7."Dis December" -b5 『鉢合』
-b5『鉢合』
それからも、相変わらず行き場のないもやもやは募る一方だった。
24日に谷口さんに誘われたということを、俺から原野さんにメールすべきなのか。
だが、何通か送って返事がない今、追加でメールを送るのは気が引けた。
だからと言って、待ち続けても返ってくるかは分からない。
『この件を原野さんにメールで送るか、否か。』
末永にサンドイッチを届けて一緒に昼食をとった後も、合流した矢吹にメールを無視するなと怒られた時も、篠原が結局副キャプテンになってしまったと落胆して帰ってきた時も、頭の中ではずっとこの問いが繰り返されていた。
長いような短いような不思議な感覚を伴って午後が過ぎて行き……放課後。
まだ返事をしていない手前、谷口さんに合わせる顔などあるはずもなく、俺はいそいそと教室を後にした。
まだ人気の少ない廊下を早歩きで通り過ぎながら、ため息をつく。
待てども待てども鳴ることがない携帯電話に神経を尖らせる一日は、本当に疲れるものだった。
もう待つことも面倒くさくなってきたなぁ、なんて思考が頭に浮かぶ。
…電話したら出るしかないから、少しは会話できるかな。
相談しないといけないこともあるのだ。別に電話したって、原野さんも怒らないのではないだろうか。
何の気なしに携帯電話を取り出して、電話帳を呼び出した。
電話帳の“ハ”の欄を表示する。
『 ハ ラ ノ ユ ウ ヒ 』を発見。
何時ごろだったら出るかな。
やっぱり夜かな。
原野さんの項目を押して、電話番号にカーソルを合わせてみる。
いつの間にか下足室手前にたどりついていた。
やっぱり今電話するのは、早いよな……。
手元の携帯から顔を上げる。
…うん、やっぱり夜だ。8時頃がいいか…?
ぱちんと携帯を閉めてポケットに入れながら、自分の下駄箱の方に視線をやった。
…と、そこに。
「、え」
「…うわっ!?…ちょ、マコト…」
その目線の先に、靴を履きかえている最中の原野さんがいた。
コホン、と咳払いを一つして。
「えー…、なんで居るのよ……」
…なぜか、凄く嫌そうな顔をされた。