6."11 SAMURAIs" -f5 『待機』
-f5『待機』
『毎日同じ場所に半紙を挟んできてるんだから、こっちからメッセージを送ってみるのも手なんじゃない?“なにか用があるなら直接言え”ってさ。』
帰り際、矢吹に聞こえないよう末永にこっそり耳打ちされたのが、もう四日前のこと。
今日は金曜日だ。
期末テスト前最後の授業日だったので午前中までの短縮授業の今日。
まだ午後二時を回ったばかりなのに、すでに教室には誰もいない。
俺はその静寂の中、自分の席に座っていた。
末永に助言された次の日、俺は行動を起こした。
本当はもっとぐだぐだ悩みたい所だったが、話を聞いてくれた末永の手前、そうも言っていられない。
方法はどうしようかと考えたところ、結局、見つけやすいように付箋を付けてメモを挟むことにした。
『何か伝えたいことがあるなら、直接どうぞ。』
…すると、その反応は迅速だった。
挟んだその日、家に帰って確認したらもうそのメモは消えていて…、そして次の日。
水曜日にはもうレスポンスがあったのだ。
【申沢言成
我々は貴殿に言うところアリ。
来る金曜日、午後二時半、貴殿の授業教室にて待たれよ。】
…名前が段々本名から離れてしまってもはや原型を留めていないが、それは良いとして。
相変わらずの墨字の半紙で、このメッセージを寄越してきたのだった。
『我々』か。
これで複数人の仕業ってことが確定したわけで、いよいよ末永の推理が正確になってきた訳だ。
きっと俺は直接、原野さん関係について親衛隊の面子に異議申し立てを受けることになるのだろう。
その点に関して、俺は親衛隊の人達にとって申し所だらけに違いない。
…申沢だけに。
どう対処しようか。
取りあえず、もう変なことをするのは止めてもらわないと。
でも、相手の話もちゃんと聞かないといけない。
自分の主張をきちんと言えるかに不安があったが、知らない人なら何とかなるかもしれない。
“何を言われるか”。
俺にとって心配なのはそこじゃない。
一番の問題は、“誰が来るか”なのである。
…万が一、篠原が来たらどうしよう。
もしも予想通り篠原が原野唯陽親衛隊に入っていたとして、今日、今から、直接俺に文句を言いに来たら。
…考えるだけで凹んできた。
間髪入れずに謝ってみようか。
そうしたら…なんかこう、サクッと上手く行かないだろうか。
…そうだそうしよう、謝ろう。
それが一番良いだろう…多分だけど。
俺は一人で頷く。
時計が廻って、鈍足で分を刻む。
長い。
二時を回ってから時間が進まない。
30分まで、あとどれくらいあるというのか。
なんだかイライラしてきて、髪を乱暴にかき乱した。
……その瞬間だった。
ガラッ
と、扉の開く音がした。
その音に、俺は弾かれたように立ち上がって。
ドア付近を見る。
すると、そこには。
篠原啓太が、いた。