9."Con-Two-Last" -a1 『終章』
-a1 『終章』
例えばモノの裏表。
最初に見たほうを“表”と勝手に思い込むから、“裏”ができるだけの話であって、裏も表もひっくるめてそのもの自体だ、と俺は思う。
それが自分にとって不満で気に入らない“裏”であっても、だ。
引っ込み思案で目立つことの苦手な俺の裏側は、人目に付く見た目で形成された表のイメージの影を吸い込んで、ずっと俺の中で大きな場所を占めていた。
だから、「中澤くんは裏があるよね」と、思われることが怖かった。
「余計なお世話だ」と言い放ってしまいたかった。
そんな勝手なイメージは、どこかの誰かが“最初に伝え聞いた中澤誠”を勝手に“素”と思い込んでしまったから生まれただけなのだ。
人の性格には色んな側面があることを完全に無視している。
そう、いろいろな側面があって当然。
同じモノをみていても、人によって受け取り方も感じ方も違う。
だから、こんな決めつけの概念なんて捨てちゃって、何もかもありのままを受け入れてくれるような世界になればいいのに。
なってくれたら、もっと苦しまずに済むのに。
俺は、そう思っていた。
けど、まぁ。
この世界、そんなにうまくいくはずもない。
世の中は思い通りにいかないことが山ほどいっぱい。
ぐだぐだ考えているだけで仕組みをいじれてしまうような単純な構造はしていない。
何か行動は必要である。
…そう、行動が。
アクションを起こす勇気が何より必要なのだ。
俺はこの一年間でそれを学んだ。
4月、足踏みし続けた思いを抱えて身動きが取れなくなっていたあの日。
途方に暮れた俺は、彼女に出会った。
自分の壁を打ち破る“勇気”、“強さ”、“行動力”。
これは、俺の『持っていなかったもの』。
そして、彼女の『持っていたもの』。
彼女の両手から零れ、意図せずとも相手に伝わるそれは、俺を確かに変えたのだ。
だから…。
本来なら契約は履行完了寸前。
俺は委託目的を達し、彼女は契約を満了し、円満終了になるはずだった。
少しの誤算は、変わったのが俺の姿勢だけではなかったというだけ。
契約内容の変更は、折り合わなかった。
期間の延長も認められない。
行動を起こすなら、今しかない。今しかないのだけれど。
それなら、一体どうしてしまえばいいのだろう?
何度考えても、俺にはもう、それが決定的にわからない。