6."11 SAMURAIs" -h1 『相照』
-h1『相照』
『ケットウ、けっとう、決闘……それは勝敗と、時に悲しき結果を伴う…』
『はい。』
『私達は……負けた、と、言うことだね。』
『…そう、なりますね…』
『いきなり勝負を言い渡しこちらに有利な条件を突き付け断れなくした上テスト終了と同時に勝負を言い渡すことで相手に十分な時間を与えず無駄な雑談で精神的動揺を煽り挙句多人数で圧倒しようと試みたにも関わらず………負けた、と』
『は……はあ』
『しかも圧勝された、と。』
『いや…そんなことは』
『これは果たして我々の相手を省みない強行への罰なのか、それとも唯陽嬢への思いの強さが押し負けたのか…だがしかし、それは我々の知らぬ運命のみが知るところであろうか翻って中澤誠よ。』
『え?!あ、はいなんで』
『私モ男ダ…………………君ヲ!!!!!!認メヨウ!!!!!!!!』
『ええ?!!』
…そんなこんなで。
闘いから一夜、あの後俺は、見事に勝利を手にしたのだった。
百人一首は小学生の頃に身に付けた、俺の唯一の特技だった。
昔、それはそれは熱中したものである。
クラブ内でもその実力は折り紙つきで、俺は何十勝もの記録を打ち立て不敗伝説を築きあげたのだが…それはまた別の話。
百人一首が闘い種目だと判明した時、本当に助かったと思った。
もし、本当の決闘など申し込まれていたら…俺に勝ち目はなかっただろう。
だが、三対一での対決を言い渡された時は流石に焦った。
………正直なところ、もし百人一首の対決じゃなかったらと思うとぞっとする。
そう考えると、あれは偶然勝てたようなものなのかもしれない。
壮絶な試合を制して、俺は、なんだか異様なムードに包まれた11SAMURAISの面々から半ば逃げるようにして、部屋を出た。
そのまま部屋にいたら、なんかこう、変なムードに流されてまた変な話に流れてしまいそうだった。
そして一夜明け、金曜日。
テストが全て終わった金曜日、一限目。
今は書道の時間だ。
俺はさっさと今日の課題を提出して、机に突っ伏していた。
俺は、はーっと深いため息をつく。
疲労感が急に襲ってきた。
もしくは、これが“安堵した”ということなのかもしれない。
よかった、本当に……。
ゆっくり目を閉じる。
横には、さっき返された二週間前の四字熟語の課題。
真っ黒の墨字で『睡眠不足』と書かれている。
…折角だし、このまま授業終了まで眠るのもいいかもしれない………。
「おい誠、起きろよー!なぁに寝てんだよ!」
……矢吹だった。
教室がざわついているのをいいことに、はるばるやってきたらしい。
俺を無理やり起こして、机の前にしゃがみこむ。
「…なんだこれ、睡眠不足って。まだ寝不足生活やってんのか?体に悪いぞ。」
「………。」
「それか、あれか!昨日はテスト終わったから、解放感でゲームしちまったとか?よくあるよな!!」
「……昨日はちゃんと寝たよ…けど良く寝れなくってさ…まだ疲れが抜けないんだよな…」
「どんだけ無理してたんだよお前!テスト期間とか、目の下に隈作ってたじゃねえか!」
「やることが多かったんだよ……」
俺の曖昧な返事に、矢吹はふーんと相槌を打つ。
あまりにもいつも通りの矢吹に、こいつは絶対テスト期間中もマイペースに過ごしてたんだろうな…と、思う。
こんなに勉強してなさそうな様子なのに、点数と席次だけはしっかりかっさらっていく、それが矢吹だ。
テスト結果こそまだ分からないが、きっと今回も俺より成績がいいのだろう……。
……あ、なんだか悲しくなってきた。
そんな矢吹は、俺の微妙な胸中には全く気付いていないようで。
「そういや、この前言ってた小説ってまだ読んでんのか?」
やはりマイペースに、自分の話題をぶっ込んできた。
「う?…ん、まあね……ぼちぼち」
「まじか!あれ、結局誰だったんだよ、犯人。半紙入れてた犯人!」
明らかにそわそわしだす矢吹。
ずっと気になっていたのだろうか。
俺はどうこたえていいものか迷う。
「あー………。…実はさ、結局良く分からないまま話が終わっちゃったんだよ。」
「はあ?!どういうことだよ、それ!!」
「うーん……結局謎は謎のまま、みたいな雰囲気でさ……。」
「うわ!!なにそれ最悪じゃねーかー!!」
矢吹は口をとがらせる。
「それってなんだ?自分で推理しろってことか?」
「『謎は謎のまま、置いておいた方がより深みが増す』とかなんとか」
「かーーーーっ!!!なんだよその不親切設計!!!もっとこっちの事考えてくれねーとすっきりしないじゃねーかよー!!!」
「だよな、全くだよ、ほんと。」
「だめだな!俺達でなんとかならねーかな、それ。」
「うーん………」
「何か、最後の方で分かった設定とか無いのか!?」
身を乗り出してくる矢吹。
俺はそれをやんわり制して、考える。
最後の方で分かった事…か。
分かった事なら沢山あった。
主犯がフランソワ先輩で、彼らは11SAMURAISという名の原野さん親衛隊を結成していて、その親衛隊が俺に警告していて、その中でも有力幹部が2人いて、1人はあの時告白していた田辺君、もう1人がいつも図書委員として図書館にいた桐谷君で、彼らは俺達を見張る役目を………、…・・て、え?
その時だった。
何かが引っ掛かった。
足りなかった情報のせいで無視していた可能性。
いつものあの図書委員は主犯、彼は俺の監視役、毎日通っていた図書室、荷物はそこにおいて、休憩する為に外へ、俺はそれを毎回、そして、半紙を見つけたのはいつも図書館を出た……後?
「おいおいおいおいおいおいおいおい見てくれちょっと見てくれ!!!!!」
思考が辿り着きそうになったところで、いきなり。
俺の席に篠原が突っ込んできた。
「え?!」
「おわっ、ぷぐえ!!!!」
………というか、矢吹に体当たりする形だった。
「し、篠原!?」
「ちょ!!!!なにすんだよいてええ!!!!」
「悪い矢吹、ちょっと暴走したわ!それより、これ見ろよ!!いや、見てくれ、是非見てくれ!!」
篠原が俺達の前で、ばっと、半紙を広げた。
そこには。
肝
胆
相
照
………超がつくほどの達筆で、そう書いてあった。
「うおおおお………相変わらずうっめーな、お前………」
矢吹が半ばあきれたような声を出す。
………。
俺は、驚きすぎて言葉が出ない。
これ、これって。
「篠原の、……字?」
「おうよ!」
篠原はニカッと笑う。
「良い出来だろ?今度、書道雑誌かなんかに学校代表で送るってさっき先生に言われてさ!」
「相変わらず高校生とは思えない達筆さだよね。」
いつの間にかやってきていた末永の声。
「篠原の字を見慣れたら、他の墨字が下手に見えて仕方ないよ。」
「褒めすぎだっての!!」
照れ笑いしている篠原。
つ…ついていけてないのは俺だけ?
「え、え?みんな、知ってたのか?篠原の、字…」
「うん?知ってるよ?」
「何言ってんだ誠よ…。有名だろ、篠原の墨字の達筆さは。」
「まあ、墨字だけだけどね。なんで硬筆は微妙なんだろうね。」
「そうだな、鉛筆字はふにゃふにゃだよな!」
「ちょ、それを言わないで!!」
切なそうな顔をする篠原。
楽しそうな末永。
まだわき腹をさすりながら矢吹が言う。
「てか、『肝胆相照』って……お前、何だよそれ。何て読むんだ?」
「“かんたんあいてらす”!!なんだよ、矢吹お前、現国勉強しなかったのか?四字熟語の発展のとこに載ってただろ?」
「…存じませぬな。かはは」
「お前、俺より良い点取ってたらしばくからな……。とにかく、現国の教科書に載ってたんだよ!それでいい字だなーって思っててさ。」
「けど、それの意味なんだったっけ?字の感じは覚えてるけど、意味が……」
末永の言葉に俺は言う。
「…“互いに心の底まで打ち明けて親しくつきあう”……だよな。」
「お?中澤流石、勉強してるな!!」
篠原は嬉しそうに笑う。
俺は驚きすぎて笑えない。
「ちょっと最近、学校楽しいからさ。なんでも話せる奴らが増えてさ!!中澤とか、やっと仲良くなれたし!」
篠原がひひひと笑う。
「篠原ってそういう臭い感じの好きだよね。」
「なんだよー、ナイスチョイスだろ?今まではなんでも話せるのってあっきーだけだったけど」
「だからあっきーって言うな。」
「いいじゃねーかケチ!!」
「だめだ。それだけはだめだ。」
「なんでだよー!!」
「ちょい、篠原、オレっちは?!オレっちは無視かよ?!!」
「矢吹はなんだかんだ言ってずっと喋ってたからノーカンだよ、ノーカン!!」
「オレっちももっと仲良くなったじゃねーか!!!もっと気にかけて!!!」
「何だよそれ!!!」
楽しそうに言い合いをしている三人。
俺は、重大な見当違いをしていたようだ。
机に投げ出された篠原の習字を見る。
篠原はあの半紙よりも字が綺麗だとか。
半紙を入れるタイミングは図書委員にもあっただとか。
そんなことはどうでもいい。
『中澤とやっと仲良くなれた』と言ってくれた篠原が、こそこそとあんなことをするはずがないだろう?
肝胆相照―――――――その言葉がまぶしく光って。
俺は目を細めて、笑った。
ああ、今日は良く眠れそうだ。
To be continue…