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第30話 後味の悪い話

カクヨム版よりも大幅な加筆・変更・修正を行いました。ストーリーの流れは特に変わっていません。よろしくお願いします。

 エドガーは重い瞼を開けた。身体を起こそうとするも、全身が燃えるような痛みが走る。あまりの痛みに呻いているとジョブルが心配そうに覗いてきた。


「大丈夫か?」

「いや、割と駄目です」


 今も喋っている時点でエドガーは割とつらかった。なんでこうなってるんだっけと考え、そういや人造神の攻撃にそのまま突っ込んだんだと思い出す。思ったよりもひどい傷負ったんだな。エドガーは痛みに悶絶しながもそう思う。ぶっちゃけ、死なないのは分かっていたがここまでひどくなるとは思っていなかった。


 そう思いながら、エドガーはふと気になった。自分はどのくらい意識を失っていたんだろうと。


「今、いつですか?」

「あれから、一週間は経った」

「一週間」


 一週間。そんなに経っていたのか。そう驚きつつ、ふとある人物が脳裏に浮かんだ。マズい。あれから、一週間ってことはそろそろ帰ってくるはずだ。この状態を見られるのはマズい。

 どうにかして一瞬で元通りになる方法はないだろうか。そんな物あるなら、ジョブルがやっていることはエドガーにも分かっていた。が、何としてでもこの状態をどうにしかしたかった。


「今喋ってるけど大丈夫か?」

「駄目です」


 短いのは喋れても、長いのを喋るのはきつい。とりあえず、何とか長く喋らないようした。そして、一瞬で治るのをエドガーは諦めた。代わりに、元気になるまでに帰ってこないのを祈ることにする。


「なら、無理して喋んな。今から話すのを聞いておれ」


 とりあえず、エドガーは出来る限り頷いた。まぁ、頷くのもつらいが喋るよりはマシだった。


「まずは、付き合ってくれてありがとうな。この事はしっかりと冒険者協会に伝えてた」


 ありがたい話だ。エドガーはこの状態なのでどうしようもないが、なるべく早くに伝えるべきだったからだ。


「次に、武器」


 その事を聞いてエドガーは思いだす。そういえば、元々武器を買いに来たんだった。すっかり忘れてたなと思いながら、エドガーは耳を傾けた。


「ほれ、これじゃ。あの黄金財宝の中からあった光石で作り上げた。大気の魔力を吸い上げ、魔術行使時に大いに役に立つ」


 魔術の威力が上がるとかそんな感じだろうか。エドガー自体、魔術は使えるが本職ほどではない。かつての同級生たちの中でもエドガーより魔術が使える人はたくさんいる。まぁ、そこら辺は適正の違いだろうとエドガーは思っているが。

 だから、魔術の威力が上がるのは純粋にエドガー的にも嬉しい。感謝したかったが、今のエドガーは口を動かすことがきつい。申し訳なさそうにしているのが、ジョブルにも分かったのだろう。


「あぁ、大丈夫。こっちも巻き込んじまったしな」


 ジョブルはどこか申し訳なさそうにエドガーの身体を見た。エドガー的には、自分から突っ込んだ物だった。だから、そんな申し訳なさそうにする必要もないのに。そう考えてはいたが、喋るのがつらいのでどうしようもない。


 そんな時、玄関の方から扉を叩く音がした。どうやら誰かが来たらしい。ジョブルが安静してといてくれと言い、玄関の方へ行った。そして扉を開けた音がする。素性を確認しただろうかとエドガーは心配しながら耳を研ぎ澄まして聞く。


 声が聞こえた。まずは、ジョブルさんの声。何か、謝っているなとエドガーは思う。次に、叫んでいる声が聞こえた。それが妙に焦っているようにも、怒っている声ようにも聞こえる。その声の主が誰だのかはエドガーはすぐに分かった。

 そして、馴染み深い足音とジョブルの慌てたような声が近づいている。


 部屋の扉が開かれる。そして、すぐにエドガーの見知った人物が入ってきた。銀髪に翡翠の瞳。普段よりどこか怒ったような顔をしている人物が現れた。その人物を見た瞬間、エドガーは激痛に耐えながらも口に出す。


「リネスさん」

「安静にしてろ」


 明らかに喋るのが苦痛そうな状態。エドガーの姿を見て、リネスは一瞬だけ俯く。エドガーにはどんな表情を浮かべているのかはやはり分からない。が、すぐに顔を上げ、ジョブルの方を睨む。


「どういうことだ、ジョブル。何をしていた?」

「申し訳ない」


 その視線を受け止め、申し訳なさそうにジョブルは謝った。リネスはそれを受けてもなお、怒りが収まらないのかさらに何かを言おうとする。それをエドガーは激痛に耐えながらも止めた。


「リネスさん」

「エドガー、お前は喋るな」

「違うんです」


 リネスの静止を振り切り、エドガーは喋りだす。確かに、頼んだのはジョブルだった。それはそうなのだ。でも、それに乗ったエドガー自身だ。エドガー自身が黄金財宝に興味を持ち、ジョブルと一緒に行った。だから、この怪我は自分の責任だ。少なくとも、ジョブルさんが責められるべきではない。エドガーはそう思う。


「俺が自分の意思で行きました。だから、ジョブルさんの責任ではありません。俺の、俺自身の責任です」

「……………この話は後だ」


 エドガーの絞りだそうような言葉に何か言いたげだった。が、それを我慢するかのようにリネスは俯きながら、エドガーへと近寄り、身体に触れた。そして、何かを呟く。その瞬間エドガーの視界が暗くなっていく。


*****


 目が覚めた。突然、気を失ってから何時間立ったか分からない。だが、意識が戻った瞬間、今までの身体の痛みは無くなってた。


「目、覚めたか」

「あっ、はい!」


 エドガーの視界にリネスの顔が写る。リネスが見た瞬間、エドガーは思わず飛び跳ねた。


「寝てろ。治癒は済んだとはいえ、まだ万全じゃない」


 そういわれ、エドガーは元に戻る。最初に目が覚めた時よりもしっかりとした視界でリネスを見た。リネスは椅子に座っており、じっとこちらを見ている。

 エドガーはそのまま、窓の方を見た。窓越しから見える景色はとっくに暗くなっており、かなり時間が経っていた。


「すみません。先に帰っていても良かったのに」

「…………」


 エドガーの心底申し訳なそうに言う。その言葉にどこかむっとしたように、リネスは口を尖らせた。どこかふてたようにしながらも、リネスは喋りだす。


「明日、帰る。お前も来い」

「わかりました」

「それよりだ」


 この話は一旦終わりだと言わんばかりに区切り、リネスは別の話に移す。それが何を差しているのかは、エドガーはすぐに分かった。


「何で、こんなことした」

「早く、ランクが上がりたかったです。それと黄金財宝に惹かれたから。ジョブルさんの事も心配でした」

「………やっぱりか」


 経緯はある程度ジョブルに聞いていたのか、リネスはふぅと溜息をつく。そして、どこか必死げに口を開いた。


「お前、今すぐ冒険者をやめろ」

「はいっ!?」

「だいたい、お前は弱い。二回も大けがをして、そんなんで最高ランクの冒険者になれると思ってんのか? なれると思ったら、勘違いも甚だしい」

「大けがくらいするでしょう」

「度数の問題だ。だいたい、私が新米冒険者だった時はそんなに大けがしなかった。お前に適正がないから、そうなるんだ」


 突然の言葉にエドガーは混乱する。リネスを心配させたのは分かっている。でも、ここまで言われるとは思わなかったのだ。リネスは困惑しているエドガーには目もくれず話を続けていく。


「適正がないのをやって何になる? 別のをやった方が遥かにマシだ。例えば、どこかの飲食店の店員とか。お前は料理は出来るだろ。あとは好きになった女と結婚して幸せになれ」

「好きなのはリネスさんです」


 エドガーは思わずそう言う。リネス以外の女性を好きになることなど、エドガーにとってはあり得ない。それにだ。


「リネスさんと一緒にいることが俺にとって何よりの幸せです。それ以外はあり得ない」

 

 そう断言したエドガーの言葉にリネスは俯く。わずかに見える顔はどこか紅くしているようにも見える。


「…………少なくとも、それまで家に居ろ。呑気に冒険者以外の仕事をしながら。いいな?」

「断ります」


 エドガーはそう言い切った。リネスさんがこうまでいう理由は分からない。でも、エドガーは冒険者を止めることだけは何としても嫌だった。それがリネスに言われようと。


「何で」

「貴方の隣りに立ちたいからです」

「お前には無理だ」

「まだ、分からないです。俺は、まだ冒険者になってから一か月も経ってないです」

「………」

「だから、まだ冒険者をやります。そして、最高ランクになってみせます」


 エドガーは俯きそうになるリネスの顔を見ながら、そう言う。まだ一か月しか経っていない。そしてこのくらいの怪我をしたくらいで、エドガーは諦めたくなかった。

 真っ直ぐな目で見られて、リネスは絞り出すような声を上げる。


「………わかった。分かったから」


 そう言うリネスの顔はどこか泣きそうだった。その顔を見たエドガーは息を詰まった。違う、別にそんな顔をさせたわけじゃなかったのだ。ただ、リネスさんに笑ってほしい。それだけだ、本当にそれだけなんだ。そんな顔をしてほしいわけじゃない。

 心の中でそう叫ぶが、エドガーはどう声をかけていいのか分からない。


 そんなエドガーの顔を見たリネスは衝動的に立ち上がり、ドアの方へと駆けていく。そして、エドガーの方を振り向かず、こう告げた。


「ペガサス便は明日の10時だ。一時間前に迎えてに行く。その前に準備をしておけ」


 そう早口で言い終えると、リネスは部屋を去っていく。その背中をエドガー

ただ見つめることしか出来なかった。


*****


「ありがとうございました、ジョブルさん」

「いいや、大丈夫。悪かったな、エドガー君」

「大丈夫です。それより、怪我は大丈夫ですか?」

「あぁ、何ともない。ところでだ………」

「はい?」

「リネス殿となんかあったのか?」


 どこか心配そうにジョブルが見つめてくる。どう言おうかとエドガーは迷う。別にジョブルに非はないのだが、経緯が経緯なだけに理由を言ったらジョブルが気に病んでしまうのではと思ったからだ。


「いや、まぁ大丈夫です」


 悩んだ末、少しぼかしながらエドガーは言った。あの後、リネスと別れてから会っていない。一日、立ったとはいえリネスとちゃんと喋れるかエドガーには自信がない。そう考えると、少しも大丈夫じゃないな。エドガーは自嘲したくなった。


「そうか………」

「じゃあ、俺はこれで」

「気を付けるんじゃぞ」

「大丈夫です」


 どこか自嘲げに笑みを浮かべながら、別れを告げるとエドガーの後ろから足音がした。チラッとエドガーは後ろを見る。


「行くぞ。ジョブル、世話になった」


 素っ気なく、後ろから現れたリネスはそういう。そのままエドガーの腕をつかみ、引っ張るようにその場を立ち去っていた。


*****


 ついた。ペガサス便から降りたエドガーはそうどこかホッとする。というもの、今までの間、リネスとエドガーはほとんど喋らなかったのだ。両者、重々しい雰囲気を流しながら、窓を見てたり、本を読んだりしていた。

 エドガーはリネスと一緒に入れて嬉しい。それは、あの重々しい雰囲気の中ですらあった。だが、それと同時にどこか苦しかった。


 だからか、降りてほかの人を見た時、どこかホッとしたのである。


 リネスも降りたが、何も言わず黙々と家への帰路へ着く。自身より遥かに小さな背中をエドガーは追っていく。そして、少し経ち、家についた。


 普段ならすぐに家に入るであろうリネスの足が止まる。どうしたんだろうと思い、エドガーが覗くとそこには冒険者協会の幹部らしき人がいた。


「いやぁ、エドガー君。おめでとう」


 そして、幹部はエドガーの方を見ると嬉しそうな顔をしながらそう祝福してきた。何のことだか分からず、エドガーは思わず首をかしげる。が、リネスの方は何かを察したのか、歯ぎしりをしていた。


「突然、すみません。しかし、中々にない速さなのでつい」

「何かあったんですか?」

「何って、君、ランクだよ」

「ランク」

「おめでとう、エドガー君。君はランク『藍』に昇格だ。ここまでの速さは近年まれにみることだよ」

「えっ」


 突然のことにエドガーは思わず、そう声が洩れる。それと同時に前でリネスが手首を握締る音が聞こえた。顔は見えないが、雰囲気からして喜んでないのは確かだ。


 あれだけ望んでたことだ。ランク自体、昇格することは誰よりも望んでいた。だというのに、エドガーは喜びの表情を上げることすら出来ない。これがエドガーにとっての初めてのランク上げだった。


 


 

 

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