の永遠の腐れ縁、期末テストもなかなか残念な結果に終わり、まあこんなもんかとぼんやりとしているうちに、夏休み。
…時が経つのは驚くほどに早い。
こんな暑い日に学校なんて憂鬱だ。
俺は最寄駅から学校に向けて歩いていた。
周りは同じ高校の生徒ががやがやとしゃべりながら登校していく。
やたらとゆっくり歩いている俺を、何人もの生徒が追い越し、そして何人かの女子が振り返って俺を何やら二度見しては、キャッキャ言いながら去っていった。
気がつけばもう蝉が鳴き始めている。
朝からやたらと高い太陽も鬱陶しくて、俺は目を細めた。
午前中だけしか授業しないんだったらもう学校なんて休みにしてしまえばいいんじゃないのだろうか。
我が高校、鷹尾高校は最寄駅から徒歩15分もかかるのだ。
しかも坂を登っていくので日差しは強くなるばかり。
俺はなんだかうんざりしてきた。
今は授業も大したことをしてないし、もう高校なんて出なくてもいいんじゃないだろうか。
どうしてこんなに暑い思いをしながらコツコツ歩いているんだ、俺は。
行ってもぼんやりしているだけだし…帰って二度寝でもする方がよっぽど建設的なような気もする。
それに家にいれば二度見されることもない。
…師匠には“耐えないと駄目!”って言われたけど、やっぱりいい気はしないのである。
……いやいやいや!
けど、ちゃんと学校は行かないと駄目だよな…。
“出席”は最低限だし…。
義務教育と違ってお金もかかっている。
今まで無遅刻無欠席なんだぞ、俺。
しっかりしろ、ここで悪魔の誘惑に負けては駄目だ、誠。
うん。
…だめだ、負けては…。
…だめ………。
………………。
…もういいか…暑いし…。
…俺は案外あっさり誘惑に負けた。
それほど行くのがめんどくさかったのですよ、うん。
…よし、もう帰ろう。
先生には矢吹にうまく誤魔化してもらおう。
俺はそう決意して踵を返した。
…するとその時。
ヴーーヴーーヴーーと、やかましく震えだす俺の携帯。
普段メールなんて殆ど来ないので、焦る俺。
さ…サボろうとしてたのがばれたか?!
メールの送り主は、原野さんだった。
『ちょっと今日渡すものがあるから、放課後に中庭に12時30分に集合。時間厳守!』
…帰れないじゃないですか、師匠……。