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第36話 魔法国の魔術師達

 その後、アーサーやエティアとの茶会は思ったより話が弾んだ。帰って来た使用人たちもアーサーに誘われ参加し、にぎやかな物になった。エドガーは自分の冒険を話せる範囲で話す。アーサーはそれを穏やかな笑みで、使用人たちはそれをキラキラしたように聞いていた。ただ、1人を除いては。

 灰色の髪を結んでいる、どこか見覚えある顔立ちのエルフの男性。使用人の中でも唯一、執事だった。名前をリアンと言うらしい。リアンはエドガーが話している間、睨むように見ていた。


「すみません、エティアさん」

「あら、どうしたの?」


 茶会が終わり、たエティアにエドガーは話しかけた。部屋には、エティアとエドガーしかいない。アーサーは用が出来たらしくどこかへ行った。エティア曰く、すぐに戻ってくるだろうとのこと。使用人たちも仕事へと戻っていった。ちょうどいいタイミングだった。


「あのリアンって執事いるじゃないですか?」

「えぇ。昨日からの子ね」

「昨日から?」

「そうよ。最近入って、一時的に働いているの。真面目な子よ。リアンについて聞きたいの?」


 不思議そうにエティアがエドガーを見つめる。まぁ、エティアからしてみたら突然、聞かれて不思議なのだろう。当然だなとエドガーは思う。


「いや、なんか嫌われているのかなって………」

「あら、そんなことないと思うわ。貴方と少し会話していたけど、嬉しそうだったわよ?」

「そうですか?」


 エドガーはそういわれてもよく分からない。とはいえ、エティアから見たら、そう見えたらしい。実際、本人がいないのでどうかは分からないが。


「そういえば、エティアさん。もしかして、書物を調べているのって………」

「私よ。でも、まだ調査中だし、結果は公にする前には言えないわ」

「ですよね。すみません」


 エティアと聞いて、ずっと思っていたが、やっぱりそうかとエドガーは思う。博物館で見かけた文字を思い出し、同一人物じゃないかと思っていた。そう思い、エドガーは書物の事が気になったのだ。まぁ、教えてくれるとは思っていなかったが。


 すると、ノックが叩かれる。エティアが許可を出すと、1人のメイドが入って来た。赤髪のメイド、名前は確かミアルと言っただろうか。


「魔道師様は用が出来、行けないそうです。エティア様にエドガー様をお願いしたいと伝言を預かっています」

「了解したわ。ありがとうね」

「いいえ、それが私たちの仕事ですから」


 そう言うと、お辞儀をしミアルは出て行った。その姿を微笑まし気にエティアは見ている。


「いい子でしょう? 今いる使用人たちは今日のために雇ったのだけど、あの子だけはアーサー個人にずっと仕えているの」

「そうなんですか」

「えぇ。アーサーって、あまり使用人は雇っていなくてね。あの子も本来は雇わなかったのだけど、ミアル本人の熱烈な希望で例外的に雇っているの」

「よほど慕っているんですね」

「えぇ。アーサーに孤児だった所を救われたっていうのもあるでしょうね」


 いい話だなとエドガーはほっこりしながら、エティアの後をついていく。廊下を歩いている間、エドガーは王宮の中を見ていた。もう入ることはないだろうし、どうせならしっかり見ておこう。そう思ったのだ。

 玄関の扉が開かれる。やや温かい風がエドガーの肌に当たる。もうすぐ夏だなとエドガーは外に出て思った。


「色々とありがとうございました」

「いいえ、大丈夫。エドガー君、気を付けてね。もう日は落ちているし」

「大丈夫です。すみません、あと魔道師様に伝えておいてほしいことがあるんですが」

「あら、何かしら?」

「俺たち、どこかでお会いしましたか?でお願いします」

「?」


 エドガーの言葉を聞いて、エティアは不思議そうにする。正直、エドガー自身も自身は無い。アーサーの顔を見て、妙なほどに既視感を感じているがそれが本当かもわからないのだから。


「わかったわ、伝えておくわ」


 が、それでもエティアは微笑みながら了承してくれた。申し訳ないと思いながら、エドガーは旧王宮を後にした。


*****


 もう夜かと思いながら、エドガーは街まで歩いていく。エドガーが泊っている宿がある街と旧王宮の距離は割とある。とはいえ、魔物とか出る雰囲気ではないので、まぁいいやとエドガーは思う。

 そんな時、近くで物音が聞こえた。人があまり通っていないので、何だろうと思い、エドガーはそちらに近寄る。すると、そこには眼鏡をかけた黒髪の男性とその部下達と思わしき人物がいた。


「ふむ? 誰かね?」


 エドガーが見ていることに気づいた男性は、エドガーの方に目を向ける。エドガーは慌てて、名を名乗った。


「すみません。冒険者のエドガーと申します。近くを歩いていたら、たまたま音がしたので何があったのかと見に来ました」

「あぁ、そうか。私の名は、シューリ・アワード。魔法国の魔術機関、八つの塔『黒魔術学塔』で働いているよ」


 『八つの塔』。エドガーも名前はリネスあたりから聞いたことがあった。魔法国の魔術機関であり、魔法国の魔術師はそこに属している。確か、ランク付けがされていて、冒険者と同じ『紅』~『紫』まである。そしてそれぞれの分野でトップに君臨するのが、『塔主』と呼ばれる存在だそうだ。

 エドガー自身、リネスに聞いた話しか知らないので詳しいことは分からない。


「『八つの塔』、もしかして、『塔主』ですか?」

「いやいや。私はまだそんな崇高な存在ではないよ。せいぜい、『紅』になったばかりだ」


 口は微笑んでいるが、目はどこか陰鬱げだった。冒険者と魔法国の魔術師のランクは基本同じ。違う所は、『紅』の上に『塔主』と呼ばれる存在がいるくらいだ。エドガーはその『塔主』がどれだけ凄いかは分からない。でも、だからこそ『紅』になっている時点で凄いじゃないかとエドガーは思う。


「それでも、凄いじゃないですか」

「そう言ってくれて嬉しいよ」


 久々言われた言葉にシューリは微笑んだ。だが、エドガーはその様子がどこか疲れているにも見えて、思わず声を出す。


「大丈夫ですか? その荷物を運ぶの手伝いましょうか?」

「いいや、大丈夫だよ。これは魔道師様からの言われたことだからね」

「そうですか……」


 とはいえ、無理強いは出来ない。かたくなにも自分で運ぶという意思を感じられたので、エドガーも引くことにした。


「ところで、何の荷物ですか?」

「これかい? これは、祭りで使う物だよ。魔法国は今回、祭りに軽い出し物はするからね」

「へぇ、それは楽しみです」

「うん、祭りを楽しんでくれ」


 そう言うとシューリは荷物を持ち、部下達と歩き出した。大丈夫だろうかと思いつつも、エドガーは元の道に戻っていく。あちらの事情があるだろうし、エドガーにはどうしようも出来ないからだ。


*****


「エドガーさん、ご飯準備していますよ」


 宿屋に帰ると、ルーシーが出迎えてくれた。そのまま、レストランに行く。アーツはいなく、ルーシーは曰く寝ているらしい。椅子に座り、待っていると海鮮がたくさん入ったグラタンが置かれた。


「美味しそうですね」

「ありがとう。今日、海鮮が良い値だったの」


 ルーシーは嬉しそうに話す。その話を聞きながら、エドガーはグラタンを口にした。暖かく、安心できる味にエドガーは息をつく。ようやく、心も休めるような気がしたからだ。


「にしても、こんな遅くまで。大変ですね、冒険者さんも」

「あぁ、今日はちょっと色々あったというか………」

「? どうしたんですか?」


 どこか好奇心旺盛げにルーシーはエドガーを見つめてくる。エドガーはどこまで話すか考え、ある程度決めた後、口にした。


「今日、魔道師様から急遽の依頼が入ったんです」

「へぇ、凄いじゃない! どんな依頼だったの?」

「話を聞かれたんです。何と言うか、想像以上に穏やかな人でした」

「私も会ってみたいなぁ~」

「俺ももう会えないでしょうし………」

「あら、分からないわよ? また、いつか呼ばれるかもしれないじゃない」


 悪戯げに笑いながら、ルーシーは言う。会えるのは嬉しいが、心が持たなそうだから定期的ではないと良いな。エドガーはそう思う。


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