7."Dis December" -b1 『千秋』
-b1『千秋』
『新着Eメールはありません』
携帯の画面が無情なメッセージを表示している。
俺は溜息をついて、それを制服のズボンのポケットに入れた。
体育の時間中は携帯から離れていたからもしかして、…なんて淡い期待が打ち砕かれるのはいとも容易い。
『改めて、イヴは例の彼女を誘うこと。』
こんなメールを寄こしたっきり、原野さんからの連絡はない。
もう三日は経っただろうか。
俺の方からいくらメールしても無駄だった。
『やっぱり鍋が諦めきれないんですが』
とへりくだってみても、
『まだ怒ってますか』
と顔色をうかがってみても、
『すみません』
と、とりあえず謝ってみても、
彼女からの返事は一向にない。
うんともスンとも、返事がなかった。
いつかのデジャヴを思わせるこの現象を打破する手段を、俺は知らないままだった。
もしかしたら、“誘いました。”のメールにしか反応する気がないのかもしれない、と思う。
そう心当たりがあっても俺は、どうしてもそれをする気になれない。
というのも、そう、鍋が。諦められないんだ。
陽翔さんに鍋に誘われたから。
そうだ、俺は鍋がしたい。
すごく。
だから、原野さんにわかってもらわなければ。
分かってもらって、それで…
「おーい中澤」
その時、篠原の声が耳に割って入ってきた。
俺ははっとして、声がしたほうに振り向く。
更衣室の扉を開けて出てきた篠原は、バレー部のクラブジャージを着ていた。
「矢吹の後片付け、まだかかるみたいだから先に帰ろうぜー」
「……篠原か。」
「あ?なんだお前、テンション低め?」
「あ、いや…そんなことは…。てか矢吹のやつ、待っといてくれってせがんできたけど大丈夫か…?」
「思ったより時間かかるみたいでさあ。まあ、矢吹ドンマイ!ってことでひとつ。」
篠原はにやりと笑う。
「とりあえず早く行こうぜ?俺、体育ではしゃぎすぎて空腹感がやばいんだわ。」