7."Dis December" -d1 『無味』
-d1『無味』
いざ腹を据えてしまうと、物事は驚くほどとんとん拍子に進むものだ。
俺は、矢吹とクレープを食べ別れた後すぐに、谷口さんにメールを送った。
具体的にはどこの映画館に行こうか、といった内容だったが、きっかけなんてそれだけで十分だったのだろう。そこから24日の計画は、スムーズにより具体的な形に決まっていった。
正直、メールでことを進めるのはやはり苦手だ。だが、直接話すのとの二択を迫られたら、確実にメールの方がましだった。
俺は早急に計画を立てるため、『後でゆっくり考えよう』なんて後回しにする考えは捨てて、いつもは滞りがちになるメールの返事を、送られて来たらすぐに返すように心がけた。
その結果か、谷口さんとのメールにもすっかり慣れて、今ではちょっとした雑談もできるようになった。これは大きな進歩といえるだろう。
今まで谷口さんの関連の話となると、原野さんの力を大いに借りて大まかな進行を決めていたが、今回、それはなかった。
原野さんに相談のメールを送らなかったのだ。
もしかたら、いつのもように意見を求めたらよかったのかもしれない。
責任感の強い彼女のことだから、しっかりと今まで通り、完璧な計画を立ててくれただろう。
だが、俺はそれをしなかった。いや 、正確には、したくなかった。
これは、半ば意地である。
今回俺は、矢吹と話したことでしっかりと思い出したことに対して、自分なりに向かい合いたかった。
目的を見失ってはいけない。ましてや逃げてもいけない。これは本来、 俺の問題なのだ。
今までが特別だっただけで、原野さんは関係ないのだからと、言い聞かせた。
俺は、原野さんにメールを送らない 。
もちろん、原野さんからメールが送られてくることなんてない。
俺たちはあの日以来、連絡を取ることも、廊下で偶然姿をみることも、 ばったり放課後に出くわすこともないまま日々を送った。
放課後のちょっとした買い物も一人で行ったし、アイスクリームは季節外れだから買わなくなったし、一学期より少しだけ良くなった成績も一 人でうっすらと喜んで終わった。
時計の針がぐるぐる回って、淡々と時間の経過を告げる。
そして、その日はやってきた。
よく晴れた、寒い朝だった。