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衣笠家の白白白魔

 ショックを受けたまま、もそもそと女の子物の服(男物はサイズが合わなかった)を着て、ゴミ出しに向かった。

 道ゆく人々の中には近所付き合いがあって、よく話す老夫婦の二人から話しかけられた。



「おやぁ、白魔ちゃんゴミ出しかい。偉いわね」


「ほっほっほ。こんないい子、嫁の貰い手が引くて数多じゃろ。なに、ワシが先に婚約申し入れしとこうかの」


「アホぅ言いなさんな! こんなボケジジイの言うことなんて聞かなくていいからね〜」


「まだボケとらんわ!」



 いつもの調子で話しかけてくれる二人。

 しかしそれは『白白白魔』を話題にしていて、『衣笠聖人』の名前は一切出てこなかった。



「……ただいま」


「おかえりー、あんど、お疲れー。ご飯できてるわよ」


「……なあ、母さん」


「なーに?」



 母さんも普段通りに話している。

 まるでここに、白白白魔がいる事が普通で、当たり前かであるように。

 だから直接聞く。



「俺、母さんのなんなの……?」


「はあ? なにそれ」


「いや、その」


「はあ〜、どういう意味かわからないけどね」



 母さんは腰に手を当てて、やれやれと首を振った。



「アンタは私の“娘”でしょうが。衣笠彩芽の一人娘、白白白魔。それ以外になんだって言うのよ」



 娘。

 そして苗字を『衣笠』と言っているのに、その娘の苗字を『白白』と呼んだ。

 ゾッとする。

 喪失感に苛まれて、不気味にも感じる。



「アンタさぁ、オタク趣味もいいけど、そのせいで脳の容量使いすぎちゃってるんじゃない? 脳を酷使したら早死にするわよ」


「母さん……」


「ほらちゃんとご飯食べて、しっかり動いて、夜にはぐっすり寝るのよ。いいわね」



 それじゃあ、私仕事に行くから。

 そう言って母さんは、俺の頭を撫でてから、家を出て行った。

 一人ポツンと残された俺は、その場で崩れ落ちた。



「………どーなってんだ、チクショウ」



 そう呟く声は、やっぱり可愛い女の子。

 衣笠聖人という立場が、白白白魔に奪われた。

 なのにその白白白魔の中にいるのは、衣笠聖人だ。

 わけがわからない。

 どういうことなんだ。

 まるで魔法にかけられたみたいだ。



「“魔法”……まさか、魔法少女の、白白白魔の、パステルホワイトの仕業なのか……⁉︎」



 体育座りをしようとして、自分の体と、折り畳んだ足の間で胸が柔らかく形を変えて押し潰れた。その弾力と柔らかさにビックリして、慌てて足を伸ばす。

 この柔らかい胸も、煩わしく感じてしまう。

 俺の居場所をイタズラに奪った、犯人の、女の体。



「奪われたのか? いやでも、俺はいるし……」



 少しの間、俯いたままボーッと動かないでいた。

 しかし母の言葉を思い出して、慣れない体をゆっくりとなんとか起き上がらせて立ち上がり、リビングのテーブルに座る。

 そして机に置かれた目玉焼きトーストを一口。



「口、ちっちゃ」



 食パンの耳の端っこをかじるだけで口の中がいっぱいになってしまった。

 かぶりつくようには食べられなかった。ちょもちょもかじって、食べ終わってから、皿を流し台に持っていく。

 やはり背が低くなって周りのものが大きく感じる。



「どれくらい縮んだんだろうな。朱音よりは大きくあって欲しいけど」



 もう疲れてしまったのか、そんなどうでもいいことしか思い浮かばなかった。



「……ん? 朱音?」



 と、そこでふと思いつく。

 朱音は、今の俺をどう見ているのだろう。

 彼女の家はすぐ隣だ。幼馴染で、ずーっと一緒だったからな。



「会ってみるか? いやでも、アイツまで俺のことを別人だと思ってたら……」



 いよいよ立ち直れなくなるかも知れない。

 それでもいつかは会う時が来るだろうし、早いか遅いかの違いだ。

 だったら会える時に会ってしまおう。



「いやでも……うーん」



 気持ち的に踏ん切りがつかなかった。



「そうだ。まずはメールで連絡してみよう」



 声を出さず、面と向かって話さなくていいメールでジャブを入れていこう。それで徐々に顔を出して話せるくらいに近づいて行く。

 時間をければ俺も心の整理がつくだろうしな。



「よし、それで行こう。朱音、朱音、と」



 部屋に戻って携帯を手に取る。そして朱音のアドレスを探して、ダイレクトメールを送信。

 内容は『ちょっと話がある』と送った。



「よし送れた。しかし、指ほっそいなぁ……」



 ちいちゃな指先でちょんちょんと操作してメールを送信した。

 するとすぐに既読がついた。



「お? 早いな」



 しかし、一分、二分、五分、十分と待っても返信が来ない。

 確かに既読はついてるんだけど。



「どうしたんだ?」



 するとピンポーンと呼び鈴が鳴った。



「え⁉︎ もしかして家に来たのか⁉︎ それだと俺のプランが狂うんだが⁉︎」



 なんで家に来るんだよ!

 そりゃ真隣だから来ようと思えばすぐにでも来れる距離だけど!

 慌ててメールを打つ。



「すまん! 会うのはなし!」



 そう送ると、今度はすぐに返信が来た。



『は? なんで?』



 いや、なんでって……会えるわけないだろ。

 今俺女の子になってるんだぞ。



「ちょっともろもろの事情があるんだよ!」


『呼び鈴聞こえたのよね? てことは家でしょ? 外にいるとかじゃないなら今会えるでしょーが』


「会わない会わない! 急に連絡したけど、とにかく会えない!」


『は? 意味わかんない』



 ごめん!ほんとごめん!

 まじでわけわからないと思う!

 朱音の立場からしたら、今すぐにでも会えるはずなのに、なぜかゴチャゴチャと渋られているんだ。イラつくだろう。



「悪いと思ってる! でもとりあえずメールでやりとりしよう」


『通話は?』


「それも出来ないと言うか」


『もしかして風邪?』


「違う。けど会えないし、通話もできない」


『マジで意味わかんない。オタク趣味に浸りすぎて脳みその容量すり減ってるんじゃないの。早死にするわよ』



 母さんとおんなじこと言ってる。

 しかしどうする?

 このまま朱音にダル絡みするのは悪いし、もしアイツのイライラがMAXまで行くともう会わないと言い出すかも知れない。



(あ、そうだ)



 俺が確かめたいのは、朱音と話すことじゃなくて、朱音が俺のことをどう見ているのか知ることだ。衣笠聖人として見ているのか、それとも白白白魔として見ているのか。



(ちょっと危ない橋を渡るかも知れないけど)



 ここは話を途切れさせず、なおかつ朱音に俺との会話を続けさせるための、何かキッカケが必要だ。

 そのために……、俺はパシャリと自撮りして、その画像を朱音に送った。

 白白白魔の自撮り画像がメールで朱音に送られて、すぐに既読がついた。



(よし、朱音が今のこの姿を見た)



 あとはどんな反応が帰ってくるかだ。

 ……。

 ……………。

 ………あれ?来ない。

 また既読はついてるのに返信がいつまで経っても返ってこなかった。

 もしかして写真がうまく送れてなかったのか?

 もう一度自撮りしてから、それを送ってみた。するとまたもすぐに既読がついたが、返信はない。



「……なんかマズったかな」



 失敗したか?と思った。

 そう思った時だった。

 ガチャガチャガチャッッッ!!

 玄関のドアノブが激しく何回も回される。当然朱音の仕業だろう。



「ひぃ! な、何してんだアイツ⁉︎」



 あまりの激しい音にビビってしまう。



「開けなさい!! 早く! さっきの写真の説明してもらうわよ!!」



 そして叫び声が聞こえる。怒っているし、焦っているようにも聞こえた。



「さっきの写真を見て……この行動って言うのは、どう言う事だ?」


「どうして!!」



 朱音の怒号がさらに聞こえる。



「どうしてアンタの携帯から、白白先輩の写真が送られてきたのよ!」


「———…………え?」



 白白、()()⁉︎

 俺は朱音の先輩ではない。幼馴染で同級生だ。

 なら先輩なんて呼ばない。

 だから、白白白魔の姿の写真を見て、白白白魔に対して“先輩”と呼称した。



「つまり……朱音は白白白魔を、衣笠聖人の立場になっている状態で見ているわけじゃなく、そのまま白白白魔として認識している」



 それすなわち。



「俺が、わかる……?」



 急いで玄関に向かい、鍵を開ける。

 同時にバーンッと勢いよく、朱音によって扉が開け放たれた。



「あ」


「っ!」



 直面する俺と、朱音。

 朱音は部屋着なのか軽くて動きやすそうなシャツと短パンを着ていた。

 そして俺を見た瞬間、目を見開き———その瞳が紅く輝いた。



「聖人、なの……?」



 白白白魔の姿をした俺を、聖人と呼んだ。

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