2."the Sixth sense" -b1 『陽鬱』
-b1 『陽鬱』
あれ?今って梅雨の真っ最中なんだよね?
まだ夏じゃないよね?
なんでこんなに晴れてるの?
余計なことしなくていいよ、お天道様……と言いたくなる程の快晴。
日曜日10時過ぎの舞園ランドは、久々のいい天気に大繁盛である。
俺も住んでいる舞園市にある遊園地、舞園ランドは、地元密着型の遊園地として長年地域住民から人気を博してきた。
夏にはプール、冬にはスケート、たまに人気お笑い芸人がやってきたりすることも人気の秘密なのかもしれない。
それもあってか、あまり大きくない遊園地ではあるが、この近くに住んでいる子供たちはことあるごとにこの舞園ランドに遊びに来る。
よって、アトラクションの種類や場所、時には攻略法まで覚えている子がたまにいるほどである。
そして、もちろん。
今俺の隣で高まるテンションを隠しきれないでいるうちの師匠も、そんな子供たち(?)の一人である。
「あーー!舞園ランド、久しぶり!!!」
見るからにウズウズした様子の原野さん。
彼女は洒落たデザインの半袖パーカーにGパン、スニーカーにキャップといった出で立ちで、もう遊ぶ気満々なのがうかがえる。
「ほら、セイもテンションあげて!!」
「…まことです。」
「今はそんなのどっちでもいいから!」
…そろそろ覚えてほしいんですが。
原野さんのたっての希望で、開園時間ぴったりに入口ゲート前に集合した俺たちは、もう持参の入場券で手続きを済ませ、園内に入っていた。
舞園ランド、略して舞ランは全体として大きな森をイメージした造りになっており、園内にちょっとしたラグーンや自然公園がある。
建物の作りも中世のファンタジーの世界観で統一してあるという手の込みようだ。
そんな異世界的な雰囲気も、うちの師匠のテンションを掻き立てるようで。
原野さんはさらにテンションが上がってしまっているらしかった。
「せっかく久しぶりに来たんだから!乗って乗って、乗りまくるわよっ!!」
「あの、すいません原野さん。」
「どうしたのっ」
「これってもしかして、ただ原野さんが遊びたかっただけの企画」
「ちーがーうーわー」
やはり食い気味できた。
原野さんはテンションをそのままに、俺の肩をガシッと掴んだ。
…なんだか矢吹を彷彿とさせた。
「これはあくまで修行よ、セイ!貴方が絶叫系に乗れるようになるための、ね!!」
「まことです…いや、俺はやっぱり絶叫系は遠慮したいんですが…」
「却下。」
すがすがしいくらい即答である。
「これも修行の一環!絶叫マシンを楽しめなきゃ、ヘタレ克服なんてできないわよ!てか、乗れない内は私が認めない。絶対認めない。」
いつもと比べ物にならないくらい饒舌の原野さん。
いつもの3割増しの切迫感に俺はより気圧されて、何も言えなくなる。
「よっし、まずはあれに乗らないと、舞ランに来た気がしないのよね!よし、セイ、行くわよ!!」
軽快に、スキップでもしているみたいに飛び跳ねながら進んでいく原野さん。
比べて、足が進むのを拒否しているみたいにべったり地面について、引きずられているようにずるずると進むしかない俺。
こうして、俺と師匠の、修行という名のどきどき遊園地巡りがスタートしたのであった。
―――だが。
このときは、このただでさえ大変な“修業”が、さらに輪をかけて大変になるなんて、思っていなかったのだ。
この時は…。