第37話 襲撃
カクヨム版よりやや変更しています。ストーリーは大丈夫です。
「さて、次の予定は…………」
何か月前、インテス王国のある屋敷にて。朝食を取った後、ガバスは懐中時計を目にしながら予定を思い出す。記憶力にかけては、彼はかなりの自信があった。次の予定を鮮明に思い出し、まだ余裕があることを確認する。そして、彼は自身の部屋ではなく、一人娘の部屋へと足を運ぶ。
ガバスは妻をかなり早くに亡くした。不運な事故によってだった。老朽化という不運な形で起き、ほぼ即死だったため、医者を責めるつもりは毛頭ない。それは筋違いというのは彼が一番よく分かっていた。彼に残ったのは、妻の遺産と1人しかいない愛娘のみだった。
妻を早くに亡くした分、ガバスはより一層に娘を可愛がった。今思い返せば、いわゆる親ばかという物だっただろう。だからか、娘は少々わがままな娘になってしまった。
「マリア、起きてるかい?」
娘の部屋をノックする。父親といえども、無断で部屋に入るのは許されることではないとガバスは思っていたからだ。しかし、娘の返事は来ない。まだ寝ているのだろうか? 邪魔するのは悪い。そう思い、娘の部屋を後にし、自分の部屋へと行く。
自分の部屋に入り、中心にある椅子に腰かけた。妻がいた時からの愛用している物であり、これに座るのが一番落ち着くのだ。そして、本でも読もうとした時、1枚の手紙が目に入った。
「何だ?」
不思議になりながら、ガバスは手紙を開ける。そこには、判別できない文字でこう書かれていた。
*************************************
娘は預かった。返してほしければ、指示に従え。
*************************************
*****
「エドガーさん、今日はどうするんですか?」
「どうしようか…………」
朝食で出たホットミルクを飲みながら、エドガーは考える。任務が変わったとはいえ、無事に終えることが出来た。祭りを見て回って帰るつもりだったが、それまでまだ日がある。何をやろう。エドガーはそう考えていた。
「決めてないんですか?」
「思いつかないというか………」
「なら、美術館に行くのはどうです?」
「美術館ですか?」
インテスは元々、美術も有名な街だ。歴史がある国ゆえに、美術品も数多く存在する。また、第二次人神戦争で失われた古代の美術品も数多くある唯一の国だ。それもエドガーは知っていた。が、美術館に行くという選択肢はあまり思い浮かばなかった。
「そう、美術をあまり知らない人でも楽しめるようになっているの。よかったら、どう?」
「いいかもしれない。ルーシーも一緒に行く?」
「私も行きたいんだけどね。宿の仕事があるの」
心底残念そうにルーシーがそういう。まぁ、仕事の方が優先だし、仕方ないか。そう思い、エドガーはホットミルクを飲み干すと席を立つ。
「そういえば、アーツ君はどうしたんですか?」
「まだ寝ている。疲れているのかな」
時刻は9時過ぎ。普通の人ならそろそろ起きている時間だが、昨日よっぽど遊んだのだろうかとエドガーは考える。まぁ、何もなければまだ寝てても大丈夫だろう。そう思いながら、宿を出ることにした。
「気を付けてねー!」
「ありがとうございます」
*****
祭りの日が近づいているからだろうか、街の中が再び観光客で溢れれている。エドガー自身もその1人であるのだが、異様に多いなと思った。
「この感じだと美術館も多そうだな」
エドガーが行くのは、インテスの中でも特に有名な美術館だ。宿を出た後、エドガーは街で観光本を買い、美術館はどこにあるのかを調べた。本を読んでみると、割と美術館が結構あるのだ。エドガーはとりあえず、近く有名な所がいいなと思い、その条件に合う美術館に行くことにした。
行く場所を決めたら、あとは観光本にしたがって行くことにした。
「楽しみだな」
エドガー自身、美術館にそこまでは興味を持ってなく、行ったこともなかった。が、案内本を読んでいくうちに楽しみになったのである。こういう本って、割と興味持たせるの上手いよなとエドガーは歩きながら思う。
街の様子を見ながら歩いていると、横の角から誰かが凄いスピードで出て来た。エドガーはぶつからないように急いで避ける。危ないなと思いつつ、エドガーは少し気になり走っていった方を見た。出て来たのはそこそこ身分がよさそうな少女。ウェーブのかかった金髪をしているが、後ろ姿なので顔は分からない。ただ、走っている背中からも何か急いでいるというか、焦っているようにも見えた。
どうしたのだろうと思い、エドガーは見ていると同じところから誰かがかなりのスピードで出て来た。1人ではなく、複数人。姿はどれも普通の人のようにも見えるが、何となく違うとエドガーは感じた。
エドガーはばれないように、ちらりと表情を見る。すると、物凄い怒りと焦りを浮かべていた。そして、そのままおそらく少女を追いかけるように同じ方向へと走っていく。ただならぬ雰囲気を感じ、エドガーはバレないように追いかけた。
少女とそれを追いかけている人は、人気の少ない道まで走っていく。エドガーも気配を消しながらそれを追っていく。そして、行き止まりの所で止まった。エドガーはいつでも、攻撃に移れるように準備をしながら、陰で様子を伺う。
「ったく、余計なことしやがって」
「で、どうするんだこの娘?」
「上からは命を取るなって言われている」
「しゃあねぇか。おら、適当に殴れ」
怯えているのか、喋ることが出来ずただ立っている少女。それを横目に、おそらくリーダーらしき人が何やら、部下に合図する。言われた部下は、棍棒を取り出した。
さすがに、マズい。そう思い、エドガーは剣を持ち駆ける。そして、殴ろうとした部下の手を、一切の躊躇なく剣で斬り落とした。
「いってぇぇぇっぇ」
野太い悲鳴が響く。が、そんなことは気にしない。エドガーはそのまま少女の目の前にいる男の背中を剣で斬り裂く。
「ってめぇ、何しやがる⁉」
ようやく第三者に襲われていることに気づいた男たちはエドガーの方へと注意を向けた。少女に目を向けている者はいない。エドガーは無言で少女に逃げるように促した。それを見た少女はエドガーに対して、会釈をし、路地裏から逃げた。
「邪魔すんじゃねぇ!」
男の1人がそう叫びながら、野太い剣を取り出しエドガーに襲い掛かる。それを避け、エドガーはそのまま剣で手を斬り落とした。どうやら、男たちに治癒魔術の心得がないらしい。幸いだとエドガーは思う。すぐに治されたらエドガーも困るから。
そのまま、男たちの攻撃を避けつつ、死には至らない程度の怪我を負わせていく。そして、誰も喋らなくなった所でようやくエドガーは一息ついた。
「にしても、何だろうこいつら………」
正体が分からないため、殺していいのかエドガーは判断が付かなかった。とりあえず、死なない様に応急処置をしておく。そして、何者か探るために少し何か持ってないか探し始める。が、特に何も無さそうだなと思い、帰ろうとした時だった。
「────ッッツ」
後ろから突然誰かに襲われる。エドガーは咄嗟に対応するも、力で押される。一回、突き放し、誰なのかを確認する。が、魔術を使っているのか誰かもわからない。どう攻めるか迷っていた時だった。
「ッツ⁉」
横から痛みが襲う。誰だ。そう思いながらも、すでに景色がぼやけて居て分からない。物凄い痛みにエドガーの意識が遠のいていった。
*****
「予想外なことが起きたな………」
ついさっき、倒れたばかりの青年を見ながら男はそう呟いた。割と勢いよく殴ったが、まだ死んでいない様子。頑丈だなと思いつつ、留めをするか迷っていた。
「見られたか、顔?」
「たぶん、ないとは」
「たぶんか………」
そして、最初に強襲した男がやや苛立ちながら呟いた。見られていないことを願いたいが、その可能性がある以上、無視は出来ない。少しだけ男は考え、そして先に殴った男に命令をした。
「殺せ」
「わかった」
そして、命令された男は一切の躊躇なく再び青年を殺そうとする。その時だった。
「ねぇ」
ふと、後ろから声が聞こえた。無機質であるが、まだ少年と言える年齢のような声。驚いて2人がそちらを見ると、そこにはまだ7歳くらいの少年がそこに立っていた。
「俺、その人の知り合いなんだ。連れて帰りたいんだ。あと、出来れば国に投降してほしい」
青年がかつて聞いた声とは一線を画すように違う。少年でありながら、どこか大人びているようにも聞こえている。ハイライトがない瞳でアーツは、男たちを見ていた。
一見、現実とは思えない光景に男たちは一瞬だけ唖然とするがすぐに我を取り戻す。
「駄目に決まってんだろぉ!」
そう叫ぶとすぐさまに青年のそばにいた男は殴りかかろうとする。が、それは一瞬の事だった。男たち2人の景色が、だんだんと下に下がっていく。そして、コンッと何かが落ちた音が同時に聞こえた。
2人の頭がない身体が倒れていくのを、アーツは何も感じさせない瞳で見ている。右手には血の付いた細い木の棒を持ち、もう片方の手には青年エドガーを担いでいた。
「えっと……、シャフあたりに頼んで。あと、急いで手当をしなくっちゃ」
裏路地が血だまりになっているのを慣れたかのように見ながら、アーツはそう呟く。そして、路地裏の奥の方を見た。が、何もない。
「………? 誰かいたような気がしたんだけどな。…………あぁ、そっちか」
自分が来る前に誰かが移動したのだろう。アーツはそう結論付ける。まぁ、シャフに伝えておこう。そう思い、どこかに逃げた足音を思い出した。年齢は、二十代手前くらいの女の子。たぶん、すぐに追いつけるだろうがアーツとしてはエドガーの方を優先したい。
「うん、エドガーを何とかしてからそっちに会いに行こう」
そう考え、アーツは空へ向かって飛ぶ。そして、どういう感情かははた目には分からないまま、宿へと向かっていった。




