2."the Sixth sense" -b7 『絶叫』
-b7『絶叫』
舞ランの中での『フリーフォール』の立ち位置を紹介しよう。
まず、乗る人のパターンが三種類に分かれる。
第一に、喜んで乗る絶叫フリーク。
次に、テンションが上がりすぎて乗っちゃうグループ客(学生が多い)。
そして、絶叫好きに無理やり乗せられる人。
今回の場合、原野さんが最初のパターンで俺が最後のパターンである。
そして、このアトラクション、乗りたいお客さんがやってきた時点でそのつどスタートするので、あまり動かない。
…それだけ『フリーフォール』に乗る人は少ないのである。
だから、動き始めると付近に見物客が現れる。
『…うわあ、あの人フリーフォールに乗っちゃってるよ…』みたいな感じで、のぼっていく人たちを見上げるのだ。
…よく考えるとおかしな光景である。
まあ、その見物客がいる中に乗った人の叫び声が響き渡るわけだから、乗る人が減るのもうなずけるが。
とまあこんな感じで、乗るだけで目立っちゃう『フリーフォール』。
確かに乗る人は少ないが、その強烈なインパクトと根強いファンにより、この舞園ランドを象徴するアトラクションとなっているのである。
そして、俺たちは。
今その麓に立って、このてっぺんを見上げていた。
「これに乗ったら目立っちゃうから、矢吹がいるうちはやめとこうって思ってたんだけど、ちょうど良かったわ。」
原野さんが嬉しそうに話している。
俺はもう青ざめるのを通りこして、顔面蒼白になっていた。
「…これは………」
「いやー、フリーフォール久々!じゃあ行こうか!」
「ちょ、ちょっと待ってください!!!!!」
俺は搭乗口に歩きだした原野さんを、腕を掴んでとめた。
「これはダメですって!!これはダメです!!!!」
「死にはしないから大丈夫よ。」
「それは分かってますけど!!!これはダメです!!!俺のキャパをはるかに超えてます!!!!」
「貴方は今日、そのキャパを大きく広げたわ!いける!!」
「いけません!!!!!」
必死な俺。
原野さんは珍しく食い下がる俺に、少しためらいを見せた。
「ううん・・・・わかった。」
「ほんとですか!?」
「流石にフリーフォールは難易度高いものね。じゃあ、後でジェラートでも奢るわ。」
「………。」
思わず無言になった。
「あたし、人に奢るとかほとんどしないのよ。けど仕方ない、今回は特別。」
……それ、原野さんがジェラート食べたいだけでしょう!!??
口をパクパクさせて抵抗したが、原野さんはそれで交換条件成立とでも云わんばかりに、彼女の腕をつかむ俺の手を逆につかみ返して、俺を搭乗口に引きずりこんで。手荷物とサングラスを俺から取り上げてかごに入れて。
無理やり座らせて。
俺は係員の人にシートベルトを締められて。
安全バーが下がってきて。
そして。
“3・2・1・GO!!!!!”
アナウンスが響き、俺たちの乗るマシーンは、急上昇した。
カチッと。
てっぺんでマシーンが固定される音がした。
下にいる人たちが豆粒のように見える。
例によって、見物客が集まってきていた。
「ああああああ」
俺はもう、極限状態である。
これから落ちるのか?
……この高さから落ちるのか?!
「…これ、登るときにカウントダウンしてくれるのに落ちる時は何も言わずに急に落ちるのよね」
隣で、流石の原野さんも顔が強張っている。
「…やっぱりカウントはいると思うの。心の準備とかあるじゃない。ねえ、セイ」
「…あああああああ」
低く唸る俺。
ひょーーーーっと、風の吹く音。
遠くで響くがやがやとした楽しそうな声。
カチッと、金属音。
…え、カチ?
その瞬間、一瞬時間が止まった。
体がふわっと宙に浮いた。
そして。
俺たちは、多くの見物客が見守る中、声帯がすりきれんばかりの絶叫を上げて、地上に落ちて行った。