第23話 廃鉱山の魔物
廃鉱山内をトロッコで駆け抜ける。少しずつ光が見えてきており、ゴールが見えて来たとエドガーは思う。今のところ、魔物の気配はない。油断はもちろん出来ないが、それでも少し安心した。
「魔物、こなそうか?」
「今は」
エドガーはそう言いながら、ジョナブル樹海遺跡の事を思い出す。あの場所は、色々と大変だったと思う。環境は人面樹のせいで、色々可笑しくなっていたせいであはあるが、それはそうと大変だった。
だから、それよりは大分いいなとエドガーは思う。
「魔物が来ないと良いですね」
「まぁ、そうだな」
穏便に終わってほしい。なるべく、トラブルなく。エドガーはそう願いながら、トロッコに乗っていた。
「もうすぐ、着くぞ」
「そうですか」
エドガーはそう言われてみて、前の方見る。確かに、光が今までより近く見えて来た。もうすぐ、着くのか。エドガーは少し気を引き締める。何事もないのが、一番だが何か起きた時に対処できるようにしよう。
そして、ついにトロッコは止まる。そして、エドガーから先に降り、周りの安全を確認した。周りは魔物の気配はしない。ひとまず、大丈夫そうだと思い、ジョブルに降りるように促した。
ジョブルが無事に降りたのを確認すると、エドガーは改めて周りを見る。そして、少し固まった。一面が光石にあふれていた。
一面、光に包まれていると言えば魔石光殿を思い出す。エドガー本人はもちろん、行ったことがない。ただ、写真では見たことがある。魔石光殿も一面光に包まれているのだが、少なくとも映像で見た魔石光殿の光とはまた違う。こちらはどちらかというと透明なのだ。
神秘さすら感じさせる空間にエドガーはただ、圧倒されていた。
「どうだ?」
「何と言うか、綺麗ですね」
「だろう? 昔のドワーフが愛した場所だ」
「そうなんですか?」
「あぁ。昔はドワーフ達がこぞってここに来たんだ」
懐かしそうにそう語るジョブルに、エドガーは不思議思う。そんなに愛されていたのなら、どうして閉鎖されたのだろう。
「なら、どうして来なくなったんですか」
「それはな………」
ジョブルは少し言いよどむようになる。その様子にエドガーはこの鉱山も何かあるのかと思った。
「人が消えるようになったんだ」
「人が?」
「そう、人が。別に元々はそんなことが無かったのに、急に消えるようになったんだ」
「それで、閉鎖ですか」
「そう。ほかのドワーフ達も惜しんでたんだがな。まぁ、仕方がなかった」
そんな日を思い出したのか、ジョブルは辛そうにする。そんな好きだった所に再び行けて、良かったと思いつつエドガーはふと思う。本当にここにきて良かったのかと。
「大丈夫なんですか?」
「何が?」
「ここにきて? 閉鎖中で人が消えるんでしょう? 何かとがめられないんですか?」
閉鎖中という事は、曲がりになりも入ってはいけないと事だ。そんな場所に来てよかったのか、エドガーはノリで来ておいて不安になった。そんなエドガーの様子にジョブルは豪快に笑う。
「あぁ。大丈夫。閉鎖中と言っても、何かはちょこちょこ入ってる。それがばれても、咎められることは無かった」
「そうですか………。で、何でそんなに特殊な光石は欲しいんですか?」
ついでにエドガーはずっと不思議がっていたことを聞く。武器を作りたいとか、理由は色々と思い浮かべられるが、危険を冒してまで行く理由はやはり出てこない。
「もう一度、それで武器を作りたいんだ」
「武器ですか」
「そうだ。昔はいつものように作っていたんだ。だが、今は閉鎖で創れなくなってな。もちろん、閉鎖を破って行くのは良くない。それも分かってたけどな。悪いな、付き合わせてな」
「いいえ。僕にも利があるので」
きっとこの人にもどうしてもやりたいことがあるんだろうとエドガーは思う。それが危険を冒してでも、やりたい事でありエドガーにはその気持ちが分かる。だって、今エドガーは絶賛それをやっている最中なのだから。
「頑張りましょう、お互い」
「?」
エドガーはそう声をかける。ジョブルはよくわからなかったが、すぐに励ましているのだと悟り、頷いた。そして、ジョブルは発掘を始める。エドガーはそれを守るように周囲を警戒していた。
そんな時だった。ふと、奥から何かが動いているような音がする。
「すみません、ジョブルさん。少し隠れてください」
「わかった」
何かを察したジョブルはトロッコの影に隠れる。エドガーは一時的に貰った剣を取り出し、構えた。
「アァァァァァァ」
人に似た声が聞こえた。よく聞かないと女の人にも聞こえる。ただ、エドガーにはそれが魔物の声であることはすぐに分かった。すぐに分かった理由は、かつてジュナベル樹海遺跡で人面樹に騙されたのも理由の1つだろう。
明らかに誘いだそうとしている罠。かつて人面樹のように。だが、エドガーはそれにわざと乗っかった。
「氷結撃」
エドガーは猛スピードで魔物の方に駆け寄る。見えた魔物の姿は、死体を被った何か。たぶん、死体の中には何かの集合体が入っているのだろうとエドガーは推測する。だから、何かする前にそれを凍らせることにした。
エドガーの魔術が魔物に直撃する。すぐに動かなくなるが、また奥から別の個体が動き出した。
「まだ居るのか」
だが、エドガーは特に動じることもなく魔物に対して魔術を放つ。魔術の攻撃のみなのは、今回はこちらの方が確実だろうと判断したからだ。
二体、三体と次々と凍らせていく。順調に見えたので、エドガーは少し気をゆるんでしまった。その瞬間、エドガーの横を通り抜けるように魔物が飛び跳ねていく。個体は三体。
やばいと思い、エドガーは気を引き締め追いかけていくも、ギリギリで追いつけない。
「ジョブルさん、すみません!」
何とか間に合わせそうと急いでいきながらも、エドガーはジョブルに向かってそう放つ。魔物達はそのままジョブルに向かって突進していく。何とか、ジョブルに当たらないように攻撃を放とうした瞬間だった。ジョブルは大きな剣を使い、魔物を一瞬で斬っていく。
ほかの個体たちも慌ててジョブルに突進していくが、ジョブルの方が早い。なすすべものなく、魔物達は斬られていった。
「あんま、順調だからって気を緩めんほうがいいぞ」
「すみません」
なんともなさげに、殺された魔物達を見つめながらジョブルにエドガーに向かってそういう。エドガーはその通りとしか言えない言葉に正直に謝るも、ジョブルが動けることに驚いた。
「動けるんですか?」
「そりゃ、もちろん。発掘にはこのくらい必要よ」
「そうなんですか………」
じゃあ、僕いるか?とエドガーはそう思わずにいれない。スピードも剣もジョブルはエドガーよりも強い。果たして、存在する意義とはと思わず考えた。
「なに、勉強になるだろ。新人なんだろ、確か」
「ありがとうございます!」
ジョブルの言葉で目を覚ます。そうだ、どんなに注目されようと僕はまだ新人なんだ。だから、先人から学べることもある。そう今度こそ気を引き締め、エドガーは奥へと進むジョブルの後についていった。
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「これくらいでいいか」
ジョブルは袋に積まれている大量の光石を見ながら、そう思う。エドガーはあの後、ジョブルの護衛を続けていた。魔物を倒しながらも、ジョブルに戦闘について少し教わっていた。ランク上げのために来たが、思ったより自分のためになったなとそう思った。
「じゃあ、もう帰りますか」
「そうだな」
エドガーとジョブルが来た道を戻ろうとするその時だった。後ろから、生命とは違った気配がしたのは。最初に気づいたのはエドガーだった。慌てて、振り返り戦耐性を取る。が、その気配の主は慌てて落ち着かせようとした。
「あぁ、落ち着いて。別に僕は悪いようにはしない」
「何者だ」
それはおそらく人型ゴレーム。がにしては、かなり饒舌な喋り方だ。エドガーはそう思った。
同じように警戒耐性を取っているジョブルはゴーレムにそう問いかけていた。その問いに、ゴーレムは懐かし気に答える。
「僕はテア。かつて三大魔術師の一角と称された物の複製だよ」




