7."Dis December" -d4 『散漫』
-d4『散漫』
12/24 11:16
To:原野陽翔
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Sub:RE:やっほー!
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え?!原野さん、熱出したんですか?!
大丈夫なんですか?!
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12/24 11:20
To:中澤誠
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Sub:RE:RE:やっほー!
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うん、まあ大丈夫だとは思うんだけどねー(´Д`)
けど、昨日の夜からずっと熱が下がらないんだよ。それだけちょっと心配かな。午後には病院に連れて行こうと思ってる。
ここ二週間くらいずっと体調が悪かったみたい。気付かなかったなー(´・ω・)
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12/24 13:35
To:原野陽翔
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Sub:RE:RE:RE:やっほー!
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そうですか…。
お大事にとお伝えください…
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映画を観終わって急いで携帯を開き、陽翔さんのメールに返事を打った。正直、もっといろいろ打つことがあったのかもしれない。だが、打ちたいことは沢山あったはずなのに、こんな普通な文面しか思いつかなかった。
原野さんに直接お見舞いメールを送ることも考えた。が、そんなことをすると、後々にどんなお小言が待っているか分からない。
『ダイジナ、ダイジナミッションダッタノニ!ワカッテルノ、マコト!!!』
だが、原野さんが熱を出すなんて。よほど体調が悪かったのだろうか。思い返してみるとそういえば、この前会った時、頻繁に咳をしていた気がする。なぜ気付かなかったのだろう。あの時気づいていれば、ファーストフード店に行くなんてしなかったのに…。
ずっとそんなことをぐるぐると考えて、映画の内容はほとんど記憶に残らず消えてしまった。
映画を見た後は、昼ご飯を食べた。この日のために下調べして見つけておいた、地下街のイタリア料理店だった。手ごろで美味しく雰囲気もいいと評判の店だったが、味はほとんど覚えていない。パンフレットを見ながら映画の話をした気がする。
谷口さんはとても楽しそうにパスタを食べていた。俺は、谷口さんの肩の向こうのガラスに映った、自分の無表情な顔を見ていた。
ズボンのポケットに入れた携帯が気になって仕方なかった。
ずいぶん長く昼食をとっていた気がする。お会計を済ませて外に出て、開いた携帯のディスプレイを確認した。15:00を回ったところだ。映画を見た後だったからか、時間間隔がおかしい。まだこれだけしか経ってなかったのか。
「あの…まことくん?」
谷口さんが俺の腕に手をかけるようにしてこちらを覗きこんできた。
「え…あ、どうかした?」
「うーん…いや、なんでもないんだけど、どうしたのかなーって。」
「え?」
「さっきから、変じゃない?なんだか上の空な気がする。」
「あー…、いやいや、そんなことないよ。」
俺は笑った。笑って誤魔化した。
「ちょっとさ、寒くて。いや俺、寒がりだからさ、だから冬も苦手で」
「…そうなの?」
「うん、そうそう。だから大丈夫、気のせいだよ、気のせい。」
「………。」
「ま、まあ、ちょっと歩こっか?この辺はショッピングするにもいい店がいっぱいあるし!いい感じの所も沢山あるよ、谷口さん知ってた?!今から行こっか!!」
「……、…うん。」
持っていた携帯をちらっとみて、勢いよく閉じポケットに入れる。隣で谷口さんが小さい声で「まことくんって、そんなに沢山しゃべるんだね…」といったのが聞こえた。
俺はそれがなんだか気まずくて、何も聞こえなかったふりをした。