表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水底の微熱  作者: 静月 杳
冷たい触覚
4/5

冷たい触覚4

次の日、大学のキャンパスで、また高槻くんに会った。偶然だった。私が売店で昼食のパンを買おうと列に並んでいると、彼が後ろから声をかけてきたのだ。


「あ、水面さん。こんにちは」


昨日と同じ、屈託のない笑顔。私はまた、どう反応していいか分からず、小さく会釈を返すことしかできなかった。


「昨日はどうも。学生証、ちゃんとあってよかった」

「……うん」

「水面さんって、いつも一人なの?」

唐突な質問だった。私は少し驚いて彼を見た。彼の目には、好奇心と、ほんの少しの心配のような色が浮かんでいるように見えた。


「……別に」

そう答えるのが精一杯だった。本当は、いつも一人だ。一人でいることを選んでいるわけではないけれど、結果的にそうなってしまっている。


「そっか。もしよかったら、今度、みんなでご飯でも行かない? 俺の友達、何人か紹介したいんだけど」

悪気のない、本当にただの提案なのだろう。でも、私にとっては、それはあまりにもハードルの高い誘いだった。


「……遠慮しとく」

私の声は、自分でも冷たいと感じるほどだった。


高槻くんは、一瞬、傷ついたような顔をした。でも、すぐにまた、いつもの笑顔に戻った。「そっか、残念。じゃあ、またね」

そう言って、彼は自分の買うものを選び始めた。


私はパンを買い終えると、逃げるようにその場を離れた。彼の視線を感じたような気がしたけれど、振り返ることはできなかった。


なぜ、彼は私に構うのだろう。

私には、彼に何かしてあげられることなんて何もない。むしろ、関わらない方がいいに決まっている。私の内側にある闇に触れたら、彼だって不快な思いをするだけだ。


それでも、胸の奥が少しだけちくりと痛んだ。それは、罪悪感なのだろうか。それとも、ほんの少しだけ、彼の誘いに心が動いた自分に対する、自己嫌悪なのだろうか。


その日の夜も、私はいつものようにバスルームへ向かった。そして、冷たい陶器の角に身を預ける。目を閉じると、高槻くんの、少し傷ついたような顔が浮かんできた。


まただ。どうして、彼の顔が浮かんでくるのだろう。

私はそれを振り払うように、もっと強く、もっと深く、体を押し付ける。

痛み。熱。そして、ほんの少しの、名前のない感情。


この感情は、何?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ