7."Dis December" -a1 『団欒』
-a1『団欒』
12月がやってきた。
次第に冷え込みが冷たくなって、もう冬服じゃないと外には出られない。
服の中をさっと通り抜けるような冷たい北風に耐え切れなくて、コートはすっかり必需品になっていた。
冬は好きじゃない。
だって寒いから。
立っているだけで体力を使う。
体ががたがた震えだすし、膝が笑うし、手足がしびれて感覚がなくなってくる。
いつまで経ってもこの感じに慣れない。
いつまで経っても不快だ。
これはきっとこの先も変わらないだろう。
だが、そんな冬には良いものがある。
こたつ。
これは好きだ。
こたつはあったかい。体の芯まで温めてくれる。
入ったが最後、よほどのことがない限り出ることができない。
『こたつは入っている人のやる気を吸い取って発熱してるんだぜ、きっと!』なんて矢吹が言っていたが、あながち外れていない気がするから不思議だ。
俺は今、そんな大好きなこたつにすっぽりくるまっている。
顔は机の上、それ以外はみんなこたつの中だ。
心地いい。寝てしまいそうである。
ここが陽翔さんの家ということを忘れてしまうくらい、リラックスしていた。
「ちょっと誠、だらけてるわよ。」
原野さんがそう言って、俺の前の席に座った。
手にはバニラアイスのカップ。
「……原野さん、アイスですか。」
「あたりまえじゃない!冬でも暖房ガンガンにしてアイスinこたつよ!」
力強く宣言して、カップのふたをはずしにかかる。
台所にいる陽翔さんはその様子を見て、不服をそうに声を上げる。
「ユウヒちゃん、気を付けないとおなか壊すよ!この寒い時期に!!」
「大丈夫よ、腹巻してるもの。」
「そういう問題じゃな…て、ユウヒちゃん腹巻userなの?!」
「今年の冬は暖かさを追求してるのよ。なんだか温まりたい欲求がものすごくて。」
「あ、そういえばこの前もふわふわの靴下買ってましたよね。」
「そうそう!あれはよかった、安かったし。なかなか良いデザインだったし。マコトも買ったらよかったのに。」
「いや…あれは女性用でしょ…。俺じゃ足入りませんよ。」
「そう?行けると思うけど」
「ちょっとちょっと!!二人とも、何僕を差し置いて二人で買い物に行ってるの?!」
陽翔さんぶーぶー言いながら俺の右手の席に腰を下ろした。
マグカップが俺の前に置かれる。ミルクティーだ。
「別に……ちょっと帰り道によっただけよ。」
原野さんはそう言いながら、着々とバニラアイスを食べ続けている。
「セイくんほんとに?!」
「あ、まあ。たまたま帰りが一緒になったことがあって、ついでに。」
「えー、許しがたいよー!一緒に帰ったり!!放課後デートしたり!!!なにそれ楽しそう!!!!僕もやりたい!!!!!」
「何よ放課後デートって…違うわよ全く違う全然違う。かすってもないわ、全くこれだから兄はほんとに」
「え、そこまで否定するのユウヒちゃん」
「だってそうだもの。一緒に帰ったっていうのも、ただテストの模範解答が張り出されてたのを見に行ったら、偶然会ったっ、て、そうよ!定期テスト!!」
原野さんは一気にまくしたてるように言うと、そこで思い出したかのように机をダンッとたたいた。
俺の前のミルクティーが微かに波立つ。
「成績が返ったんだったわ!!今日集まった目的を全く忘れてた!!!」
「…あ。」
「あー!そういえばそうだったね!全く抜け落ちてたね!」
そうなのだ。
今日俺たちが陽翔さんの家に集まっているのは、ただ駄弁るためではなかった。
ここ数週間にわたって俺が苦しめられた期末テスト。
……この結果の、発表会だったのである。