第32話 娘と少年
軽く変更等をしました。ストーリーは変わっていません。よろしくお願いします。
「んじゃあ、俺は用があるから」
馬車を降りた後、バルガはそう言うとエドガーと別れた。エドガーはとりあえず、ここ数日泊まる宿屋を探すことにした。インテス王国の中心都市、キレルフはかなりの人で溢れている。普段これくらいいると言うよりは、もう少しで祭りだからだろう。たぶん、ほかの国からの客も集まっている。
「これ、宿屋開いてるかな」
あまりの観光客にエドガーはそう呟く。さすがに観光客が多い街なので、宿屋も多いだろうと思うがそれにしてもエドガーは心配になる。人混みをかき分け、どこかの宿屋を探し出した。
そんな時、裏路地の方に連れてかれていく少女を見つけた。あまりにも不穏な様子だったので、エドガーは宿屋探しを止め、そちらに向かう。人混み句をかき分けながら、ようやく裏路地をに続く道を見つける。エドガーは只事が起きる前に向かおうと駆けていく。
そして、裏路地の奥でようやく見つけた。エドガーの視線先には、五人くらいの盗賊らしき集団は少女を囲っていた。外見は金髪に若草色の瞳、ウェーブがかかった長い髪を持ち、どこか愛らしい顔立ちをしている、いかにも町娘といった少女だ。
「冒険者だ!?」
盗賊の1人がエドガーを見て、そう叫ぶ。冒険者と聞いた盗賊たちは慌てて逃げ出した。エドガーもその様子を見て、少し安心した。戦いにならなくて、良かったと。
「ありがとう」
ほっとしていたエドガーに、少女が声をかけた。どこか申し訳なさそうにしており、その心情を察したエドガーは慌てて言葉を口にする。
「大丈夫。それより、君は?」
「大丈夫。急に連れかれて………」
どこか怯えながら少女はそういう。特に鍛えてなさそうな少女が、ガタイの良い大人五人に突然連れてかれたのだ。怖いわけがない。
「大変でしたね」
「これから、どこに行くんの?」
「宿屋を探そうと」
エドガーはその言葉を言いながら、本来の目的を思い出した。しばらく宿屋を探さなくては。それが無いと、どうしようも出来ない。
「なら、うちに来ない?」
「えっ?」
「私が住んでいる店、宿屋で。まぁ、かなり売れていないですけど。良かったら、来ない?」
「ぜひ!」
*****
「名前、何ですか?」
「ルーシー。期間限定でこの宿屋に働いているの」
宿屋についたエドガーは、ルーシーに部屋まで案内された。ルーシーはよく笑う少女だった。期間限定で働いている理由は分からないが、宿屋という職業に良く似合っているなとエドガーは思う。
「エドガーさんがどうしてこの町に来た理由は?」
「あー、ちょっと依頼で」
「へぇ。それは、頑張って!」
満面の笑みを浮かべながらルーシーは、エドガーを応援した。その言葉にエドガーは嬉しくなった。
「ねぇ」
ふと奥から声がした。おそらく、7歳くらいの少年の声。エドガーが驚いて、そちらの方を見ると、金髪の幼い子供が出て来た。エメラルドの瞳はどこか死んでおり、子供ではあるのにどこか子供には見えなかった。
「アーツ君、どうしたの?」
「新しい客?」
「そう。ようやく来てくれたの」
「そうなんだ」
ルーシーは笑顔でアーツという子供の視線に合わせながらそういう。この二人は知り合いなのかとその様子を見ていたエドガーは疑問に思った。
「あのその子は?」
「しばらくここに泊ってるのよ。この子を預けた人がしばらくここに泊らせてくれって言ったらしくね。この子1人おいて、どっか行っちゃったの」
若干、苛立ったようにルーシーはそういう。それ、置き去りじゃないかとエドガーは思わず思った。
「それって、大丈夫なんですか?」
「一応、店主がこの子を預けた人にこってり戻ってくるように言ったみたいだけどね」
「来るよ」
その親に対して、苛立ちを隠せない様子で言っているルーシー。だが、当の本人であるアーツはかなり冷静だった。何ともない様子でそう言う。
「寂しくないの?」
「戻ってくるだろうし」
一切の焦る様子もなく、淡々とそういうアーツ。その様子を見たエドガーは凄いなと思う。自分がこのくらいの歳でここまで冷静で居られるか、そう思わざるえなかった。
「どんな人何です」
「さぁね。分からないわ」
エドガー的には小さない子供を一人で居させるという事実だけでも、あまり良い印象はない。もっとも、ルーシーもそれは同じようだ。
「ねぇ、ルーシーさん」
「どうしたの?」
「今日の夕ご飯って、何時だっけ?」
「7時。時間が来たら、迎えに行くわ」
「ありがとう」
ルーシーにそういうと、アーツは背筋を伸ばしながら部屋に戻っていた。7歳くらいの子供とは思えない冷静さにエドガーは唖然とする。
「すっごい、冷静でしょう?」
「えぇ。俺、さすがに7歳くらいはあそこまで冷静になれませんでしたよ」
「それでいいのよ。子供なんだから」
思い出したくもないが、過去を振り返りながらそういうエドガーに、ルーシーはため息をついた。おそらく純粋に悲しんでるのだろう、このことが当たり前になっているアーツに。
「もし、時間が空いてる時があったら、あの子の相手をしてくれない?」
申し訳なさそうにルーシー。いくら客が少なくても、ルーシーにも仕事がある。アーツの相手をしたくても、出来ないことが多いだろう。エドガーも仕事はあるのは一日だけ。それ以外はいくらでも何とかなる。
「大丈夫ですよ。子供の相手はやったことあるので」
「ごめんね」
そういう彼女をエドガーは再び、大丈夫です。と何ともないように答えた。
*****
紹介された部屋は良くも悪くも普通だとエドガーは思った。冒険都市によくありそうな部屋であり、エドガー的には特に問題は無い。基本的にエドガーは部屋はある程度、暮らせれば何でもいいのだ。
「これからどうしようか」
宿屋を借りれたとはいえ、早く来過ぎたのは事実。ほとんどやることがないのだ。どうしようか考え、とりあえずエドガーは部屋を出た。すると、目の前にアーツがちょうどいたのだのである。
「どこか行くの?」
1人でどこか行こうとするアーツが気になったエドガーはそう聞いた。
「散歩」
「そっか。じゃあ、俺も一緒に行こうか」
しっかりしているとはいえ、アーツを1人で外出させるのは少々不安だった。それに今、エドガーはやることがない。なので、一緒に行こうと思った。
「いいよ」
アーツもさほど嫌ではなさそうで安心する。エドガーはアーツの手を引き、宿屋の外を出た。
「やっぱり、人が多いね」
「最近、ずっとこうだ」
宿屋を出て、エドガーとアーツは大通りに出た。アーツはエドガーより前にこの国に来たらしく、エドガーよりも色々と詳しい。この辺りに良い場所があるらしく、そこに行こうとしていた。
「祭りって、アーツ君は来た事あるのかな?」
「うん。何回か」
アーツが言うには、結構にぎやかだそうだ。エドガーもほかの誰かと回りたいなと思いつつも、そんな相手が中々と思い浮かばない。というか、リネスさんと回りたい。そんな願望がエドガーの脳裏に出てくる。
「にしても、祭りって数日後でしょ? こんなに集まるもんなのか」
イーロス祭の前日は、少なくともここまでではなかったとエドガーは思う。もちろん、あれは規模が違いすぎるのもエドガーは分かっているが。
「あぁ。ここの人たちの狙いはちょっと違う」
「?」
「この数日間、祭りまでで公開されている物目当てだ」
「何かあるのか」
「かつて、ケイルという魔術師が書いたとされる書物だ。未知の術が記されているとも称されているらしい」
ケイル。エドガーもその名前は知っていた。というか、この世界の人間なら赤子とか以外は知っているであろう名前。最強の魔術師ともいわれている人物であり、この世界では有名だ。昔、リーズという妖精が真面ではない的なことを言っていた気がするが。
「かの高名な魔術師の幻の書物だからね」
「幻?」
「ケイルっていうのは、ほかの魔術師に比べて記した書物がすくないんだ」
アーツが言うには、有名な魔術師ほど何らかの文献を残している。それが、どのような媒体かは時代によるのだが。書かれているのをもとに歴史を読み解いたり、魔術の研究に使っているそうだ。
「というか、詳しいね。アーツ君」
「うん。今いる親戚がどっちも魔術師なんだ」
「そうなんだ」
その言葉にエドガーは少し納得した。おそらく、アーツの親戚はかなり教育熱心な魔術師なんだろうとエドガーは思う。やけに大人びているし、色々と知識も知っているからそう思った。
「まぁ、だから見に行く人が多い」
「でも、初耳だな。そういうのだったら、少しくらい聞いたことあると思うんだけど」
「さぁ? 発見したって話は聞いたことないんだ。突如、最近この国がありましたと言ってきて。それで、親戚も困惑しててさ。そんなことあるのかって」
そんなこともあるのかとエドガーは思う。ケイルという魔術師の数少ない本ならもう少し知名度があってもいいと思うが。
「それ、本物なのか?」
「知らないよ。だから、親戚がその真偽確かめるためにこの国に来てるんだよ」
「歴史学者?」
「まぁ、有名だと思う」
そんな話をしながら歩いていると、さっき以上の人混みが見えた。そっちには行きたくない。そう思い、エドガーとアーツは方向を変える。
「こっちなのか、その展示場所?」
「いいや? 別だよ。たぶん、これは違う」
「何だろ」
「高台で見れば分かるよ」
アーツに言われ、気になったエドガーは高台に行く。高台からは町全体を見渡せ、その中でもあの人混みが特に目立って見えた。人混みはよく見ると、道路にそっている。何か来るのかと考え、あることがエドガーの中に思い浮かんでいた。
「あぁ、魔法国の」
「そう。魔法国の」
溜息混じりに言うエドガーにアーツは同調する。前にアーサーが来るという話を聞き、おそらく今なんだろうとエドガーは察した。
「人気だからね。自国でも他国でも」
「アーツ君は好き?」
「………まぁ、普通かな」
どこか濁すようにアーツはそう言う。その反応に珍しいなとエドガーは思う。魔道師を嫌っている人間は中々いない。特に魔法国の人間なんて、珍しいだろう。まぁ、人にはいろいろあるだろうし特に突っ込まなかったが。
「あっ、来た」
「本当だ」
異常な人混みの中で、エドガーは1人の人物が見えた。金髪にエメラルドの瞳。どこかの王子様を思わせる顔立ちは微笑んでいた。この世界の住人なら誰もが知っているだろう英雄、アーサー・ウェストンだった。
「相変わらずの人気ぶりだなぁ」
「そうだね」
アーサーが歩いていく度に歓声が上がっていく。そんな人混みにアーサーは王子様のような微笑みで返していた。いつもの光景ではあるが、相変わらずの人気ぶりにエドガーは驚く。
一方のアーツは何とも言えないような目でアーサーを見つめていた。どうしたんだろうと思いつつ。どこまで突っ込んでいいのか少しエドガーは悩んだ。
「別のところ行こう」
もうここには居たくないと言わんばかりにアーツは人混みへと背を向ける。エドガーのその後に続いた。しばらくの間に、無言が続いたがエドガーがそうだと思いついたように声をかける。
「なんか、ジェラートでも買う?」
インテスの代表的なスイーツであるジェラート。リネスがよく好んで買ってきたのを思い出し、どうせだしそれを買おうと思った。
「いいの?」
「うん。お金は僕が出すよ。まぁ、好きな所に行きなよ」
エドガーがそう言うと、アーツはどこか年相応の微笑みをする。その顔を見て、エドガーは少し嬉しくなった。
*****
大分暗い場所だなと魔術師は思った。昔に使っていたらしい王宮。王宮というのに、相応しいほどには豪華。暗くなければ、さらに雰囲気が出ていた。そう思うと惜しいなとその魔術師は思う。
魔術師は、この廊下が似合わないほど若く、学生にも見えるほどだ。肩までの黒髪に珊瑚色の瞳。小柄で細い体つき、初見では性別が分からないと言われることが多い中性的な顔立ちはどこか胡散臭さを纏った笑みを浮かべている。魔術師は人の気配は無く、静かな廊下を歩いていた。
そして、一番奥の部屋のドアを叩く。
「入りますよー」
明らかに気の抜けた声。まるで、どこかの友人に声をかけるよう。その声に部屋にいる人物は特に不快を表す用もなく、入るよう促した。黒髪の人物は一切の躊躇なく、部屋に入る。部屋の中心には、金髪にエメラルドの瞳、王子様の顔立ちを持つ英雄、アーサー・ウェストンが座っていた。
どの態勢でもキラキラしているように見え、それもまぁ凄いなと直属の上司を見ながら、呑気に魔術師は思う。
「シャフ、どうかな?」
シャフと呼ばれた黒髪の人物は胡散臭さを含む笑みを浮かべながら、アーサーの近くに行く。
「まぁ、まぁ。ですかね」
「完全には掴めていないという感じかい?」
「そうですねー。いるのは、ほぼ確定って感じなんですけど。でも、証拠はまだって言うか。証拠がないと、強行的に行けないでしょう?」
「まぁ、そうだね。じゃあ、そっちは引き続きお願いということで。古文書の方はどうかな?」
アーサーは少し笑みの裏で深刻そうにしている。シャフもそれを受け止めながらも、次の報告をした。
「あれもまぁ、よくわかっていないですね。そっちは、エティア先生の診断結果って所じゃないですか?」
「何か、裏の動きとかは?」
「今のところはまだ。ただ、あの残党たちが絡んでいる感はありますねー。ちょこちょこ、展示している博物館にそれらしき人が何人かいるんで」
まるでゴキブリのようですよねーと言わんばかりにシャフはため息をつく。その様子を見ながらもアーサーはそっちにも関わっているのかと少し驚いた。
「魔女を狩る者の残党が絡んでいるって事は、偽物の可能性が高いかな?」
「私はそっちよりですね。ただ、エティア先生にそれ言ったら確かめるまで、決めつけちゃいけない言われましたよ」
「彼女らしいな」
言われた時のことを思い出したのか、シャフは少し溜息をつく。アーサーもエティアが言っているようすを思い浮かべて、少し笑った。
「じゃあ、この後も頼むよ」
「わかりました」
シャフはそう言うと、部屋を出て行く。アーサーは自分1人になった部屋でこれからの事を思案していた。




