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第15話 樹木異界②

 今までよりもエドガー達に襲い掛かる木々の根。エドガーはそれを、苦痛に耐えながらも斬り捨てる。


「あんた、大丈夫!?」

「痛みはあるけど、動ける」


 というよりも、動かないと死ぬので何としてでもエドガーは動かないといけない。右手、全身、左目。それら全てから激痛が走っている。が、それでもエドガーは木々の根を斬っていく。動くたびに激痛が走るがそんなものは構っていられない。生き残るためにエドガーは必死で斬っていく。


 特に左目からは、目が潰されたことによって血が流れ続けている。リーズは止血しようとするが、それをエドガーは拒否した。止血する時間が無駄に思えたから。


「大丈夫。それより、リーズ」

「何」

「どうして、あれが再生したんだろう」


 リーズの術は、魂ごと押しつぶす。魂が一度、押しつぶされたら復活することはない。どこぞの魔術師でもない限りは。それなのに、復活したのはなぜか。それは、リーズも疑問に思っていた。


「魂って押しつぶしても復活するの?」

「基本は無理。まぁ、出来る奴もいるかもしれないけど」


 仮に出来たとしてもかなり、高度だ。ケイルやらテア、エミナあたりなら出来るだろうだが。普通の、ましてやこの国の魔術師なんてもっと無理だろう。


「死んで、蘇ったとかないよね?」

「ないわ。死者蘇生はそんな、簡単に出来るものじゃないのよ」


 死者蘇生が実現したことをリーズは聞いたことない。少なくとも、人面樹を創り出した魔術師達が出来るとは聞いたことがない。だいたい、創った物に呑まれた奴らが、そんな事出来るわけない。そう思い、リーズは死者蘇生とは別のギミックがあるだろうと考えた。


「まぁ、あれでも死ななかったでしょうね」

「もう一回やっても同じかな」

「まぁ、でしょうね」


 じゃあ、何で死ななかったなんだとリーズを考えた。術が効かなかったかと言えば、そういうわけではないだろう。現に人面樹は4本ごと術で潰れた。それは、リーズだけでもエドガーも見ていた。


 なら、それでも死ななかったのは何故か。リーズはその理由を何としてでも突き止めなくてはならない。

 リーズはエドガーの方を見る。木々の根の猛攻から自分を守ろうと、剣を振り続けている。痛みに耐え、木々の根を全て落とそうと斬っているが、全ては斬れていない。


 おそらく、この状態は長く持たない。エドガーの様子を見て、リーズはそう思う。全身の負傷が今までより、激しくなってきた。足も木々の根に刺されて、所々穴が開いている。

 なんで立てているか分からない状態、それでもエドガーは必死に剣を振っていた。だから、リーズも必死で人面樹が死ななかった理由を探さなければ、いけない。


 何かないか、リーズがそう考えていた時にふとあることが脳裏に出て来た。そういえば、これを創り出した魔術師達はこうなった時の事を考えていなかったのだろうか。こんな生命を創り出したのだから、もしもの時のを考えていてもおかしくはない。


「エドガー、しばらく保てる?」

「何とか」

「じゃあ、よろしく」


 そう言うと、リーズは飛び出した。それを追おうとする木々の根をエドガーが、全て斬り伏せた。リーズが何をするのか分からないが、それでもエドガーを彼女を信頼し、何とか保つことにした。


 その場をリーズは何か目立つものを探す。木々の根が広がるこの空間において、異色な物を探す。人面樹に見つからない様にしながらも、リーズはそれを見つけた。根に覆われた丸っこい物体。それが、宙に浮いていた。


「あれは何かしら………」


 明らかに異色な物体。その周辺に危険な物がないか、リーズは見る。すると、何やら奥の方で人が倒れているのを見つけた。


罠じゃないかと警戒しながら、リーズは近寄る。倒れていたのは、大柄で冒険者だった。

その姿を見て、エドガーから聞いていたソドムの外見と一致する。脈を測り、生きていることを確認する。

おそらく、魔力不足で倒れているのだろう。命の危機ではなさそうと判断する。そして、リーズはソドムの周りに結界を張った。


「まぁ、こんなもんでしょ」


確実とは言えないが、ないよりマシ。そう判断して、リーズは物体を観察した。覆っている木々の根は、まるで人面樹が何かを警戒しているかのよう。


リーズはこっそり、覆っている木々の根を叩いてみる。それだけで、かなりの木々の根が覆っている事が分かった。


もしかしたらとリーズは思う。木々の根が覆っている物は、人面樹に致命打を与える何かじゃないのかと。


確信はない。たが、やってみる価値はある。そう思い、リーズは詠唱を組み立てた。


『世界に阻まれた、異界の礎』


リーズの詠唱がエドガーの耳へと届く。それと同時に、人面樹がさらに木々の根を動かす。詠唱がする方へ、凄まじい速さで動かした。

エドガーには、その様子が焦っているようにも見える。


リーズがしようとしている事は、人面樹に大打撃を与える。エドガーは、そう確信する。だから、エドガーは木々の根がリーズの方へと行くのを防ぐべく、剣をする。


そして、


『自然の力をもって、この者達に鉄槌を下すことを』


詠唱が完成された。


詠唱によって、編み出された風の鉄槌が異色の物体を押しつぶす。木々の根がそれに、必死で抗おうとする。

しかし、そんな物に意味はない。風の鉄槌は異色の物体を押し潰した。


そして、それと同時に人面樹にも変化が起きた。 目に見えるように、攻撃の速度が落ちた。

その速度は、負傷し疲労しているエドガーにさえ、余裕で見切れるほど。


あまりの変わり様に、エドガーが察する。リーズが何かをしたのだと。


氷結撃アイス・ブローム


弱った隙を見逃さず、エドガーは魔術を放つ。それが、人面樹に直撃する。

さっきは、ビクともしなかった攻撃。その攻撃を受けた、一体の人面樹は動かず、凍りついた。


動きどころか、耐久も脆くなった。エドガーはその様子を受け、そう確信する。


エドガー自身、いつ自身が尽きるか分からない。だから、この攻撃で終わらせる。そう思い、自身の魔力を大量に集める。



そして、


氷結撃アイス・ブローム


今までの範囲で、青白い光を纏った斬撃が人面樹達を斬っていく。そして、その全身が凍りついた。


もう異界が動くことは無い。人面樹達は永遠の眠りについた。

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