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第10話 光石樹街道を通ろう!

「改めて聞くけど、ほかのルートにしないの? そっちの方が安全よ」


 隣を歩いているリーズに、エドガーは首をふる。それはもう、とっくに決めたことだったからだ。それを見たリーズはどこか呆れたようにしている。


「しないのね」

「うん。それより、君は大丈夫?」


 エドガーは心配そうにリーズを見る。よくわからないけど、一緒についてきてくれると言ったリーズを命の危険に晒すことが不安だった。


「別に。心配すべきはあんたよ。私より弱いんだし、ダメそうだったら私すぐに置いてくから」

「そっか」


 嘘偽りなく言ってくるリーズだが、エドガーはそれが嬉しい。予めそう言ってくれれば、もしそんなことが会った時、心の準備がしやすいからだ。


「んじゃあ、今から行くルートを改めて説明するわね」

「よろしくお願いします」

「私たちはこれから、光石樹街道って言う所を通って、城まで行くわ。そこから、正門を通って、中に入る。最終的には、城の頂上である塔の最上部。人面樹がいる出入り口に行くわ」


 ある意味、正規のルートっぽいなぁとエドガーは思う。ここが樹海っぽくならなければ、そうやって通るのが一番いいのだろう。


 とはいえ、今はこんな有様だ。かつて人が営んでいただろう都市は、根と蔓と茎で覆われている。こんな異界じみた所は本来なら、正面突破は下策だとエドガーは周りを見ながら思う。


「でも、簡単には行かないんだろう?」

「当たり前よっ。特に光石樹街道あたりからは、魔物やら当時の人間やらがうようよ出てきて、私たちを襲うわ」

「……当時の人間って王国が健在だったころにいた人たちのこと? 今も生きてるの?」


 この世界において、魔力が体内にある人間は老衰で死ぬことはない。魔力がその人の最盛期に到達したと感じた瞬間、身体は老いるのを止まるからだ。だから、何百年前の人間が生きているという事は、この世界において不思議ではない。

 

 ただ、もし生きているなら今まで出てこなかったのが、エドガーは不思議だった。


「まさか。ここが人面樹に飲まれてた時、死んだわよ。ただ、人面樹が使えそうな人間は、死体になっても人面樹に操られているってだけよ」

「それは………」

「死んではいるけど、身体に魂は健在よ。まっ、正確には人面樹が無理やり繋ぎとめているんだけど」


 死んでもなお、操られている状態にエドガーは顔を歪める。何百年も尊厳を壊され散る状態を想像し、やるせない気持ちになった。そんなエドガーにリーズは注意をする。


「同情するのはいいけど、だからって、手を止めないでよね」

「大丈夫。むしろ、楽に死なせてあげたいんだ」


 死んでも動かさられているのなら、早くなるべく楽に死なせたい。救うとまで言うわけではないが、エドガーはそうしてあげたかった。ここまで、尊厳を破壊させられたのなら、いっそ楽に殺してあげたいのだ。


 そんな覚悟を決めたような顔立ちのエドガーに、リーズは安心したように笑う。


「そっ。そっちの気持ちに変化できたなら上々よ」

「特に強い人間とかいる?」

「ぶっちゃけ、私も全ては知らないのよ」


 大妖精は嫌でもここに長くいるが、それでもこの遺跡の全てを知るわけではない。遺跡になった後は、彼女は城の正門前までは行っている。が、それ以降は行けていないのだ。


「確実に言えるのは、城にある門。そこにいる門番は強敵よ」

「門番。2人?」

「いいえ、1人。大きな剣を使うわ。少なくとも、今のあなたより圧倒的に上ね」

「だよねぇ」


 エドガーは自分が強い方ではないとは自覚している。自分より強い敵の方が多いだろうとは思っている。ただ、それでも自分より弱い敵なことをどこかで祈っていた。そっちの方が、単純に楽だからだ。

 とはいえ、そんな楽に進まないのだって覚悟の上だ。自分より強くても倒すしかない。エドガーはそう前を見据える。


「……あいつが強いのは当たりまよねぇ」


 どこか複雑そうに呟くリーズに、何か言おうとした時だった。


 ふと前の方から、音がする。鎧が歩いているような音。それも複数。その意味を察し、エドガーは剣を抜いた。リーズも術の準備をする。

 

 彼らの前に現れたのは、すべてが鎧に覆われた兵士。槍や剣、弓、盾など生前使っていた武器を持っており、構えている。その数は、百を超える。


「この光石樹街道は、魔物よりも兵士が現れる。かつて王国に仕えた百戦錬磨の兵士たち。魔術は使えないけど、その武術の腕は並大抵のものじゃない。私たちはそれを超えなきゃいけないわ」

「───やるしかないね」


 その宣言すると、エドガーは駆けだす。それと同時に、兵士たちの後方から弓矢が飛んできた。


 魔術を一切使わないのに、凄まじい威力で襲い掛かる。一矢一矢が、地面に突き刺さり、ひび割れる。魔術に頼り切りな節がある現代では、中々見れない光景。

 その猛攻を交わしながら、エドガーは目の前の兵士に斬りかかった。並みの人間なら一撃で真っ二つになるそれを、兵士は微動もせず、大剣で受けきった。


「─────ッツ‼」

「───────」


 剣の混じりあう。剣技ではなく純粋な力の勝負。それに、エドガーは押されていた。並みの人間よりは鍛えられているそれも、本職であった屈強な兵士の前では通じない。

 だから、純粋な力ではなく小細工を使うことにした。


「────電撃エレクトロッッ」


 剣から放出されたのは、電撃。鍛えられた兵士を倒すことは出来ないにしろ、その動きを止めることは出来る。

 一瞬の隙をつき、エドガーは剣を真正面から振り下ろす。金属と金属が重なり合う音が走る。


 そして、次の瞬間エドガーは吹っ飛ばされた。身体にかかる圧力は、かつて家であった物にエドガーを衝突させる。壁が壊れ、中に身体が入るほどエドガーは吹っ飛ばされた。


 が、エドガーは特に何ともなく起き上がり、再び兵士たちの方へ駆け寄ろうとする。その背中をリーズが止めた。


「あんた! ちょっとこっち来なさい!」

「どうしたの!?」

「身体は大丈夫そう?」

「うん、全く大丈夫」

「……あんた、身体かなり頑丈ね」


 さきのエドガーは大剣で文字通り吹っ飛ばされた。家の壁を突き破り、中まで吹っ飛ばされた彼を見たリーズはただで済まない事を覚悟した。が、何ともなさげな様子だったので思わず驚いたのである。


「ちょっと、触れるわよ」


 そういうと、リーズはエドガーの胸に触れる。突然のことに、思わず身体が飛び跳ねるがそれをリーズが静止する。

 ものの数秒も経たずに、エドガーの身体に変化が起きる。まるで、身体が作り変えられるよう。その感覚にエドガーは思わず、大妖精を見返した。


「妖精術。あんたの身体を強化したわ。二日はまぁ、保つでしょうね」


 妖精術。妖精だけが扱う固有の術であり、生命や自然物を操ることが出来る。魔術とはまた違った力であり、種によっては強大な場合もある。

 リーズはそれによって、エドガーの身体を一時的に強化したのだ。


「ありがとう」

「あんたは、しばらくの間足止めして。そしたら、私が何とかするから」

「──────了解!」


 そういうと再びエドガーは駆けだす。相手が大剣をエドガーに対して振りかざそうとする瞬間、相手に氷の弾丸を叩きこむ。さきのエドガーに襲った衝撃ほどではないにしろ、確かな威力で相手を吹っ飛ばした。


 次々に襲い来る剣と槍、空中からの矢の攻撃。それらを紙一重で交わしたりしながら、所々で攻撃を与える。相手を死なせるには至らなくても、動きを止めるくらいは出来る。


 刹那、1人の兵士がリーズの元へ走り出そうとする。それを阻止すべく、エドガーは呪文を唱えた。


風防壁ウィンド・シールド


 その呪文と共に、走り出していた兵士が吹っ飛ばされる。見えない風が防壁となり、兵士を飛ばしたのだ。

 

 息をつく暇なく、剣士から繰り出される斬撃がエドガーを襲う。エドガーは風の防壁がある所まで後退する。四方八方から襲う斬撃は、風により全て兵士たちへと跳ね返る。

 風により本来のよりも威力が上がった斬撃を受け、ようやく鎧が砕ける。身体が見えてもなお、致命打にはならない。


『────ゆえに、我は願う』


 ふと後ろで声がする。それが何にかすぐに察したエドガーは、それが唱え終わるまでと再び呪文を唱える。

 盾で防御しながら、風の防壁を破った兵士に、電撃を浴びせる。自身に斬りかかろうとする無数の兵士達に氷、炎、電撃と次々と浴びせながら同時に斬りかかる。


 リーズを信じ、エドガーは最後の最後まで彼の盾となり続ける。そして─────、


『我が祖の名の下に、この者たちに自然の鉄槌を』


 刹那、兵士達が押しつぶされる。エドガーが創り出した風の防壁など比にならないほどの威力の風が、体内にあっただろう根や茎、蔓ごと押しつぶす。鉄も骨も魂も、全て押しつぶす。再生する機能が失われ、そこにはもう原型も分からないただの肉塊しかない。


 それを成した人物は、どこか疲れたように息をついた。


「ふぅ」

「大丈夫?」

「まぁね。久々に詠唱したし」


 詠唱とはこの世界の存在する術を行使する際に唱えられる物だ。魔術にもあり、呪文より遥かに高い威力を誇る。そして、それが長くなるほど性能も高い。


 詠唱を使用できる人は限られており、エドガーもリネスが使用した所しか見たことがない。久しぶりのその威力に驚きと共に、もう原型も見えない兵士達に複雑な心情になる。


「どうしたのよ?」

「………いや、楽に死ねたかなってね」

「大丈夫、一瞬よ」

「なら、いいや」


 どこか安心したようにエドガーは、兵士達を踏まないように避けながら通る。リーズはその真似をしながらも、エドガーの隣りに行った。


「結構当たってたけど……、マジで傷一つついてないわね。あんた、本当に人間?」

「まぁ……、色々あってね」


 驚き半分呆れ半分と言った様子のリーズに、エドガーは苦笑する。こんな身体になった原因は語るのは、雰囲気を悪くしそうなので控える。なにより、エドガー自身が進んで話したくは無かった。

 それを察したのか、リーズも特にそれ以上の詮索をすることはない。


「うん? あぁ、魔猪ね」

「次は魔物かぁ……」

「溜息ついている暇はないわよ」


 ふと突進してくる魔猪達を目にし、どこか溜息をつきながらもエドガーは次々と斬撃を繰り出す。先の兵士達よりも遥かに脆いそれらは、瞬く間に斬られていく。

 が、根や茎、蔓によって、強制的に再生しようとする。それを防ぐべく、エドガーは呪文を唱えた。


氷結撃アイス・ブローム


 斬撃に乗せられた、青い光が魔猪を包む。斬られながらも、彼らは瞬時に氷に包まれた。もう動くことも、再生することもなく凍らさせているのをリーズは感心するように見つめる。


「やるじゃない。あっ、でも次来たわね」


 再び襲い掛かる魔物を前に、エドガーは躊躇なく斬撃を浴びせる。そうして彼らは、この街道を休むことなく駆け抜けた。

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