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三色の魔法少女

 赤と白のミニスカートフリルドレス。背中に翼が描かれていて、ブーツにも翼が描かれた、幻想的な衣装を身に纏う女の子。



「パステルレッド!」



 真っ赤な炎を全身に纏わせて、空から落ちてきたのは赤の魔法少女だった。

 黒いロングツインテールをたなびかせて、生徒達の前に現れた彼女は、大きな声で彼らに指示する。



「みんな! 急いで避難して!」



 その声で、一斉に逃げ惑う生徒達。

 目の前で沢山の人が逃げて行く中で、俺は一人呆然とパステルレッドの姿を眺めていた。



「あれ……なんで地元の魔法少女がここに?」



 魔法少女は日本各地にいて、ああやって突如街中に現れる怪物を退治してくれる。

 けどパステルレッドは俺の地元の魔法少女だ。いつもこう言う時に現れるのをよく見る。

 この地域にも魔法少女はいるはずなのに、どうして彼女が現れたんだ?



「そんなこといいでしょ。それより、早く避難しないと」


「あ、ああ……そうだな」



 腕を引っ張る漆間の言う通り、早く逃げなければ。

 漆間もいるんだ。彼女のためにも行動は早いほうがいい。

 走り出した俺に頷いて、漆間が隣を走る。



「いきなりあんなのが現れるなんて。朱音や山吹は無事か?」


「私たちが今から避難する場所にもういるはずよ。あなたは自分の安全だけを考えるの」


「……そうか」



 あの二人、あと目の前にいる漆間だが。

 こう言う場面でいつもいなくなる。なんでかわからないが、怪物が現れるとすぐにいなくなるので、気にしないといけない。

 けれど同時に余計なことをすれば二次被害を起こすこともわかっている。だからまずは避難所に行って、2人がいるか確認しよう。



「———ッ! 危ない!」



 逃げるのを最優先にしていた。

 しかし漆間が何かに気づいて頭上を見上げた。そして俺を押し飛ばす勢いで突進して来て、一緒に横に飛ぶ。

 ドォォォン!とすぐ後に大きな音と共に、俺たちがいた場所に何か巨大なものが落ちてきた。それはさっきの巨大な牛と全く同じ怪物だった。



「か、怪物! もう一体か⁉︎」


聖人(まさと)! 私のそばから離れないで!」


「え?」



 すぐに漆間を連れて逃げるか、隠れるかしようとしていた思考がぶった斬られる。

 離れないで、とはどう言う意図の意味か。

 それはすぐにわかった。


 ヒュ———ドォンッ!


 パステルレッドが、さっきいた場所から地面スレスレの低空を高速で飛んできて、そして牛の顎めがけて下から上へアッパーカット。

 吹っ飛ばされた牛の巨体が宙を舞い、そのまま空中で炭になって霧散した。



「今、無闇に動いてたらパステルレッドの攻撃に巻き込まれてた……あ、ありがとな」



 漆間が咄嗟に、動かないよう言ってくれたから事故が起こらなかった。助かった。



「いいえ、それより無事かしら。もし衣笠(きぬがさ)君に何かあったら———」


「あのさぁ」



 漆間の言葉を遮るように、不機嫌なパステルレッドが話しかけて来た。

 実は彼女とは何度もこう言う場面で出会しているのだが、その度になんだか聞き覚えのある声だなと思う。

 しかし、なぜ彼女は話しかけて来たのだろう。



「イチャイチャしてないでさっさと逃げなさいよ。まだ他にもいるからさ」


「え?」



 聞き返したのと同時に、建物から破壊音が聞こえた。さっき牛が屋根を破壊して出て来た建物だ。



「建物の中に……っ! な、中にいる人は⁉︎」


「大丈夫。私は一人じゃないから」



 彼女がそう言い終わるのが早いか、建物の壁が壊されて、何かが吹っ飛んできた。

 俺らの方に飛んできたそれをパステルレッドは蹴りの一撃で、別の方向に飛ばした。それは巨大なダンゴムシのような怪物だった。

 蹴り飛ばされた先で炭になり、霧散した。



「なんで、怪物が中から飛んできて……」



 俺の疑問はすぐに解消された。なんてことはない。

 壊れた壁の向こう。

 そこに、黄色い衣装の少女が立っていた。



「あれって、パステルイエロー⁉︎」



 黄色の白のドレスを身に纏い、立っていたのはパステルレッドと同じ魔法少女の、パステルイエローだった。

 缶バッチに描かれているのと同じティアラを被り、足には“麒麟”を思わせる渦巻いた模様と、蹄の形をしたつま先。彼女もウチの地元の魔法少女だ。

 さっき壁をぶち壊してダンゴムシを吹き飛ばしたのは彼女だったのだ。



「ちょっとイエロー! どうして壁を壊したのよ、こっに飛んできたし!」


「それはごめんね。でも、これで怪物達が外に向かって移動できるルートはここだけよ」



 レッドからの文句にサラッと答えて見せた、茶髪の少女パステルイエローは、俺らから目を離して後ろを向く。

 そちらからは何体もの怪物が、唯一開いた穴へ向かって突っ込んできているところだった。



「招かれざるお客様には、もう二度と来ないようにお灸を据えないとね」



 突っ込んでくる怪物達。

 そんな彼らの前に、突如地面から土の壁が隆起して現れた。

 前にいた怪物は勢いよく壁にぶつかってしまい、後ろから来た怪物に押しつぶされて、霧散して行った。

 そしてさらに建物と同じくらいの大きさの壁が、怪物達に向かって倒れた。そのままペシャンコになり同じように消えていく怪物達。



「相変わらず容赦ないわねー、イエローは」


「あれで建物内の怪物は全部……? なら漆間!」



 すぐに逃げよう。

 そう思い、漆間の姿を探した。しかしさっきまですぐそばにいたはずの彼女の姿がなかった。



「あれ⁉︎」



 一瞬、血の気が引いた俺に、パステルレッドが呑気に。



「大丈夫。さっきもう一人の仲間が避難所まで運んで行ってたから」


「もう一人?」



 誰だ、と聞く前に、またしても怪物が現れた。

 今度は空からカマキリの見た目をした怪物が落ちて来たのだ。



「え! さっきも牛が落ちて来たけど———って、やばっ!」



 なんで怪物が降ってくるんだ⁉︎

 咄嗟に逃げようとしたが、それより早くカマキリの体が空中で真っ二つに切り裂かれた。地面に足をつける前に、カマキリは空中で霧散して消えた。

 消えたカマキリの代わりに、空に一つの小さな人影が見えた。それは俺のすぐ隣に降りたった。



「あら、よく会うわね。少年」


「パ、パステルブラック⁉︎」



 銀糸の髪を翻して現れたのは、パステルブラックだった。

 消しゴムくらいのサイズの亀の甲羅を連結させて首に巻いたネックレスと、蛇の模様が描かれたブーツを履いている、

 レッド、イエローに続きブラックまで現れた。



「もしかして、漆間を運んだのはアンタなのか」


「ええ。あなたも一緒に逃したかったけど、担いで持っていくにはタイミングが合わなくて。だから早く逃げたほうが……あー、いや。今あなたが行ったら、ちょっと面倒臭いか」


「え?」



 面倒臭い?なんで?



「あー、絶対私らがいない事を怪しむよねー」



 ?

 なんのこと?

 赤と黒の魔法少女二人の会話についていけない。



「だったら仕方ないわね」



 そう言いながらパステルブラックは、手の上に水の塊を出現させる。

 ドスン、ドスンとさらに空から怪物が周囲に降りて来て、完全に取り囲まれた。



「———ここを安全地帯にする」



 ブラックが天高く掲げた水の塊が、傘のように大きく広がり、そのまま周りを取り囲んでいた怪物達を一気に、一瞬で、全部真っ二つに切り裂いて見せた。

 あの水を刃にして、切り裂いたのだ。



「すげぇ、やっぱブラックカッケェ!」


「えっ。あ……えへへ、そ、そう? 衣笠く……じゃない、少年にそう言われると嬉しいと言うか、照れちゃうわね」


「だからイチャイチャすんなって!」


「みんなー! 建物の中にいた人はみんな無事ー!」



 イエローが破壊された建物内にいた人たちの安否を確認し終えて、それを報告しに来た。

 てことは……あれ?



「お、俺だけ逃げられてないのか」


「ほんとー、アンタっていつもこういう現場に居合わせて、いっつも危ない目にあってるわよねー」


「うぐ」



 レッドにそう指摘されて、ぐうの音が出てしまう。

 そう言われれば割と頻繁に彼女ら魔法少女と遭遇している気がする。そして同時に、怪物にも襲われることが多々ある。



「別に俺が何かしてるわけじゃないんだが」


「どうかしら。ま、いいわ。イエロー、あなたは避難場所に向かって彼らを守って。私とブラックはここでこのお騒がせ君を守ってるから」


「了解!」



 お騒がせ君って……。

 イエローは言われた通り、避難場所に急行。

 残されたのは俺と、レッドと、ブラックの3人なわけだが。



「あれ? 俺もイエローと一緒に行って、避難した方がいいんじゃ……」


「見上げてごらん」



 空から、さらに大量の怪物達が降って来ていた。

 なんの力もない俺が勝手な行動をすれば、余計な二次被害が出てしまうかも知れない。何よりあんな数の怪物から逃げられるわけもなく。



「……えーと、こう言う時は」



 レッドとブラック、二人の魔法少女の背中がある。



「スケさんカクさん! やってしまいなさい!」


「コイツボコして気絶させてた方がマシじゃない?」


「私と戦いたいならぜひどうぞ。まああなたが殴る前にあなたを殴り飛ばすけど」


「うっさいわね。あーあー、なんでこの二人と一緒にいなきゃいけないのよー! ムカつくー!」



 なぜか攻撃の威力が上がりまくるレッドと、ブラック。

 次々と怪物達が粉砕されて行く様子を、戦闘の渦中のど真ん中にいながら、ルールも何も知らないプロレスの試合中継をテレビで観戦する気持ちでポケーと眺めていた。

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