7."Dis December" -c2 『再確』
-c2『再確』
矢吹の自転車を回収してから校門を抜け、俺たちは総合体育施設付近の公園をとおってクレープ屋に行くことにした。
5月に矢吹と行って、原野さんとファーストコンタクトをとった、あの公園だ。
公園に踏み入れると、5月に来た時に比べて緑色の量が激減していた。すっかり冬の様相だ。
あの時から訪れていなかったのもあって、その様はとても急激な変化のように感じられた。
長い時間が流れたことを嫌でも実感する。
「うおー、すっかり冬だな!もう木も丸裸だぜ。」
「そうだな…」
「気づいたらもう12月だし。誠とももう結構長いお付き合いだな。」
「…半年ちょっとだろ?」
「なんだよなんだよ、ツメテー!そこはもっとしんみりするとこだろー!?」
「……まあ、矢吹のそのノリにもだんだんついていけるようになったよ。」
「お?そうか?」
「ああ、間違いない。」
痛覚を刺激するほど冷たい風が吹く公園を、俺たちは進んだ。
太陽が傾くのももうすっかり早くなってしまって、まだ4時過ぎだというのにあたりは夕焼け色だ。
つんと乾いた空気を吸い込んだとき、ふと、ああもう冬なんだな、と感じた。
心がざわざわとして、わくわくするようなこの感覚は、この時期独特のものだ。
この一年はとても速くて、内容の詰まったものだった。
今まで生きてきたどの一年とも、到底比べることはできない。
来年の年末は、この充実感を味わえているのだろうか。
原野さんと“もう最後”だとして、俺は……。
「ところで誠よ。」
無言で歩いていた空白の時間に耐え切れなくなったのか、矢吹が急に口を開いた。
妙にそわそわしている。
「…なんだ?」
「いやーその…なんだ。今って、12月じゃん?」
「ああ。」
「12月と言えば…クリスマスじゃん?」
「ああ。」
「いやーーー!オレっちとしてもだな、友達のあーだこーだの話は是非ぜひ聞いておきたいものなわけですよ!」
「?!」
「それは誠クンとて例外でない!!いや、むしろ本気出して聞きだしたい勢いで知りたい!!」
「お?!…お、おう」
「なにか予定あるのか?!」
そういって俺に詰め寄る矢吹の目は、ぎらぎらと輝いている。
まるで獲物をその爪にかけた猫のようだ。
…答えないと、逆に面倒なような気がした。
「…映画にいくよ。谷口さんと。」
「…………ほ?」
矢吹がぽかんと口を開けて、妙な声を出した。
「…………ん?」
矢吹の様子を見て、俺も何かおかしなことを言ったかと首をひねる。
「……いや、ちょ、まて。谷口さん?映画?……谷口さん?」
「え…そうだけど」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
いきなり矢吹が絶叫した。
よっしゃ!!と両手でこぶしを作って突き上げて、俺の肩をつかんで激しくゆすった。
「おめでとう誠!!!おめでとう、ほんとおめでとう!!!」
「ちょ?!矢吹?!」
「お前、ずっと好きだったもんな…よかったな…ほんとよかったじゃねーか!!!」
「………あ。」
そうか、そうだった。
俺は矢吹に肩を何度もたたかれながら、独り、強く納得した。
「………そう…だな。…そうだ、そうなんだな。」
「そうだよ!!すげーぞ!!これでもしかしたうまく行っちまうかもな、すげーぜ誠!!!」
そうだ。
俺は谷口さんのことが好きなのだ。
だから、イヴに一緒に出掛けるなんて、凄いことじゃないか。
これは前進なのだ。
大きな、大きな前進。ゴールに近づく大きな一歩。
「よかった、本当に良かったぜ誠…。オレっちたちのことは気にするな、思う存分チャンスをものにするんだぞ!」
矢吹が親指を上げてニカッと笑う。
「そうだ。そうだな、矢吹。ありがとう」
なんだか、忘れていたものをすっきりと思い出したような感覚がした。