第22話 輝く光石の廃鉱山
身体が揺られている。脳が揺られている感覚にエドガーはずっと襲われていた。エドガーがいるのは、街や家ではなく、無機質な洞窟。薄暗い洞窟をトロッコに乗って移動している。
「大丈夫か?」
「まぁ、はい」
エドガーの前にいるのは、知り合ったばかりのジョブルだ。手慣れた手つきでトロッコを操縦している。エドガーがこんな所にいるのは、今日の夜の話だ。
エドガーはリネスと別れた後、迎えてくれたジョブルの家に泊った。ジョブルは、リネスの武器を何度も直したことがあると言う。エドガーがリネスの話を聞くと、すぐに答えた。
「リネス殿はどうしてそうなるか、分からんってのをよく持ってきた」
ジョブルは夕食の時、どこか苦笑しながらそう語る。直しがいはあるんじゃがなと付け加えるように、そうも言った。
「エドガー殿はどのような武器がほしい?」
「剣で。片手剣で使いやすいのが。あと、魔術の耐性もあるのが良いです」
「そこまで、見た目とかこだわらんたちか?」
「まぁ、そうですね」
実際、エドガーは冒険者の中ではそこまでこだわるほうではないと自認している。性能はもちろん重要だが、それ以外はそこまでこだわる方じゃない。
「いや、最近見た目を重視するのが多くてな」
「見た目ですか」
「そう。ただ、お金がない冒険者の方が多いのはエドガー殿も知ってるじゃろ?」
「はい、それはもちろん」
冒険者というのはあまり儲かる職業ではない。もちろん、高額な依頼もあるがそれを受けるのは大体が上級冒険者あたりだ。エドガーは最近高い金を貰ったが、それは滅多に起きることではない。並大抵の冒険者はそこまで金を持っていないのだ。
「だから、予算も限りがある。私は予算を見ながら、要望に応えられるように作ってんじゃがな」
どこか溜息まじりにジョブルは言っている。何となくだが、エドガーはその続きを察することが出来た。最近、街に見かける自分と年の近い冒険者を思い浮かべ、エドガーはこう言う。
「性能を軽んじてる感じですか?」
「そうそう。見た目に予算をかけすぎてるじゃ」
嘆くようにそういうジョブルに、エドガーはその人達大丈夫だろうかと心配になった。冒険者はいつ死ぬか分からない。だから、ありとあらゆることに備えないといけない。そして、準備する中でも武器は特に重要だった。なんせ、身を守る術だから。それの性能を軽くみてるってちょっとマズいんじゃないかとエドガーは思う。
「死なないと良いですね。その人たち」
「本当だよ」
エドガーの言葉に同意するように、ジョブルはため息をつきながら言う。依頼された以上はきちんとやるが、それはそうと少し不安なのだろう。彼も大変なんだな、そう思いながらエドガーはスープに手を付けていた。
「エドガー君、今身体の調子どうだ?」
「大丈夫ですが?」
「そうか。リネスに君の事情はある程度聞いてるからね」
「あぁ……」
リネスの抜かりの無さに、エドガーは思わず苦笑する。ここなら、そこまで無茶できる状況でないからそんな心配するようないのに。そう思う。
「君、動けるか?」
「まぁ、それなりに」
「依頼、受けられるか?」
「はい?」
思わぬ言葉にエドガーは思わず、聞き返す。あまりに予想外の言葉にエドガーは耳を疑った。
「依頼ですか」
「あぁ。別にそこまで危険なことじゃない。護衛に来てほしいんだ」
「護衛?」
「この秘境の奥にある廃鉱山があってな。もう何百年前から使ってないんだが。今日の夜、そこに行こうと思っている。ただ、何百年前が使ってないから魔物がいるかもしれないだろう」
「そうですね」
何百年前から使ってないなら、魔物は確かにいそうだとエドガーは思う。鉱山なんて魔物が現れそうな場所だ。だから、魔法国は鉱山を国で管理している。
「その護衛ですね」
「本当はリネスに頼むつもりだったがな。まさか、急な用事が入るとは」
「まぁ、リネスさんは忙しいですしね」
「そこは、事前に行っておけばよかったんだがな」
どこか反省しているようにしているジョブルを見ながら、エドガーは思う。もし、リネスさんが依頼を受けていたら、一緒に居られたのかなと。もちろん、ジョブルを責める気はないのだが。
「そこで、君に頼んだ。大丈夫か?」
「でも、なんで廃鉱山に行くんですか? 普通の鉱山で十分じゃないんですか?」
魔物が出そうな廃鉱山に行く理由がエドガーには分からない。そんな危険な場所に行くくらいなら、普通の鉱山でいいだろうと思う。
「まぁ、そう思うかもしれない。しかし、あの廃鉱山は特別でね」
「何かあるんです?」
「少し特別な光石が取れるんだ」
「光石ですか?」
「そう。大気にある魔力を吸収するんだ」
そんなのがあるのかとエドガーは驚く。光石は普通の鉱石よりも輝いている物だ。金とはまた違う輝きを持つ。何回か見たことがあったが、綺麗だった。ただ、光石に魔力を吸う物があるとは驚いた。
「色々あって鉱山は閉鎖されたんだが、一度だけ行きたくてな。力を貸してくれないか? もちろん、冒険者協会に報告する。そしたら、ランク上げにも役に立つ」
「じゃあ、任せてください」
ランク上げになるなら、喜んで。エドガー自身、身体は大分よくなっている。リネスには色々と言われたが、それでも早くランクを上げたかった。またの無い機会。受けない理由がない。
そういった理由でエドガーは来た。エドガーは武器をジョブルに貰い、ある程度出来る準備をした。鉱山の中はというと、かなり暗い。光の一つなく、昔この鉱山を彫るの大変だったろうなとエドガーは内心思った。
「暗いですね」
「まぁな。だが、そろそろ光が見えるぞ」
ジョブルの指摘を受け、エドガーは前を向く。そこには確かに光が見えた。太陽光とはまた違う。どちらかと言えば、ジョナブル樹海遺跡にあった光の方が近いだろう。暗い闇を突き刺すようではなく、透明な光にエドガーは少し心惹かれた。




