第31話 美女の国
カクヨム版より、一部加筆・修正等を行いました。ストーリーは変わってません。よろしくお願いします。
馬車から景色をエドガーは眺めていた。つい二ヶ月前はリネスと一緒にペガサス便で一緒に窓から眺めていたなと思い出す。だが、次にそれが出来るのはいつになるだろうと憂鬱になる。
「よう、いつもより暗いな」
そんな時、隣から陽気な声が聞こえた。エドガーは景色から目を離して、隣に目を向ける。
「そう見えますか」
「あぁ。なんだ、最近ランクが上がったばかりだろ。油断しすぎるのもいかんが、そう暗いのもどうかと思うぞ」
「すみません」
「こんなに早くランクが上がるなんて中々ない。もう少し喜んでいいんだぞ」
「そうですね」
謝りながらも、エドガーはある事を考えていた。その横顔を犬耳がついた冒険者バルガは笑みを浮かべながら言う。エドガーは思う。きっと、普段なら上がって嬉しかった。ただ、今はそんな気分ではないのだ。
そんな憂鬱そうにしているエドガーをバルガは覗き込む。
「もしかして、リネスに関係があるか?」
「あっ、わかります」
「エドガー君がそうなってるのは大体リネスだろう」
バルガの言葉にエドガーは言葉を返さない。そこらへんはエドガーも自覚はあったからだ。思えば、いつも何か悩んでたことはリネスの事がほとんどだった。
さて、エドガーは一か月前に『藍』ランクになった。冒険者になって一か月もみたないランク上げ。まだ、二つしか任務を受けていないがランクが上がった。本来ならあり得ないことだが、それほどまでに成果が凄かったのである。特にその仕事ぶりを評価したのは、冒険者協会ではなく魔道師だった。樹海遺跡と同じように、使者を送りお金をエドガーに送ったのである。
エドガーは始めは何でか分からなかった。樹海遺跡の方はまだ分からなくもない。が、鉱山の方は分からない。黄金財宝とかに興味があるのかと言われれば、そいうのでもないらしく、財宝の中に危険ない物がないと判断すると自由にお使いくださいと行ってきた。
じゃあ、何がそんなに評価を得たのか。分からなかった、エドガーはそれを聞いた。使者の話によると、鉱山の件は、黄金財宝よりもどうやらゴーレムの方にあるらしい。詳しい事情は話してくれなかったが、テアが作ったゴーレムを見つけられたことが嬉しかったそうだ。
何でかは分からないが、どちらの任務も魔道師から凄まじく感謝されているらしい。おそらく、世界一有名ともいえる人物からのここまでの高評価。本来なら嬉しいと思うかもしれない。実際樹海遺跡の時は、嬉しかった。なのに、今回はそんな気がしなかった。
ただ、冒険者協会はそんなエドガーの事情は興味はないのだろう。魔法国の使者が来る前に、ランクが上がったことは聞いていた。が、同日改めて聞かされてた。魔道師の凄まじい高評価、さらには樹海遺跡での功績、鉱山の件も魔道師ほどじゃないが、かなりの功績だと認められたらしい。結果、ランクが『藍』になったのである。
結果は1ランクだけだが、協会の中にはもう一ランク上げることを進める人もいたらしい。まぁ、会長が反対して結果は一ランクだけになった。エドガーも嬉しいは嬉しいのだ。だって、1ランクとはいえどもランクを上げられたのだから。ただ、どうしても思うところがあった。それはリネスである。
あの時、リネスの冒険者を止めろという言葉が今もエドガーの記憶に残っていた。その時は何とか説得できたが、それでもずっと記憶にあるのだ。
エドガーが冒険者になることをリネスは反対していた。どのくらい反対していたかといえば、結構していたのである。
「お前はどんくさいんだから、パン屋でも営んでればいい。冒険者など無理だ」
これを聞いてエドガーは何でパン屋?と思ったが、似たようなことを入学応募用紙の提出期限ギリギリまで言われた。結局何とか説得というか、懇願しようやく認めてもらった。が、それでも不服そうだった記憶がエドガーにはあった。
冒険者になった日、なんだかんだ手紙で祝福されたのは舞い上がるほど嬉しかったが、同時にかなり驚いた。リネスさんは自分が冒険者になったことを祝ってくれるのだと。そして、どこかで思ったのだ。リネスさんはようやく俺の事を認めてたのだと。
だから、今回もエドガーは少し浮かれていた。ランクが上がったことを、リネスは喜んでくれると。が、そうは無かったのだ。辞めるよう言われ、それを説得して何とか続けることを認めても、ランクが上がったことを冒険者協会の人から一緒に聞いた時からどこか不機嫌そうなのだ。無視されているというわけではないが、どこか顔が険しくなっている。
エドガーもあの件からリネスに声をかけるのが躊躇うようになった。何でと言われれば、分からない。もしかしたら、嫌われたのかもしれない。そんな不安があった。
エドガーとしては、リネスに笑顔でいてほしいのだ。もちろん、リネスの隣りに一刻も早く立ちたいという思いは今はある。彼女を守れるようにもなりたい。そのためには、早くランクを上げるようになりたい。冒険者も続けて居たい。そんな思いもある。
ただ、自分が嫌われててリネスを不機嫌にしているのであれば、どうすればいいのだろう。もう、あの家を去るしかないのか。何度も思うが、リネスには笑顔でいてほしいのだ。どう思われているか分からず、もし嫌われていたらという恐怖もあり結局、声をかけれていない。
家にいるのもいたたまれなく、ランクが上がった後も任務を受けまくり、家を空けていた。
「何があったのかは聞かないが、まぁあいつも不器用な所があるんだ。何を言われても、エドガー君のことが嫌いなわけじゃない。それを忘れてやるなよ」
「そうかもしれませんね」
昔ならもっとしっかりと言えたかもしれない。だというのに、今のエドガーにはどうしても素直に頷く事すら出来なかった。
「そういえば、エドガー君。君、何でソロやってるんだ」
話を変えたかったのか、ずっと聞いておきたかったのか、バルガはそんな事を聞いていた。エドガーは簡単にバルガに説明する。その説明にやや驚いたようにしていた。そして、しばらくしたのち、溜息をつく。
「あいつがそう言ったんか」
「はい」
「あー、あー。何と言うか………」
「?」
バルガはリネスよりも前からソロの冒険者をしており、リネスとも親しい。2人の関係を見ていたエドガーとしては、友人というよりは近所にいる面倒見のいいオジサンとよく親しくしている子供という方が近いだろうと思う。
だから、エドガーが知らないこともバルガはたくさん知っているのだろう。
「まぁ………、リネスらしいと言えばらしいか。シャフが聞いたら呆れそうだが」
「シャフ?」
「あいつの友人。一回くらい、会ってないのか?」
「いえ。名前は聞いたことがないですね」
「そうか。まぁ、悪い奴じゃない」
「リネスさんと友人な時点でそうなんでしょうね」
シャフという人物がどんな人かエドガーは気になる。まぁ、バルガがそういうのでそこまで悪い奴ではないのは分かった。
「あいつも面倒な所がある。まぁ、頑張れよ」
「ありがとうございます」
「さて、じゃあここからは軽く依頼の話でもするか」
エドガーとバルガは任務としてインテス王国の祭りの護衛に来ていた。インテス王国はバスタティア騎士国の隣国であり、かなり古い国である。そこでは、毎年インテス祭と呼ばれる世界でも大規模な祭りが行われていた。
「で、その祭り数日前の警備をするのがエドガー君で祭り当日の警備をするのが俺」
同じ祭りの警備ではあるが、その日程は何日か違う。というのも、依頼が別々でありたまたま同じ国だと分かった2人はどうせだし一緒に行こうとなっただけだ。
「俺ら以外にもたぶん、警備っていますよね」
「というか、俺らは穴埋めだろうよ。どうも、元々の奴らが出来なくなったらしい」
「なるほど。でも、俺ら大分早く来てますよね」
「あぁ」
「何でですか?」
エドガーの警備は3日後。インテス王国は馬車でも割とすぐにつくので、ここまで早く来る必要はない。一緒に行こうと言われたのでとりあえず一緒に来たが、エドガーとしてはここまで早くに行く理由が分からなかった。
「そりゃあな、早く行った方が楽しめるだろ」
「早く行っても祭り、やってませんよ」
「違うな。お前、ちょっと聞くがインテス王国で有名な事と言えばなんだ?」
そう聞かれてエドガーは考える。インテス王国にエドガーは行ったことがない。ただ、海に囲まれており、海洋生物を見れる。あと、夜景も綺麗。遺跡などもかなり多い。色々とエドガーの頭に出てくるが、その中で特にこれだなと思うものがあった。
「食事ですね」
「食事?」
「インテス王国って、確か美味しい物多いでしょう?」
インテス王国は世界にある様々な国の中でも、特に食事が美味しいと評判だった。この国に匹敵すると言ったら、東の方にある国、日ノ島と呪国くらいだろう。もちろん、ほかの国も美味しいが。
エドガーもインテス王国には行ったことがないが、インテス料理は何度も食べたことがあった。リネスとも何度も食べており、その度に一度本場のを食べてみたいなとも思った。
ある意味、一般的な答え。その答えにバルガは納得したように頷いてる。
「うーん、健全だな」
「違いますか?」
「いや、有名なのはあってる。本場の料理は美味しい。エドガー君も一回食べてみな」
「もちろん、そのつもりです」
こういう時に冒険者という職業は便利だなとエドガーは思う。普段、行けないような国にも行ける。実際、エドガーは本場のインテス料理を食べれるのを楽しみにしていた。
「もちろん、それもアリだ。だがな、男と言えばそこじゃない」
「じゃあ、どこですか?」
「ほら、エドガー君。インテス王国がなんて呼ばれてるか、知ってるか?」
「料理の国ですか?」
「君、わりと食い意地はるタイプかい?」
割と食事の事しか頭に浮かばかったエドガーはそう答える。バルガは特に呆れることなく、少し笑みを浮かべていた。
「まぁ、健全でいいな。リネスもそれなら安心するだろ」
「で、何の国って呼ばれてるですか?」
「そりゃ、美女の国だ」
「あー」
おかしそうに笑っているバルガにエドガーはそういわれてみればと思い出した。これは、エドガーが養成学校に通っている時にゴルから聞いた話だ。インテス王国には世界の中でも特に美女がいて、しかも美女しかいない場所があるとか。エドガー的にはそういうのに興味が無かったが、確かにそういうのは聞いたことがある。
「興味無さそうだな」
「リネスさん以外は………」
「変わらないなぁ、君。まぁ、一途なことは良いと思うが」
エドガーも別にリネスが世界で一番綺麗や可愛いとかいうつもりはない。リネス以上に可愛い人や綺麗な人がいることはさすがに分かっている。ただ、エドガーにとって一番はリネスなのだ。それが変わることは一生ないだろう。
「しかし、これなら誘うのは止めるか」
「何を誘おうとしたんですか?」
「そら、エロイ姉さんが集まる場所だ」
なら、誘わなくていいとエドガーは思う。エドガーはリネス以外の女性に恋愛的な興味はないと言い切れる。別に女性が嫌いとかそういうわけではない。ただ、恋愛意識を持つことは無いという話だ。なので、大真面目にそのような場所に興味が無い。
「なら、興味ないので大丈夫です」
「言うと思った」
淡々と言うエドガーにバルガは相変わらず笑みを浮かべている。その顔を見て、エドガーはこの人昔からそんな感じだなと思う。昔からの付き合いだが、この人はいつも愉快そうに笑っているのだ。愛嬌がある顔とも違う。だが、その顔を見るのをエドガーは嫌いではなかった。
「依頼までの間、何するんだ?」
「インテスを歩き回ろうと思います」
インテスは観光名所が多いとも知られている国だ。おそらく、数日じゃ回り切れないだろうが観光を楽しめるだろう。どうせなら、リネスとも一緒に観光をしたかったがいないのでしょうがないとエドガーは思う。
「それは、楽しみな。ただ………」
「ただ?」
「かなり混むだろうよ」
「?」
「魔道師殿が来るんだよ、この祭りに」
どこか苦笑しながら言うバルガに、エドガーはあぁと溜息をつく。魔道師、もといアーサー・ウェストンというのはウェスタリア魔法国のトップである。ウェスタリア魔法国はインテスよりも遠く離れた所にある国だった。そんな国のトップなので、本来はインテス国民からしたら関係ない。少なくとも、これがほかの国のトップだったらそうだっただろう。
だが、アーサー・ウェストンは違った。この人物は国のトップという以前に世界の英雄という立場なのだ。その伝説が毎夜、子供に寝かせる時に語り継がれるレベルで。なので、その人気は凄まじい。アーサーが来たときは女子供、男性問わず毎度、アーサーを見ようと物凄い人が集まる。エドガーもその混み具合に何度も遭遇したことあるので、そのヤバさは周知していた。
「気を付けます……」
「まぁ、気を付けられるものでもないけどなぁ」
やや面倒くさそうに溜息をついているエドガーに、苦笑しながらも言うバルガ。そんな2人の前に大きな城が見えた。エドガーがかつて、ジュナブル樹海遺跡で見たよりもデカい城。あれが、インテス王国の城である。




