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リサイクル工場

 5月中旬。クラスメイトの顔と名前を覚え始める時期に、俺、衣笠(きぬがさ)聖人(まさと)の通うカラフル学園で工場見学の行事が行われた。

 ABCある三つのクラスの合同で行われる。

 クラスの中で5人組のグループを作り、そして行きたい見学先を選択する。



「———で、隣の県のリサイクル工場」



 高速道路を走るバスに揺られる事、数時間。

 隣県の見学先であるリサイクル工場に着いた。ベージュ色の壁と、キノコの形をした排気口がてっぺんに並んで付いている三角屋根の建物。中に入るとでっかい機械が置かれていた。

 ガリガリバリバリと、紙をシュレッダーにかけるのとは違う、硬いものを潰して粉砕する音が響いて聞こえる。

 その巨大な粉砕機の前ではベルトコンベアが稼働していて、カメラや人の目によってゴミの分別がされている。さらに説明によるとベルトコンベアの先にある機械の中には巨大な回転する磁石があるそうで、その磁石に引っ付くものは鉄で出来たものであるから、回転する磁石に鉄製の物が引っ付いて奥側にあるゴミ箱に入れられて、引っ付かないアルミなどは真下にあるゴミ箱に自然と区分けされる仕組みになっているそうだ。

 そして細かく粉砕されたゴミは、再び新しい資源に再利用されて、俺ら消費者の元へ帰ってくる。最近だとこう言うリサイクルしたものでボールペンやオモチャ、さらにはベンチなんかも作られているそうな。



「資源は有限。いつか遠い未来無くなる。それを解決するために編み出された技術。なるほどなー」


「お。なんだ真面目じゃん。そんな賢そうな奴だっけ? お前」



 工場見学も一通り終わり、建物の外に出て一人ポツリと感想を言っていると、同じグループになった男子の一人に揶揄われた。

 いや多分今日来た見学してる奴らの中で一番関心持ってると思うけどな。



「だってこのリサイクルで作れるものがもっと広くなれば、ダイタイガーの等身大ロボとか、もっといえば戦隊モノフィギュアシリーズで、敵怪人全部作れたりするかも知れないだろ?」


「ダイタイガーって、昔してたロボットアニメだっけ?」


「そうだよ。世代じゃないけど」


「世代じゃないのにキョーミ持ってるって……やっぱお前オタクだろ」


「人は皆オタクになれるんだぞ、お前も沼に引き摺り込んでやろうか」


「おいおいやめろよ」


「一番入り込みやすいのはメシだな」


「メシは興味あるけど結構だ」



 やれやれ、と言った感じで白い目を向けられ、そのまま立ち去られてしまった。もう一人の同じグループの男子も、こちらに奇異の目を向けながらそれについて行ってしまった。

 向かっている先は見学がひと段落ついて、学校のみんなが集まっている場所だ。今はちょっとした移動時間で休憩も兼ねているため、時間にルーズに探していいタイミング。

 俺は遠くなっていく二人の背中を見送って、お返しに誰も見てない所でやれやれと肩をすくめた。



「美味い餃子が食える中華料理屋教えようと思ったのに。もったいない奴」


「———アンタねぇ」



 後ろから、聞き馴染みありすぎる声で話しかけられた。さっきの男子のやれやれ具合以上のやれやれ具合の声色と口調だった。

 振り返ると、またもや同じグループの一員。

 まあグループで行動してるんだから同じグループメンバーがそばにいるのは当然なのだが。



「そのオタク趣味、若干キモいわよ」


「キモいくらいなんだ。人の追求心と探究心と好奇心をナメんじゃねー」



 振り向いた俺に、慣れ親しんだ雰囲気で、なおかつ強気な口をきいてくるのは俺の幼馴染だ。



「朱音」



 紅沢(べにさわ)朱音(あかね)

 小さい頃からずっと一緒で、小学校から高一の今現在まで学校も、クラスも、奇跡的に全部同じだった。

 そんな親の顔よりも見た彼女の顔。吊り目がちの大きな目と綺麗な瞳をしていて、黒いロングツインテールをブンブンと2つの尻尾のように体の後ろで振っている。



「昔から変わらないわねー、アンタ」


「そっちこそ子供の頃から変わんないだろ」


「それ背の事言ってる? 胸のこと言ってる?」



 ギロリと睨まれて、あからさまに不機嫌な顔を向けられる。

 小柄で背の低い彼女。俺は175あって、あっちは140なので35センチ差。俺の胸の辺りにちょうど顔がくるくらい。

 そして胸は、まあ、あれだ。発展途上のフェーズ1って感じ。すなわち発展の始まり。まだ始まってない。まだ始まってないだけだから。



「なんかムカつく」


「何も言ってねーけど」


「その態度もムカつく。あー! もう! これにはちゃんと事情があるのよー! 何も知らないくせに!」



 事情?

 中学の頃から全然成長しているように見えない。それに何か彼女なりの事情があると言うのか。

 どんな理由か聞く前に、横から朱音の腕に、2本の細い腕が絡みついて、きゅっと優しくホールドした。



「そんな大層な事じゃないでしょー? 朱音ちゃん」



 山吹(やまぶき)蜜黄(みつき)

 5人グループの最後の一人で、二人目の女子。

 朱音よりちょっと背が高いくらいの、これまた小柄な女の子で、首元に付くくらいの茶髪をしている。くりくりした目が小動物っぽい。

 結んでいたり、ヘアピンなども付けていない飾り気のない髪の毛を揺らして、からかうように朱音に笑いかけた。



「蜜黄ちゃーん? それってどー言う意味かしら」



 低めの声。怒りの矛先が向いても、山吹(やまぶき)は朗らかに笑っていた。

 無敵かコイツ。



「だって成長期の大事な時に、いつも夜更かししてたのは朱音ちゃんだし」


「ふぐぅ! で、でも! だってそれは!」


「でもでもー、夜に活動しても寝不足にはならないようになってるよね? 明日の朝にはちゃんと学校に行けるくらいピンピンしてるはず。それなのに何もない時でも夜更かししてたのって、つまり昼夜逆転しちゃって夜更かしがクセになってたからでしょ?」


「しょ、しょーがないでしょ!」


「しょうがない? だったら衣笠君に文句言う権利はないんじゃないのかな」


「ふぬぐぅ」



 話の内容はハッキリとは分からないのだが、要するに朱音は寝不足癖がついてるってわけか。それで成長期にちゃんと寝なかったからこうなっていると。

 さっきから朱音の珍しい声が聞けてお得感がする。フグみたいな膨れっ面と、ぶすぶす漏れ出る空気の音。

 朱音のぐうの音。



「ふふ」


「ん?」



 パチン、と山吹に小さく笑いながらウィンクされた。してやったり、って感じだ。

 ぶーぶー文句がまだありそうな朱音と、ホクホク顔の山吹が歩き出したのを見て、俺もそれに付いていく。

 さっき男子二人が向かっていた集合場所に俺たちも向かう。



「ところで今日私服だけど」



 歩きながら、前にいたのにわざわざ下がって真横に来た山吹に話かけられた。

 右側に来た山吹とは逆の方には、朱音が寄ってきた。



「おう。お前らもだろ?」



 朱音は赤色のシャツに、ホットパンツと、太ももにはミサンガを巻いている。昔からよく見るいつもの格好だ。

 山吹はベージュのカーディガンと、その下には白いトップス。そして下はスカート付き長ズボン。見るからに、見学のためのズボン限定の縛りの中で、おしゃれして来ている。



「衣笠君がジャケットに付けてるその缶バッチ」


「これ?」



 青のデニムジャケットに付けた、5つの缶バッチを自分で指差して確認する。

 山吹はコクコクと小さく2回頷いた。



「そうそれ。それってさ」


「【魔法少女】よね」



 山吹が言う前に、朱音がハッキリと言った。

 2人とも同じ疑問や興味を持っていたらしい。



「あれ? 話してなかったっけ」



 割と一緒にいる時間が長いのに、話してなかったか。

 その俺の疑問に2人は目を逸らして、小さく乾いた笑いをした。



「ま、まー最初見た時気づいてたけど、その、気になっても……ねぇ」


「うん。なかなかこっちから切り出せない話題というか……恥ずかしいし」


「ね」



 ?

 なんの話?

 わからないけど、とりあえず質問に答える。



「これはガチャガチャで手に入れたやつ」



 5つの缶バッチ。

 それは地元で活躍する【魔法少女】5人の姿が描かれている。みんなそれぞれの色と、白のアクセントのあるミニスカートフリルドレスを着こなしている。


 一番右の俺の体に近い場所に付けたのは、【パステルブラック】。黒と白の衣装。

 銀色の長髪に、割と好みな綺麗な顔立ちをした女の子。アーモンド型の目の形と、綺麗な顔の造形、そして何より両目の目尻の下にある二つの泣きほくろ。


 その一個隣にいるのは、【パステルブルー】。青と白の衣装。

 黒いロングヘアーで、ところどころ寝癖みたいなぴょんぴょん跳ねた髪が特徴。さらに気怠けさが隠せない無気力そうなジト目。

 背が高くて胸も大きく、年上のお姉さん感がある。


 次に、【パステルレッド】。赤と白の衣装。

 黒いロングツインテールをして、いつも体の後ろで2つの尻尾みたいに揺らしている。吊り目気味な大きな目と、綺麗な瞳をしている。

 なぜだかわからないが、どことなく親しみやすさがある。



「……き、気まず」



 朱音がなんか目を泳がせていたが、気にせず次だ。

 次の魔法少女は【パステルイエロー】。黄色と白の衣装。

 小柄な体躯で、首元にかかるくらいの茶髪の髪型。頭にはティアラを乗せて可愛らしく思える。クリクリな目は小動物らしさを感じて、魔法少女なのに守ってあげたい気持ちになってしまう。



「……あ、あははー」



 今度は山吹が愛想笑いをしていた。



「? なんなんだ、さっきから。オタク話に付き合うの嫌ならハッキリ言えばいいのに」


「だいじょーぶ」


「だいじょーぶ」


「そうなのか?」



 二人から交互に大丈夫と言われ、なんか慰められた気分だ。不思議なのはあっちなのに腑に落ちない。



「それで最後」



 【パステルホワイト】。ピンクと白の衣装だ。

 金髪のおかっぱで、ワインレッドな瞳とタレ目な目の形。バッチに描かれているアートは、優しい笑みを浮かべている。

 ブラックはクールで、ブルーはダルそうで、レッドはツンツンしてて、イエローは小動物っぽい。それぞれ違う表情をしている中でホワイトは柔らかな表情。



「ガチャ作ってる会社が、あの5人モチーフに缶バッチ作ったんだって。日頃の感謝もあるだろうけど、まあ5人とも可愛いしな」


「っ! 可愛いって……ば、バカじゃないの」


「ううう……は、恥ずかしいよ、あまりそう言う事言うのはやめてね」


「なんで罵倒されたんだ。なんでたしなめられた?」



 やっぱなんかおかしい気がする。

 まあ、コイツらがおかしいのは今に始まった事じゃないけど。事あるごとに突然いなくなる事が多々あるし。



「これ全部揃えるのに苦労したんだぞ」


「そうなの?」


「ダブりばっか出てさー、特に()()()が」


「…………………へー」


「一番欲しかったブラックがなかなか出なくて苦労したなー、もう最後の方赤いのばっか出過ぎて、いっそ赤から黒にペンで塗り替えてやろうかと思っ———」


「ふん!!!」


「へごっ!」



 思いっきり膝裏を踏まれて、ガクンとバランスを崩した俺はそのまま膝を、アスファルトの地面に強かに打ちつけた。



「いだぁ! な、何すんだ! 膝が割れたらどーしてくれる!」


「知らない! その辺でのたれ死んでれば! バーカ!」



 ブチギレた朱音に文句を言うものの、怒った彼女に言葉は届かない。

 山吹も地面に手をつく俺に一瞥くれただけで、特に心配などせず、朱音の方へついて行った。



「なんなんだよ」


「———仕方ないわよ」



 後ろからゾロゾロと大勢の足音がしたかと思うと、聞き馴染んだ声で声をかけられた。

 振り返るとBクラスの方のグループが、ゾロゾロと集まって集合場所に向かっている途中だった。

 その中から一人、俺の方に近づいて来ていた女の子がいた。



「漆間」



 漆間(うるしま)黒涅(くろくり)

 日の光に当てられて輝いて見える銀色の長髪に、綺麗な顔立ちをした女の子。背筋をピンと伸ばした姿勢からは、エレガントさが垣間見えて気品がある。

 アーモンド型の目の形と、両目の目尻の下にある二つの泣きほくろが特徴的。

 服装はシルク製の柔らかそうなトップスと、反対にぴっちりしたジーンズ。彼女は由緒正しい家柄の、漆間家の次女。お嬢様だ。



「そっちのクラスはもう見学終わった感じか」


「ええ。Aクラスの後にね」



 ちょうど立ち上がった俺の隣に来ると、ズボンの汚れを手ではたいてくれた。

 慌ててその真っ白で小さな手を掴んで止める。



「いやいいって、お前の手がヨゴれるだろ。それより、さっきの仕方ないってどう言う意味だ?」


「あなたと出会って二、三年。ちょこちょこボロを出してるはずだけど気づかないもんね」


「ボロ?」



 止めたのに、俺の手をもう片方の手ではずすと、またズボンの汚れをはたき始めた。気が効いて親切だけど強情だよなー、相変わらず。

 輝く銀髪の頭に手を置いて撫でながら体を離させる。手を置いた瞬間に彼女の体が硬直して、簡単に離れさせる事ができた。

 俺からも少し離れてから、彼女が歩いて来た方向を見る。そちらにはBクラスの面々が集合場所に向かって歩いていて、俺と漆間の横を何人も横切っていく。その内の女子が顔を赤くして『キャー』と黄色い悲鳴を小さく漏らしていた。



「こう言う学校行事に出ると、初めて会った日を思い出すなー」


「そうね」



 黄色い悲鳴は聞こえないふりして無視する。

 少し思い出に浸って、2人で並んでBクラスの連中がいなくなるまでボーッと眺めていた。



「……なー、前に聞いたと思うけど」


「なに?」


「漆間ならもっと大きな学校に行けたと思うんだけど、なんでカラフル学園に来たんだ?」


「ん? そんなこと?」



 コテン、と小首を傾げられる。



「ふふっ。私がカラフル学園の受験を決めたのは、あなたがそこに行くと聞いてからよ」


「別の学校でも会えると思うけど、中学はそうだったし」


「つまり、遠距離恋愛に焦がれる少女期間はもう経験し終えたってわけよ」


「……お嬢様が随分、俗世っぽい例えするなぁ」


「あなたに影響されてね」



 語彙力があるのがチグハグ。

 話してるうちに、Bクラスのみんなは先に行ってしまった。後ろからCクラスが来るのが見えた。



「そろそろ、俺らも行くか」


「ええ」



 いつまでもこの辺ウロウロしてても仕方ないだろう。

 俺たちが歩き出そうとした———その時だった。


 ドゴォン!とさっきまで俺らが入って見学していた工場の建物が、爆発した。屋根が吹っ飛んでキノコ型の通気口が空を舞う。

 ガシャン、とそれがすぐそばに落ちてきた頃になってようやく、音でビックリしていた俺の思考も正常に動き出す。



「まさか……!」



 爆発した建物の、上。

 巨大な牛が内部から顔を出した。



「怪物……!」


「ッ! こっち!」



 漆間の血相が一気に変わり、俺の腕を引っ張って建物から離そうとする。

 いきなりで思考が追いつかず、されるがままだったが、すぐに立ち止まって漆間の腕を優しく振り払う。



「いいや俺はいい! それよりCクラスだ!」



 まだ建物の近くにいる。

 避難させないと!

 しかし振り払った手を、再び掴まれる。



「大丈夫よ、あなたは避難することを最優先に考えて!」


「でも……!」


「大丈夫、だってここには———」



 建物の上から、巨大な真っ黒の牛がCクラスの生徒達の前に大きな音と共に降り立った。

 やばい、と思った。

 けど牛が何かする前に———空から赤い彗星が落ちてきた。


 ドゴオオオオオン!!


 空で、キランと赤く光ったかと思うと、そのまま牛の頭に落ちてきた。そして牛の頭を地面に叩きつけた。

 あまりの衝撃に牛は一撃で失神し、そのまま黒い炭になって霧散した。



「あの赤いのって……!」



 牛の霧散した場所に立つのは、赤いドレスの少女。

 パステルレッドだった。

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