第35話 魔法国の指導者
カクヨム版よりも加筆・変更を行いました。ストーリーは変わっていません。
「旧王宮ってここか?」
支部から20分歩いた先についた。エドガーの目の前には、やや古めな所がある豪華な2つの建物が並んでいた。1つは中心に堂々と構えている。おそらくこちらがかつて王宮として使われていたんだろう。そして、もう1つはおそらく別館見たいな奴なのだろう。中心にある王宮よりはやや小さい。しかし、どちらも派手ではあるが、派手過ぎない。ちょうどいい美がそこにあった。
「にしても、何で?」
普段なら圧倒される建物を目の前にして、エドガーは別の事で頭がいっぱいだった。魔道師、アーサー・ウェストンに勅命で依頼された、その理由についてだった。一応、護衛という形で依頼された。が、あの魔道師が自分に依頼する理由がエドガーにはわからないのだ。魔道師ならエドガーより強い人物を護衛にすることなどいくらでも出来る。というか、冒険者なんて雇わなくても自国にいっぱいいるだろう。
だから、理由がないのだ。エドガーを護衛にわざわざ指定する理由が。なぜと理由を考えていくうちに、エドガーばもしやと思った。俺、何かやったか?と。何か、魔道師がキレるようなことをして、それで問い詰められるのか………。その理由も思い浮かばないが、護衛よりは現実味ある話だ。
そう思うと、中々足を踏み出せない。時間的にそろそろ行かないとダメなのはわかっているが、とても行ける状態ではなかった。完全に固まっている。その時、エドガーの後ろから突然声が現れた。
「あら、どうしたの?」
綺麗だ。その声を聞いたエドガーは、無意識にそう思った。通常の人間ではおおよそ出しえないような、透き通った声。エドガーとしては、リネスの声の方が好きなのだが、それでも綺麗と思わざる終えない。
「その恰好的に冒険者さんかしら?」
エドガーがそんな事を考えている間、後ろの人物はそう呟いている。我に返り、エドガーは慌てて振り向いた。そして、目の前の人物を見て、思わず息をのんだ。
純白かつ透き通った長い髪に、ほっそりとした体つき。今にも折れそうなほどに細く、顔立ちは人とは思えないほど整っていた。金色の瞳を伏せ、その人物は不思議そうにエドガーのことを見ている。そして、あぁと思いついたように口にした。
「もしかして、アーサーから依頼されたエドガーさん?」
「あっ、そっ、そうです!」
深呼吸をしたが、やはり緊張で上手く喋れない。エドガーは内心、自分自身に呆れる。そんなエドガーに対して、特に気にする様子もなく目の前の人物はにこやかにエドガーの手を取る。
「じゃあ、行きましょう」
「⁉」
心の準備をする暇もなく、エドガーは目の前の人物に連れられて行く。どうなるんだろうかとエドガーは内心不安に思う。
*****
純白の女性に連れられ、エドガーは旧王宮に入った。外以上に中は凄いとエドガーは思う。一つ一つが丁寧に作られ、歴史の趣すら感じられる。これが今は、来客用になっているのがもったいないと心の底で思った。
「綺麗でしょう? ここは、数十年前までは本拠地として使われてたの」
そんなエドガーの様子を察したのか、純白の人物は微笑みながら解説する。個人の好みとしては、リネスの方が好きなのだが、それでも天使、そんな言葉が喉から出てきそうになるくらいには純白の人物は綺麗だった。
「なら、どうして使われなくなったんですか? まだ、使えそうですよ」
「そうね。実際、少しの改良と掃除を加えればすぐに使えるでしょうね。でも、それはもうないでしょうね」
エドガーの疑問を肯定しつつ、静かに否定する。その姿を見て、冒険養成学校の教師がエドガーの脳裏に出て来た。
「何でですか」
「先王の時代、ある魔術を設置し始めてね。その近くに王宮があった方がよかったのだけど、ここじゃ設置しにくかったの」
「設置しにくいとかあるんですか?」
「えぇ。転移魔法陣とかがその一例ね。今回は少々違うのだけど」
エドガーは専門的に魔術を学んでいない。なので、今の話は少し驚いた。そういうのもあるのか、縁があるかは分からないがためになる話ではある。
「そう。とはいえ、どうしても魔術を設置したかったようで、設置する場所に新しい王宮、つまり今使われている城を建てたの」
「へぇ。でも、なんか勿体ないですね」
「その気持ちも分かるわ。とはいえ、今も来客用としては機能しているから、まだ寂れることは無さそうよ」
こちらに言っているが、当本人が一番うれしそうだった。まぁ、エドガーもこんな綺麗な建物が寂れるのは惜しいなと思う。そう感じていると、一番奥の部屋の前で純白の人物は立ち止まった。
「さて、そろそろアーサーがいる部屋に着くわ」
「あっ………」
「緊張してるでしょう? それを解けってのも難しい話よね。でも、アーサーはそこまで気難しい人でもないから、まぁほんの少しでも気を楽にしてね」
優し気に純白の人物はそういう。エドガーは無理な話だと、内心思った。圧倒的に立場も力も上の、世界では名を知らぬものはいない人物に会うのだから。
エドガーが深呼吸していると、扉が開かれる。そして、目の前には金色の髪を持つ王子様のような美青年が微笑みながら、立っていた。
「やぁ、初めまして。エドガー君」
エドガーを呼び出した張本人、魔道師アーサー・ウェストンは嬉しそうに微笑みながら近寄ってくる。彼自身にはそんな気は一ミリもないのだろう。しかし、目の前の現実にエドガーは緊張で固まる。
「エティア。私は何か飲み物を入れてくる。せっかく来てくれたんだ。もてなさくては」
「もてなすのはそうですが、それは私がやりますよ。貴方が入れると、エドガーさんがさらに緊張してしまいます」
エティア、そうアーサーに呼ばれた人物は微笑みながらもアーサーの行動を制す。魔道師にその行動が出来る限り、割とこの人も偉い人なんだろうかと固まりながらエドガーはそう思った。
「私としては、その緊張をほぐそうとしたんだけどな………」
「それは逆効果よ」
再度、エティアはたしなめ、部屋を出て行った。エドガーの周りには、アーサーのみ。気遣いはすっごい嬉しいんだけど、1人にしないでほしいと緊張で心臓の鼓動がさらに高鳴っているのを確認しながら、エドガーはそう思う。
「ソファに座ったらどうかな。インテスのソファは座り心地が良い。立っているのは疲れるだろう?」
アーサーはエドガーに手招きをする。人生でそんな光景に遭遇するとはエドガーは思いもしなかった。とはいえ、アーサーの気づかいを無下にするわけにもいかない。心臓を必死で落ち着かせ、エドガーはソファに座る。高級ソファって、こんなに心地いいのかとエドガーは新たに覚えた。
目の前で改めて、アーサーをエドガーは眺める。ここまで至近距離で見れるとは思っていなかったが、ふと思った。あれ、既視感があるなと。前に見たことはあるが、それでもまるで前にもあって話したことがあるようにもエドガーは覚えた。
「さて、改めて挨拶をしよう。私の名前は、アーサー・ウェストン。魔道師の名も賜っている。世間では、英雄ともいわれているがね。ウェスタリア魔法国の指導者もしている者だよ。末永く、よろしく」
軽くお辞儀をし、アーサーは流暢にそういう。もちろん、今アーサー話したことは全て知っていた。が、まさかアーサー本人に言われる日が来るとは、エドガーは思っていなかった。
挨拶をされたら、こちらも返すのが礼儀だ。エドガーもそれは分かっている。が、緊張で中々、言葉が出てこない。
「大丈夫。ゆっくりでいいよ。時間は有限と言うけれど、私たちの間ではまだまだあるからね」
「すっ、すみません」
アーサーに気遣われたのが申し訳なくなり、エドガーはゆっくりとだが、しっかりと口を開いていく。
「今日は指名依頼ありがとうございました。エドガーです。冒険者をやっております。ランク『藍』になったばかりの新米ですが、よろしくお願いいたします」
頑張った。エドガーは自己評価高めにそう思う。緊張で心臓はさらに鼓動を早くしているが、それでも止まらず頑張ったとエドガーは思う。アーサーも気を悪くした様子はない。むしろ、嬉しそうに穏やかに微笑んでいた。
「エドガー君でいいかな、呼び方は?」
「大丈夫、です」
魔道師に君付けで呼ばれる日が来るとは、夢にも思っていなかったエドガーは咄嗟に頷く。エドガーの様子を見ながら、アーサーは嬉しそうにする。何で嬉しそうにしているのか、さっぱり分からないエドガーは不思議にするしかない。
「さて、エドガー君。最初に君に言わなければならないことがある」
「なっ、何でしょうか?」
「君を呼び出した理由に護衛としただろう?」
「あぁ、はい」
「単刀直入に言うとね、あれ嘘なんだ」
まぁ、そんな気はしていた。何度でもいうが、アーサーにエドガーを護衛にする理由はない。エドガーもそれを最初から分かっているので、特に驚くことは無かった。
「君とちょっと話がしたくてね。ただ、あまり外に漏れたくないのも含んでいるから君を嘘をつかなくてはならなくてね」
急に怖くなる。エドガーはその理由を考えた。何だろう、何かやらかしたか? が、その理由は出てこない。少なくとも、今までの依頼でやらかしたというのは無かった。エドガーはそう認識している。
「申し訳ない。誠意がない対応であるには自覚している。君がこの街にいると知ってね。いつ会えるかもわからないから、話しておきたかったんだ」
そう言いながら、アーサーは頭を下げる。魔道師にこういう事をさせてしまったという申し訳なさがエドガーを襲うが、同時に疑問に思う。何でこの街にいることを知っていたんだろうと。
「いいえ、大丈夫です。それよりも、話しておきたいことって………」
エドガーは何で自分がこの街にいたことを知っているかも気になったが、それよりも話の内容だった。そこまでして、何を俺と話がしたいのか。その事をまず最優先させた。
「うん、主に二つ、あるんだ」
二つも? 本当に何だろう。不安になりながらも、エドガーはアーサーの話に耳を傾ける。
「一つはちょっと外部に漏れたくないから、外に内容を言わないでほしい。何度も、申し訳ない」
「いいえ。別に、そのくらいは」
「そうか。じゃあ、まずは話しても大丈夫な方から。君、樹海遺跡に行っただろう?」
「はい」
エドガーは色々あって、ジュナベル樹海遺跡という場所に行った。正確に言えば、落ちたというのが正しいかもしれないが。そこで色々やった。エドガーは久しぶりだなと思う。
「その件で改めて君にお礼を言いたくてね。あの後、我が国が調査して、今まで発見されなかったこともあった。それに妖精族の最後の一人がいたことも何よりの成果だ。君が樹海遺跡で生存しなければそれもなかったことだ。ありがとう、エドガー君」
「いいえ、別に。というか、あれはそもそもリネスさんが来なかったら、リーズがいなかったら俺1人では無理でした」
「それでも、だよ。それでも、君の功績には変わりない。前にもお礼をしたが、あれでは間接的だったからね。直接言いたかったんだ。そうだ。少し話が逸れるけれど、リネスは元気かい?」
「あぁ………、その、最近は会ってなくて」
「? 喧嘩でもしたのかい? まぁ、君たちにも色々事情があるんだろう。詳しいことは聞かないよ」
「あの、何でリネスさんと親しいこと知ってるんですか?」
「彼女から聞いたんだよ」
なるほど。リネスはランク『紅』を持つ現代でも数少ない冒険者だ。魔道師とも関係があるのもまぁ、おかしな話ではない。少なくとも、今俺が話しているよりも現実的だとエドガーは思う。
「まぁ、仲直りでもしたら、少し伝えておいてくれ。大丈夫かいと」
「わかりました。あっ、すみません。俺も質問していいですか?」
「大丈夫だよ。ただ、答えられる範囲になるけど、いいかい?」
「それでも大丈夫です。その、リーズは元気にしていますか?」
何か月前に別れて以来、会っていない。エドガーは、リーズが自分よりも強いのは知っているが、やっぱり元気にしているか心配だった。
「あぁ、彼女かい。彼女なら元気にしているよ。遺跡の調査を終えた後も、魔法国にいてくれてね。現在は、植物とかの研究をしているようだよ」
「そうですか」
それはよかったとエドガーは思う。エドガーにとって、リーズは命の恩人だ。元気にしていると聞けるのはやっぱり嬉しい。
「ありがとうございます。それで、秘密にした方がいいという話とは?」
「うん、そうだね。ところでエドガー君、三大魔術師のテアのゴーレムと会ったのは本当かい?」
「あっ、たぶんですが」
あの鉱山の件か。結果的に防げたとはいえ、下手したら大事に至っていた案件だ。どこまで知っているか知らないが、まぁ聞きたいのは当然だろうとエドガーは思う。
「たぶんと言うのは?」
「あんま、確証はないんです。あくまで、本人が言っていただけなので」
「そうかい。まぁ、うん。だろうね」
今まで打って変わって、アーサーは複雑そうな表情をする。少なくとも、テアの事を良いと思っている顔ではないなとエドガーは判断した。
「それがどうかしましたか?」
「あの場所で、ある合成された生命の死体を発見した。それは、およそ100つの魂で創られたようでね。もっとも、その魂は最近まで生きていたようだが」
「それを殺したのは、俺です」
ふと、あの自分が殺した人々の事をエドガーは思い返す。彼らを放置したら、どうあがいても外に多大な被害をもたらす。それに、あのような状況で生きているくらいなら、死なせるほうがいいだろうとも思った。エドガー自身、その判断を後悔するつもりはないが、死なせたことで何か言われるなら、別に言い訳するつもりはなかった。
が、アーサーはエドガーを責める気はないようだ。
「あぁ、その件を責める気はないよ。君は当然の判断をしたわけだ。とはいえ、申し訳ない。本来はあれは私のような人間にやるべきことだった。君たちに負担をかけるべきものじゃない
「いえ、その辺は別に大丈夫です」
「そうか、でも本当にすまない。今回のようなことが起きないようにしたい。だから、私はあの生命を作ったのが誰かをハッキリさせたくてね。その話をしたかったんだ」
なるほどとエドガーは思う。確かに、それなら呼び出したのも納得だ。とはいえ、そう言いながらも、どこか検討はついているようにもエドガーは思えた。なら、何でこの話をするのだろうとも疑問に思いつつ、エドガーは口を開く。。
「ゴーレムはテア本人が作ったと言っていましたが………」
「何か、証言以外で証拠になるのは見なかったかい?」
「すみません」
「いいや、大丈夫。あの魔術師がそういう確実な証拠を残さないのは、いつものことだからね」
「その死体から、なんか見つからなかったんですか?」
エドガーの問いにアーサーは少し複雑そうな顔をする。そして、溜息をついた後、苦々し気に口を開いた。
「見つからなかった。何一つ。分かったのは、100人の人種を合わせて作られたこと、ただそれだけだ。おそらく、君たちが去った後、本人が証拠をあらかた消したんだろう」
「でも、テアが犯人だって思っているでしょう?」
「というか、やりそうなのが彼しかいない。あそこまでのを作れるのは、現代の魔術師でも限られる。魔法国にでも、数人しかない。が、そのどれもが違うのは分かる。何せ、作られたであろう年代に彼らは生まれていないのだからね。それに、ここまで証拠が出ないくらいの技量となると、三大魔術師しかいない」
三大魔術師。歴史上の中でも特に優れていると評されている魔術師のことだ。それぞれ、ケイル、テア、エミナという。おそらく、世界でも優れた魔術師が集まっていると言われている魔法国ですら、彼らに並ぶ技量の持ち主は今はいない。アーサーはそれを分かっている。
「が、エミナはほぼ確実にあり得ない。あれは封印されていて、何か動きがあったなら感知できる。そうすると、ケイルかテアのどちらかになってくる。ケイルの方は、数千年前に姿を消している。現代の魔術界じゃ、死んでいるというのが通説だ。ただ、出来た時代にはまだ居たようでね。死んだとしても、その死体もどうやって死んだのかも分かっていない。だから、彼がやった可能性はある。ただ、やり口からしてテアの方だろうというのが、私の部下たちの見解だ」
「証拠がないと厳しいんですか?」
アーサーは再び、溜息をつく。そして、どこも変わらないように微笑んだ姿を見せる。面がいいな、エドガーはその姿を見てそう思う。
「彼は、その全てに証拠は見つかっていないが万を超える非道な行為をしていた。少なくとも、エドガー君も歴史の本で見たことあるような事件。そうだね、例えばシュプルター王国が滅んだ事件は知っているだろう?」
「確か、国が呪われて、王国の全員が屍人になった事件ですよね」
「そう、それ」
かつて、第二次人神戦争が起きる前、最南にシュプルター王国というのが存在していた。海洋生物と共存していたとされる国であり、海にある資源をほかの国々と貿易していたようだ。エドガーはリネスに貰った本にそんなことが書いてあったのを思い出す。あの時代は色々とヤバイ国が多かったが、その中でもかなり平和な国だったようだ。
が、ある日突然、王国の王家、国民、たまたまその場にいたほかの国から来た人々が屍人化したのである。死んでいるようで、死んでいない。が、理性はもうすでになく、ただ生命を呪い、食い散らかす存在になったのだ。そして、それと同時に王国自体も呪われ、人が入ることは出来ない場所になった。
「でも、確か最近入れるようになったんでしたっけ。呪いを解呪出来たんですか?」
「まぁ、そうだね。もっとも、完璧な解呪自体は出来ていない。入れるようになったのは、解呪とは別の方法だ。その辺は個人の魔術に関するから言えないけども」
「呪いと言えば、『魔女』エミナですよね。あの事件も彼女じゃないんですか?」
『魔女』。そう通り名で呼ばれている、三大魔術師の一角であるエミナ。三大魔術師の中でも、かなりのヤバイ人物であり、一度世界を呪い、一度神族勢力と協力し、一度世界を混乱に落とそうとした。最終的に、アーサーに封印されたという。その人物は、黒魔術の始祖であり、呪いを特に得意したとされている。だから、それも彼女がやったのだろうとエドガーは思った。
「まぁ、呪いに関してはエミナが随一だろう。でも、エミナは屍人化をしようとはしない。彼女に呪われた者はそれよりも悲惨な姿になる。それに何より、本人がそれを否定していた」
突っ込みたい所はあるが、何となく言わない方がいいとエドガーは思った。まぁ、それよりも悲惨な姿物という詳細を知りたくないというのが本音だった。
「その他にも、疑惑は上げるに上げきれない。が、それでも公にそういうことが出来ない。彼の功績ゆえだ。彼は我々の生活の中で必需品の物を数えきれないほど創りあげた。今ある薬のほとんどは彼のおかげで創られたと言ってもいい。彼の人気は絶大だ。今でも彼をしたっている組織・国はある。だから、罪を裁くとなるとそれ相応の証拠が必要になる」
悔しそうにそういうアーサー。おそらく、証拠はないがほぼ確定だとは思っているのだろう。それでも、裁けない。その悔しさがエドガーにも分かった。
「…………彼には実験以外にもあるのだがな。もっとも、その証拠は彼の口からの証言以外、もうないだろう」
「?」
「何でもない。彼の使者が自覚有り無しで、どこにいるか分からない。だから、なるべく外に漏れてほしくない。私が探していると知ったら、さらに姿をくらますだろうからね。今、話したのは君の中にとどめてくれないかな?」
「わかりました」
そう了承すると、ドアからノックが聞こえて来た。
「入って大丈夫かしら?」
「あぁ、すまない」
話が終わるまで待っていたのか、エティアはその答えを聞いた途端、入って来た。トレイに紅茶を乗せており、上品な香りが部屋に漂う。エドガーの前に紅茶が置かれる。匂いからして、かなり高級なのがエドガーにも分かった。おそるおそるそれに口付ける。
「美味しい………!」
「難しい話は終わりだ。しばし、休息をここで楽しんでくれ」
「そろそろ、あの子達も帰ってくれるでしょうしね」
「あの子達?」
誰の事だろうとエドガーは聞く。その問いに、エティアは微笑みながら答えた。
「アーサーに仕えている子達。今、客人が来ると聞いて、スイーツを買いに行ってくれてるの」
「彼女たちが帰ってきたら、一緒に楽しもう」
何と言うか、想像以上に穏やかな人だとアーサーを見て思った。もちろん、心が休まる気はしないが、お言葉に甘えてゆっくり休もう。エドガーはそう思い、再び紅茶に口をつける。




