第21話 ドワーフの秘境
昨日、乗っていたペガサス便にエドガーは再びリネスと乗っていた。凄まじいスピードで話が進められたので、慌てて今日リネスに色々聞いた。
今日、エドガーが行こうとするドワーフの秘境というのはドワーフが住んでいる場所だ。ドワーフは第二次人神戦争まではもっといたらしいが、戦争中に段々と数を減らしていった。絶滅寸前まで行った時、ドワーフ全体で当時、秘境と呼ばれていた所に引きこもった。
つまり、エドガー達が行こうとしているのはその秘境だ。
「リネスさん、ドワーフの秘境に行ったことがあるんですか?」
「何回か。魔法国に教えてもらってな」
「魔法国と親しいですよね、リネスさんって」
「まぁな。恩もあるし、友達が1人そこにいる」
「友達、いるんですか」
エドガーはびっくりした。ニャンドルはリネスの友人とは少し違った感じであり、明確な友人がいたのを知らなかった。少なくとも、リネスが自分の口で友人と言うレベルのがいると思っていなかった。
「そいつには言うなよ」
「はぁ」
「まぁ、ともかくだ。私が作ってもらった所でお前も作ってもらえ。もう、連絡してある」
リネスさんが作ってもらったのなら、ある程度信頼できるだろう。そう思いながら、エドガーは目の前にあるコーヒーを飲む。少しシュガーを入れたくらいで、若干苦いがそれが良かった。
リネスも同じのを飲んでいるが、顔を歪めていた。リネスさん、かなりの甘党だし苦いだろうなと思う。そのまま、シュガーをもう少し入れると思ったが、飲み干していた。
大丈夫かとエドガーは見ていたが、リネスはかなり顔を顰めている。シュガーやミルクはまだたくさんあるんだから、入れればいいのに。その表情を見て、エドガーは内心そう思う。
「コーヒー、美味しいな」
「そうですね」
いやその表情じゃ無理があるだろとエドガーは思う。よっぽど苦かったのか、若干涙を浮かべていた。そのまま、再びコーヒーを入れる。エドガーと同じくらいにシュガーを入れている。そして同じように口にしたが、やっぱり苦かったようだ。
昔からこの人、そういう所があるようなとエドガーは思う。本人は一ミリもそんなことは言わないが、苦いのや辛いのが苦手なのをエドガーは知っていた。それは、誰かに聞いたとかそういうのではないく、本人の態度で分かった。
エドガーのいる前ではやけに苦めのコーヒーを飲むくせに、いつも苦さで悶えているのだ。もしかして、甘党なのかと思ったエドガーは一度、強請ってカフェに連れて行ったことがある。
そこで、1人では食べれそうにない大きさのパフェを頼み、一緒に食べた。パフェが目の前に来た時、頼んだエドガー以上にリネスは嬉しそうにしていたのである。たぶん、エドガーがその時まで見たことの無いレベルで。
そのまま、リネスは嬉々としてパフェを食べていた。今思い出してもその時のリネスさんは可愛いなとエドガーは思うが、その時確信した。この人、かなりの甘党だと。
それ以降もリネスは自分で頼むことはしないが、エドガーが強請って食べることになった甘い物は嬉々として食べている。たぶん、リネス本人に自覚はない。なんで、進んで苦い物を飲んだりするのかはエドガーには分からないが、リネスが甘い物を食べる事が好きなんだとエドガーは確信している。
なので、エドガーはペガサス便に乗る前に買っておいた物がある。
「リネスさん、これ食べませんか?」
エドガーはサンドイッチをリネスに差し出す。中身はホイップクリームとフルーツがたくさん詰められており、いかにも甘そうだ。これを見たリネスは一瞬、キラキラとした目になる。エドガーはこういう表情を見るのが好きだった。
「これは?」
「冒険都市に売ってある人気のスイーツです。俺は行く前に食べたので、良かったらどうぞ」
「なら………」
リネスはサンドイッチを手に取り、食べる。頬にホイップクリームをつけながら、美味しそうに食べている。
「あっ、失礼します」
「?」
エドガーはハンカチを出し、リネスに近づく。そして、リネスの頬についているホイップクリームを拭いた。
「ついてたので、拭きました」
笑みを浮かべながら、エドガーはそういう。そして、ハンカチをしまった。そんな中、リネスは俯いていた。夢中に食べていたのを止めていたので、エドガーは申し訳なる。
「すみません、止めてしまって」
そんなエドガーの言葉を無視して、リネスは再び食べ始めた。どこか頬染めながら。
「そういえば、リネスさんも一週間、秘境にいるんですか」
ふと思ったことをエドガーは口に出す。その言葉にリネスは慌てて、顔を上げた。
「いや、元々はそういう予定だっただが………」
聞けば、リネスは昨日の夜に突如、依頼が入ったそうだ。元々はエドガーと一緒にいる予定だったが、依頼の日にちが重なり、居れそうにないということだ。
どこか残念そうにリネスはそういう。エドガーもかなり残念だった。この一週間、エドガーはリネスと一緒に入れることを期待していた。まぁ、依頼ならしょうがないが。
「というわけでだ。秘境までは一緒に行くが、その後は別れる。依頼が終えたら迎えに行くからな」
「1人で帰れますよ」
「駄目だ。私が行くまで、そこにいろ。泊まるところにも連絡してある」
エドガーは慌ててそういうが、リネスは断固と変えない。リネスが頑固な所があるを分かっているので、エドガーも強くは言えないかった。
「わかりました」
「秘境には、温泉もある。そこで身体をゆっくり休めておけ」
温泉があることを聞き、エドガーは楽しみになる。まぁ、リネスさんがいないのは寂しいが温泉でゆっくりしていようとエドガーはそう思う。
「そろそろだ」
窓から山々が見える。今まで見た中でも特に大きな山達。その中、ドワーフの秘境はあるのだ。
*****
「結構、入りますね。奥に」
「元々は隠れるためだっただからな」
かなりの険しい道をエドガーとリネスは歩いている。人工物とかは周囲に一切なく、ずっと木々や草がしかない。この道をリネスさん、通っていたのかとエドガーはそう思う。
「ここに来るの、大変ですね」
「まぁ、慣れればということだ」
特に動じる様子なくそういうリネスにエドガーは凄いなと思う。きっと息を切らしながら歩いている自分はまだまだ何だろうなとも。
「休むか」
「大丈夫です」
半分やせ我慢でエドガーは言う。ここで無理をしないと、リネスには追いつけないのだから。そんなエドガーをリネスは複雑そうに見ている。
「とはいえ、もうすぐだ。あっ、見えて来た」
リネスが指さした先をエドガーも疲れている身体を上げて、見る。すると、そこには集落が広がっていた。
*****
「おーい、リネス殿」
リネスとエドガーは集落に着き、歩いていると声がかかった。見た目は一般的なドワーフそのもの。やや、年を取っているようにもエドガーには見えた。
「お久しぶりです」
「変わらなそうじゃな」
親し気に話しかけたリネスの様子を見て、知り合いなのだろうとエドガーと判断する。リネスとあいさつし終え、ドワーフはエドガーにも話しかける。
「君がエドガー殿かな?」
「そうです。よろしくお願いします」
もうエドガーのことはリネスから聞いているようで、親し気に話しかけてきた。エドガーも微笑みながら、答える。
「じゃあ、案内しよう。リネス殿も来るかい?」
「いや、私はこれで」
そろそろ依頼の時刻が迫っていた。ここから割と近いとはいえ、いい加減行かないとまずい。なので、リネスはここで別れることにした。
「エドガー、間違っても無茶するなよ」
どこか睨んでいるようにしながらも、リネスはエドガーにそういう。エドガー自身、無茶することが起きないだろうと思い、それを頷いていた。
「じゃあ、終わったら迎えに来る」
「はい」
エドガーが頷いたのを確認すると、リネスはドワーフの秘境を出た。




