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第3話 冒険者登録

 翌朝、早い時間にエドガーは目が覚めた。別に眠れなかったというわけではないが、何故かエドガーはいつもより早く目が覚めたのだ。

 緊張しているのかなとエドガーは思う。今日、冒険者登録をしたら冒険者なのだ。冒険者という職業に正式になれることが、エドガーは嬉しかった。が、それと同時に微かだがドキドキしていた。


 冒険者用の服に着替え、一階に降りる。ダイニングに入ったが、リネスの姿はすでに無かった。テーブルには、保温魔術で温まったままの朝食と置きメモ、そして4つの魔法薬ポーションが置かれていた。

 エドガーは、リネスが残した置きメモを読む。そこには、こう書かれていた。

 

*************************************

 

 エドガーへ


 急遽、指定の依頼が入った。数日は、家には帰らない。

 お前のことだから、今日から冒険者登録するだろう。冒険者として活動するなら、身の程をわきまえることだ。私と同じランクに行こうなど、馬鹿のお前には一生無理だろう。

 お前のことだ。下のレベルの依頼でもヘマを起こすことだろう。なので、回復用の魔法薬ポーションを買っておいた。頑丈さだけが取り柄だが、その取り柄が絶対ではない。持っておいた方が、タメだ。

 

                                  リネス


 追記:お前の冒険者の活躍を祈らんでもない。


*************************************


 エドガーは置きメモを読み終えた後、魔法薬ポーションを手に取る。魔法薬ポーションのラベルを見て、エドガーは驚愕のあまり、悲鳴が洩れた。


 それもそのはず、彼が貰った魔法薬ポーションは数多くある回復用の魔法薬ポーション中でもかなり希少品で、高価なものだった。どれくらいかと言えば、この魔法薬ポーション1つで、昨日エドガーが買った剣が数十個は余裕で買えるレベルである。エドガーが全財産投入しても、手が届かない物だ。


 そして、その高さに相応しい効果がある。一本飲めば、どんなに疲労しても魔力や気力がすぐに全回復する。また、四肢全て欠損とかそう言うレベルでない限り、すぐに怪我も治る。

 回復用の魔法薬ポーションの中では、トップクラスの効果であり、副作用は全くない。


 ただ、それゆえに作るのが非常に困難であり、手に入れるのも困難だった。現状、この魔法薬ポーションを買えるのは、魔術の総本山であり超大国のウェスタリア魔法国のみだ。そしてその首都のある店でしか買えず、その店でも売られているのは極わずかという始末。

 本来はエドガーのような低ランクの冒険者には必要なく、むしろ危険な依頼をこなす高ランクの冒険者が欲しがってやまない代物だ。


 つまり、エドガーの目の前にこの魔法薬が4本もあるということが、異常なのである。本来なら目に出来ないものである魔法薬ポーションを、エドガーはリネスに感謝しながら冒険用のリュックサックに入れた。


 エドガーは魔法薬ポーションを入れた後、リネスが用意した朝ご飯を食べ始めた。料理は、チーズが入ったオムレツに、短めのウィンナー、海鮮サラダ、コーンスープ、パターロール。どれもエドガーの大好物だった。

 それらを、リネスさんは優しいなぁと思いながらエドガーは、口に入れていった。


★☆★☆★


 朝ごはんを食べ終え、エドガーは家を出た。空は晴天であり、春に相応しい風が吹き続けている。暖かさを感じながら、エドガーは道を歩き続ける。


 家がある住宅街を抜けて、大通りに出る。普段から多くの冒険者が集まっている通りであるが、今日はいつもより人が多い。

 というのも、養成学校を卒業した生徒たちの多くが冒険者として活動するための準備をする日である。卒業生とそれを自身のパーティーへと勧誘する冒険者たちで溢れかえっていた。


「おっ、君はエドガー君かい? よかったら……」

「すみません、お断りします」


 そしてエドガーも冒険者たちの勧誘で溢れかえっていた。卒業生たちの情報は、冒険者協会を通して冒険者たちのある程度行きわたる。ゆえに、優秀な成績を修めて卒業した生徒ほど冒険者の勧誘が激しかった。


 エドガーもトップではないが、優秀な方だというのは自覚している。なので、そこらへんは覚悟していた。

 がいざとなると、エドガーの想像以上だった。もちろん、エドガーも自分の力を必要としてくれるのは嬉しい。だが、今の彼は誰かと組むことは考えてなかった。


「エドガー君、君もうちの……」

「すみません、お断りします」


 何度目かはわからない断りを入れながら、エドガーは道を進んでいる。その時、ふと勧誘を受けているゴルの姿が見えた。


 エドガーの見たところでは、あの感じだと入りそうである。勧誘しているパーティーは、平均ランクが下から三番目の『碧』であるクラステパーティーだ。人数は、五人。もとは、六人だったが前の任務で一人死んでしまった。

 評判のいいパーティーであるり、エドガーもあそこなら大丈夫だろうと思う。


 勧誘された面倒なので、見つからないようにエドガーは通り抜けた。


★☆★☆★


 何とか、勧誘を断りながら通りをぬけて、冒険者協会の本部についた。別に、そこまで遠くは無かったのだが、エドガーは少し疲労していた。

 別に過剰に動いたわけではない。体力はあり余っている。ただ、勧誘を断るのを繰り返し続けて、少し精神的に疲れていた。

  

 今までより、少しゆっくり歩きながら、エドガーは中に入る。協会本部の中、通りほどではないがたくさんの冒険者がいた。エドガーが見知った人物も何人かおり、時々挨拶をしてくる。


 会釈をしながら、エドガーは目的地である冒険者登録の窓口に行った。窓口は、数か所あるがどれもそこそこ並んでいる。

 エドガーは列が一番短い所に行き、並んだ。並んでいる冒険者のほとんどは、見たことある顔ぶれに、今日登録する人も多いんだなと思いつつ、エドガーは自身の番を待った。


 数十分たち、前の人の登録が終わり、ようやくエドガーの番になった。エドガーが窓口の前に立つと、受付の女性ルクレは嬉しそうに顔を上げた。


「あぁ、エドガー君。四年ぶりね」

「お久しぶりです、ルクレさん」


 ルクレは親し気に、エドガーに話しかける。

 ルクレとは、エドガーが養成学校に入る前から親交があった。エドガーがまだ小さい頃、リネスが長期の依頼で家を空けた時、彼女に預けられていた。

 そのため、エドガーはルクレから可愛がられていたのである。


「すっかり大きくなったわね。やっぱり、冒険者になるんだね」

「まぁ、そうですね」

「じゃあ、ちゃちゃっと書類を書いちゃって」


 ルクレから差し出された書類にペンで書いていく。書類の内容は名前や年齢、身長、体重に最終学歴などを問われていた。それらをエドガーは手っ取り早く書き込んでいく。ものの数分も立たず、エドガーは書き終えた。


「早いわねー。貴方、誰と組むか決まった?決まったら、別の書類を書いてもらうね」

「俺、ソロでやっていきます」

「はいっ!?」


 エドガーの言葉にルクレは驚いたように声をあげた。その様子を見て、そういえば昨日サキュラにも似たような反応をされたなとエドガーは思い出した。


「………正気?」

「正気ですよ。正気で僕はソロでやり、最高ランクの冒険者を目指します」

「そりゃあ、ソロで最高ランクになった人はいるけどね。マネできることじゃないのよ。リネスさんだって、最初はソロでやっていたわけじゃないし。大変で危険な道なのよ、わかっているでしょう?エドガー君」


 説得するようなルクレの言葉を聞きながらも、エドガーの決意は変わらない。ルクレの言っている通り、かなり険しい道なのはエドガーにもわかっている。


 ただ、それでもエドガーはソロで行きたかった。リネスは条件としてソロでやれとは言っていない。なので、ソロでやることを決めたのはエドガーだ。


 エドガーは冒険者としてリネスと冒険がしたい。彼女を一人にしたくないという思いと恋愛感情が入り混じっているそれは死ぬという恐怖よりも勝る願望であり、切望だった。


「わかっています、それは」


 エドガーにとって道が困難というだけで、諦めきれるモノではなかった。リネスと出会ってから、彼女の孤独を知ってから、ずっと続いている願望であるのだから。どんなに無謀な道であっても、進んでいくしかなかった。


「……そうよねぇ。エドガー君がそんなことわからないわけがないんもんね」


 小さい頃から可愛がっていた青年が、今危険な道に進もうとしている。ルクレとしては、そんなことは止めてほしいかった。


 冒険者になった時点で、危険なのはルクレもわかっている。だけども、少しでも死ぬ選択を避けてほしいのだ。いつ死ぬか分からなくても、小さい頃から可愛がっていた青年の死を見たくはない。それがルクレの思いだった。


 でも、それを止めることは無理だろうとエドガーの目を見て、ルクレは思う。この状態の彼を止めるのはあのリネスでも無理、そう判断する。だから、ルクレはそれを容認するしかない。


「わかったわ、ソロで登録しておく。もし、ソロをやめたくなったらしっかりやめるのよ?」


 心配そうに見つめてくるルクレに、エドガーは曖昧に頷く。たぶん、その日が来るのはかなり先になるだろうと思いながら。


「じゃあ、ランクは一番下の『紫』からね。はい、これが」


 エドガーはルクレから腕輪を受け取る。中心に透明な魔法石がついており、その周りは彼のランクである紫の小さな魔法石が散らばっている。冒険の腕輪は、自身のランクを示す役割もあるのだが、それだけではない。


「わかっていると思うけど、この腕輪が君の命の危険を私たちに知らせてくれるものでもあるから。絶対に外さないでね」


 どちらかというと本命は、中心についている魔法石だった。この魔法石は普通の魔法石よりも特殊であり、装着者の魂魄の鼓動に反応する。協会本部は、魔法石の反応を確かめる魔道具があり、命の危篤があった場合、赤く点灯する仕掛けになっている。


 この状態次第で、任務の救援の人数やどうするかを本部が決める。ゆえに、この腕輪は本部にとっても重要だった。


「わかっています」

「そう、なら私の役目はここまで。今日から冒険者よ、気をつけて頑張ってね」


 最後に念を押しながら、ルクレはエドガーにそう告げた。その言葉に、エドガーは頭を下げながら窓口を立ち去った。

 

★☆★☆★


 窓口を立ち去ったエドガーは、さっそく依頼を受けようと思う。一番下のランクである彼は、依頼といっても受けれるものは少ない。


 冒険者が受ける依頼は、基本は冒険者協会を通して、その冒険者もしくはパーティーに適した依頼が紹介される。たまに、依頼者から直接依頼される場合もあったりするが、好んで受ける冒険者は少ない。


 依頼は冒険者協会が依頼内容を見て、その難易度によってランクづけされており、ランクはFからSがある。


 基本は下級冒険者の『紫』と『藍』はEランクまで、中級冒険者の『碧』・『翠』・『黄』はBランクまで、上級冒険者の『橙』・『紅』はSランクまでの依頼が受けられる。

 パーティーの場合は、メンバーの中で一番高いランクの冒険者を基準とする。


 つまり、『紫』であるエドガーが今、受けられる依頼はFとEランクの2つだけ。また、彼は始めたばっかりであるので、紹介される依頼はFランクもしくはEランクの下の方だろう。


 エドガーはどちらのランクの窓口に行くか少し考える。


 早くランクを上げたいのは事実だが、無理するわけにもいかない。無理して最初の依頼で死んでしまった冒険者たちのことを養成学校で何度も聞いている。

 なら、ここは無理せずFランクの窓口に行こう、そう考えエドガーはFランクの窓口に向かった。


「すみません、依頼を受けたいんですが」

「お名前をお願いします」

「エドガーです。今日から冒険者になりました」


 そういうと、窓口の女性は登録した書類を探すために席を立つ。今日、登録したばかりなので書類はすぐに見つかった。席に戻り、書類を一通り見て、一瞬驚いたような顔をした。


「…………ソロの方でよろしいですね?」

「はい」

「では、こちらの依頼でどうでしょうか」


 差し出された依頼書をエドガーは見る。その依頼は、近くにある小さな国ギレシアに辺境の村の夫婦からであった。内容は、明日から五日間、16時30分から19時の間、子供達のをしてほしいというもの。


 一見、冒険者に来る依頼とは思えないが、エドガーは特に驚きはしない。下のランクの依頼だと、そういうこともあるからだ。


「依頼を受けます」

「ありがとうございます。では、さっそく準備をお願いします」


 エドガーはその依頼を承諾する。依頼を受けたんだ、どんなのでもしっかりこなそう。エドガーはそう活きこんで、本部を出た。


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