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魔法少女の国ミストゲート

 ずっと落下していた。

 しかし不意に体が浮いて、ピタリと落下が止まった。

 すると真っ暗だった穴の中から出ることができて、次の瞬間には目の前に花畑が広がっていた。



「え、なにここ……」



 満面の花畑。

 地平線の向こうまで花だった。

 色鮮やかな花々が咲き誇り、さらにその上には蝶々がヒラヒラと飛んでいた。



「天国?」


「みたいなところね」



 俺の背中に抱きついていた朱音がそう言った。

 というかなぜ俺らは空中に浮いているんだ?

 魔法の力なのだろうか。



「さあ着地するわよ。舌噛まないようにね」



 スタッ、と花畑の真ん中に降り立つ。

 そこで俺の体が離されて、ずっと支えられていた力がなくなり、その場で倒れ込んでしまう。



「うわわ」


「しゃんとしなさいよ」


「だ、だってよ……」


「はあ〜」



 朱音は腰に手を当てて、頭をガシガシを乱暴にかいた。

 そして俺に目を向ける。



「……アンタのそれ、魔法少女に変身したんでしょ?」


「あ、ああ……咄嗟のことで」


「……そう。まあなっちゃったもんは、もう仕方ないか。でもこれだけは覚えておいて」



 地面に座り込んでいる俺に、ズイッと身を乗り出して顔を近づけ、指を差して来た。



「戦いは別。戦いたくない、怖いなら、無理して戦わないこと」


「朱音、やっぱり心配してくれてるんだな」


「そりゃあまあ……、迷いある拳に力は宿らない。戦う意思がない人間に戦場に立たれると、足手纏いにしかならないからね」


「……ああ、そうだな。ありがとう」



 朱音は本当に優しい。

 ところで、俺の姿だがまだ依然としてビキニ姿のままだ。

 服を着ていた時とは違って胸を支えるものがビキニの上部分しかないから、なんだかより重く感じる。



「何で俺ビキニなんだ? お前みたいにドレス姿になるかと思ってたのに」


「んー、私にはわからないわね。他のところの魔法少女は衣装が違ってたりするけど、白白先輩のこんな姿は初めて見るわね。というか———」


「ん?」



 空気が変わった。

 何か嫌な予感がする。

 しかし俺が何かするより前に、朱音が俊敏な動きで胸を鷲掴みにしてきた。



「わあっ⁉︎ な、なにすんだ⁉︎」


「最初から思ってたけど何よこの胸! 見せつけて! 聖人のくせに生意気よ! この!」


「ひゃあっ! し、知らねーよ! も、揉むなぁ!」


「あてつけ! あてつけよこれは! 私への宣戦布告よ!」


「知らねーって! あああ!」



 力の差がありすぎて止めることも、逃げることもできなかった。

 だから朱音の気が治るまで揉まれ続けた。

 変な感覚だったぁ……。



「ふぅー、はー、スッキリしたー」


「お、俺はドンヨリだけどな……てかさ、ここどこだ?」



 周りを見ると相変わらず花畑。

 すると朱音は何でもないように指パッチンした。



「何って、ここはミストゲートって言う地球とおんなじくらいの大きさの異世界で……」



 朱音は俺が戸惑っているのが嬉しくてたまらないのかウキウキだった。

 腰に手を当てて仁王立ちすると、鼻高々に胸を張った。



「私の家よ!!」


「イエ⁉︎」



 朱音の背後にポンッと、三階建ての屋敷が出現した。

 花畑のど真ん中に突然、まるで家族が住むような立派な屋敷が現れたのだ。



「な、なんだこれ⁉︎」


「このミストゲートでの私の家! ふっふーん、凄いでしょ。アンタが呑気にオタク趣味してる間に私は、こうして一軒家を持っていたのだー!」



 マジで朱音の家なのか⁉︎

 だとしたらなんか、一歩先に行かれた気分だ!



「け、けどお前の家だって証拠はどこにも」


「見てて」



 パンパンッと手を叩いた。

 すると屋敷の玄関扉が開いて、中から執事やメイドさんが沢山飛び出して来た。

 そして朱音のそばに立ち、うやうやしく腰を折ってお辞儀をした。



「「お帰りなさいませ、朱音お嬢様」」



 一寸違わぬタイミングで、揃っていた。



「朱音、お嬢様ぁ⁉︎」



 聞き慣れない呼ばれ方をしている!

 朱音がお嬢様ってどう言うこと⁉︎

 まさかマジでこの屋敷が、朱音のものだって言うのか⁉︎



「う、嘘、だろ……」


「ふっふへへーん! どお! どお⁉︎ 見直した⁉︎ 尊敬した⁉︎ 憧れちゃったー⁉︎」


「こ、こんな事って……これも魔法少女だからなのか⁉︎」


「そーよ。他の魔法少女達だってそれぞれ家を持っているわ。イエローは小さな家だったり、ブラックは私よりもオシャレな家だったり、ブルーなんかはデパート丸々建ててたわねー」


「デパート⁉︎」


「中のお店を営業する店員さんもセットでね」



 私も時々買い物しに行ってるわ、ととにかく自慢してくる。

 魔法少女になったら家が貰えるのか⁉︎



「じゃ、じゃあ俺も⁉︎」


「あー、どうだろう。その姿が不思議だからねー、もしかしたらまだ魔法少女として認められてないかも」


「ええ⁉︎ 俺絶対学校を家にしたいんだが!」


「えー……魔法の世界に来てまで学校? 夢がないんじゃない?」



 朱音は執事の人に耳打ちすると、彼を屋敷の方に帰した。



「とりあえず、『魔女様』にアンタについての事情を聞いてみましょう。アンタの家に襲撃して来た“敵”のことも報告しないと」


「あ! 家にいるあいつらはどうなるんだ? 追いかけて来たりしないのか⁉︎」


「このミストゲートは魔法少女だけが入れる場所、安心して。それに現実世界は時間が止まっていて、私たちがここから出ないと動き出さないわ」


「時が、止まってる⁉︎」


「こっちにいる間はね。つまり、アンタが普段通り過ごしている間、私はこっちで何日も、何週間も色んな体験して来たわけ。そう考えるとアンタよりも大人かもねぇ?」


「にしては変わらないけどな」


「それ背のこと言ってる? 胸のこと言ってる?」



 なんか前にも聞いた言葉で詰め寄られた。

 慌てて誤魔化した。

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