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Contrast  作者: WGAP
7."Dis December"
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7."Dis December" -a3 『分岐』 

-a3『分岐』




何をするともなくこたつでのんびりと過ごす久しぶりの時間は、驚くほどのスピードで過ぎ去っていく。

日曜日なのをいいことに昼過ぎからお邪魔していたが、気が付けばもう太陽はななめになっていた。

最近は冬至も近づいてきたからか、日の入りがすっかり早い。



「あ、そうそう。ところでなんだけど、セイくん。」

もうそろそろおいとまする時間かな、なんて考えていた矢先、陽翔さんがいきなりこう切り出した。



「なんでしょう。」

「24日って暇?」

「え、24ですか?」

「うん。もし暇なら提案があるんだけど。」

「何かあるんですか?!」

「そうなんだよー!なんてったってクリスマスイヴだからね!」

陽翔さんはふふんと鼻をならす。


そうだ、もうそんな時期だっけ。

テストだったり、先月の11SAMURAIS騒動だったりのせいですっかり忘れていた。



「我が家では毎年、12月25日の日に家族でクリスマスパーティをすることになっててね、24日は毎年、友達と過ごしたりするんだ。だから、今年も僕はとっておきのプランを準備しているんだよ!!」

「さ…流石陽翔さん!!」

「気になるかいセイくん?…気になるかい?!」

「はい、すごく!!!」

「むふふ、実はね…」


陽翔さんはわざともったいぶったように口をもごもごさせると、

「…今年は!鍋パーティです!!」

発表と同時に、じゃーんと万歳のポーズをした。


「鍋……!!」

俺もテンションが上がる。




「いいですね!鍋!!俺、鍋好きです!!」

「だろうだろう!!」

「さすがです陽翔さん!!」

「だろうだろうだろう!!!ユウヒちゃんと三人で、いっぱい材料買ってきて、チキンとかも買ってきて、シャンメリーも買ってきて!!ワインもね!僕が飲むやつを買ってきて!!」

「はい!!」

「盛大にやろうね!!」

「楽しみです!!!」

「よし、そうと決まればさっそくじゅ」


「だめよ。」



陽翔さんの言葉を、突然、冷たい一言が遮った。

原野さんである。

こちらを静観していたのか、炬燵台の上で腕を組んで、呆れたようにこちらを見ている。


「え……」

「なんでだいユウヒちゃん!!今の盛り上がりもしかして聞いてなかった?!もう一回説明しようか?!」

「マコト。」

陽翔さんの文句などまるで聞こえなかったようにスルーして、原野さんは心底信じがたいとでも言うように溜息をつく。


「貴方、本気で返事してる?それとも合わせてるだけ?」

「え…本気ですけど……」

「……ねえ、バカでしょ。」

「な?! ば、バカって」

「いい?!兄が言ってるのは!!1 2 月 の 2 4 日 よ?!クリスマスイヴよ!!」

原野さんは眉を吊り上げて大声を出した。


「世の恋人たちは、みんなデート、デート、デートなのよ!!そんな日に、何のんきに仲間内で鍋なんてやるっての!!ダメでしょ!!やらないといけないことが他にあるでしょ!!」

「ちょ、ちょっと」

「例の彼女を誘いなさい。ミッションよ。デートよ。最終段階!外せないイベント!!わかるわよね?!」

「けど、そんな、俺、」

「そんなもなにもないわ!言い訳は結構!!」

「言い訳とかそんなんじゃなくて、俺、鍋が……」

「鍋なんていつでもできるでしょ?!それよりなに、彼女との念願が叶うことよりも鍋のほうが大事なんて言わないでしょうね?!」

「…っ」


俺は言葉に詰まった。

原野さんはしてやったりとでも言うような表情をしている。

「決まりね。なら今回は潔く諦めて」

「けど…!」



「駄目だよユウヒちゃん、そんな押しつけは。」


原野さんの決まり文句に待ったをかけたのは、陽翔さんだった。

原野さんは遮られたことが不服なのか、食って掛かるように声を荒げる。


「押しつけって何よ!!あたしはマコトのことを思って」

「本当にそう思ってるなら、セイくんの意見をもっとちゃんと聞いてあげなきゃ。今のままじゃ、ユウヒちゃんが一方的に自分の考えを通してるだけじゃない。」

「そんな、ことないわよ……契約が。」

「契約?」

「私とマコトの契約を考えたら、これが自然な流れなのよ!」

「ユウヒちゃん、」

「初めから、契約に従ってやってきてるの!!それを、横入りして、かき乱してるのは兄なのよ!!」

「ちょっと」

「そもそも、契約がなかったらあたしとマコトがこうやって会うことだって」

「…ユウヒちゃん。」



陽翔さんが、矢継ぎ早に話す原野さんを静かに遮る。

今までのいなすような口調から一転、それは有無を言わせず彼女にしゃべるのをやめさせるのに足る強制力を持っていた。


「僕は、ユウヒちゃんとセイくんがどんな『契約』とかいう期限を設けたのかは知らないんだけど、ずっと気になってることがあるんだよね。」

「…、なによ。」

「その契約って、君とマコト君が仲良くするのを打ち切る約束のことなの?」


「なっ…」

原野さんが、ぐっと息を飲む。

「そ、それは、…それとは、また別の話なのよ!違う、違う内容だわ。とにかく、それとこれとは別の話!!」

「いや、別じゃないよ。その例の彼女との約束を、マコト君の選択の余地なしに取り付けることにするならね。」

「関係ないじゃない!!マコトとは、契約した仲なの!!それは守らないといけない!!だから、これは選択とかじゃなくて当然の道筋なの!!流れなのよ!!わからないの?!!」



原野さんはもはや立ち上がって陽翔さんに掴み掛りそうな雰囲気で怒鳴った。

彼女は、激高していた。

それは、いつもどこか冗談っぽいダメ出しとは明らかに違う。

いつも冷静で整然としいる言葉も、どこかちぐはぐな、ほつれかけているような、そんな感じで。


陽翔さんは静かに、観察するかのように彼女を見ている。

そして、言った。



「ユウヒちゃん、何をそんなにムキになっているの?」




「!!!!!」




原野さんが、何かにはじかれたように黙った。

突き刺すような視線を向ける陽翔さん。



原野さんは、口をへの字に結んで目を細めていたが、やがて、自分を落ち着けるように言う。

「………む、きになって、ないわ。ちょっと、熱くなっただけよ。兄があんまり分からず屋だから」

「ふうん?」

「けど、やっぱり駄目なものはダメ。」

「…まだ言うの?」

「ええ。これだけは絶対に譲らない。」


原野さんはいきなり、目の前の俺を睨みつけた。

ことの成り行きを見守ることしかできなかった俺は、そのどこか攻撃的にも取れる視線に戸惑う。


「イヴは、絶対ダメ。デートを…ミッションをしないといけないんだから。わかってるわよね、マコト。」






その後、どんなに働きかけても、彼女の気持ちを変えることはできなかった。


俺など見向きもせずに帰宅した『師匠』の後で、俺はさっきまでの穏やかだった場所の面影から逃げるように、独りで、陽翔さんの家を後にした。



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