洞窟
ニュース
「速報です」
「先ほどの大きな地震で、電車が走る大紅橋が崩れたと情報が入りました」
「そして、崩れたのは電車が走っている最中、だったとのことです」
「大紅橋と電車は下の海に沈み、乗客の安否はまだ取れていない模様です」
智実
「は、、、?」
確か、大紅橋って、
橋村さんが今朝乗っていった電車が走るところじゃ、、、、
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凛裕
「まじかよ、」
俺と琥珀さんはこの直方体の部屋の角に閉じ込められた
この角は、トンネルから入ってくるときの向きで見た時に右奥に位置するところだ
俺は今、この空間でその向きになった時に前と右が壁、上下が天井と地面、左と背中側が黒壁だ
俺達がいるここには“名のないスライドドア”が付いている
くっそ、こうなってしまうのならもっとアーモンドウォーターを飲んでおけばよかった、
今は左ポケットにある一本しかない(ちなみに右ポケットには谷さんのカードキーが入っている)
冷蔵庫は俺たちじゃない方にある、そして、俺達以外の人がどのように分割されたのか、
はたまた分割されていないのかがわからない
マスマティクサーと女王がホワイトに取られてしまったかもわからない
今声を荒げて隣にいるであろうみんなに尋ねても声は届かない
琥珀さんは言っていた「無空間に音は伝わらない」と
どれだけ言っても伝わらないのだ
現に、空間を切られただけで奥の景色が見えていないのだから
さて、どうやって脱する?
あ
そういえばバッグ!
星森さんたちの方にある!
道具という道具がない、
まじどうしようもねえな、琥珀さんも黙りこくっているし
いやいや、そもそも考えてみろよ、空間を切られるって何?
今までマスマティクサーとか女王とか能力持ちの人間に出会ってきて感覚が麻痺してる
空間を司れる人がいてもおかしくないと思ってしまっている
いやおかしいからな?!空間を切れるって
だいたい人間にそんなことできるわけ、
いや、、だいたい人間に非現実的な能力が備わるわけないのよ
てことはよ?
もしかして人間じゃない?
マスマティクサーも、女王も、ホワイトも
でも、人語を喋ってるし、
でも明らかに俺達人間よりも優れている
、、、、
さっき琥珀さんが言いそびれたこと
聞きたい
聞こう
琥珀
「凛裕」
凛裕
「こは、、くさん?」
同時に声を発してしまった
琥珀
「、、、、さっき言おうとしてたことなんだけど」
凛裕
「はい」
よかった、要件は同じだ
琥珀
「仮説だ」
「女王は、核を破壊されて弱った、さっき一時的に眠っていたのは、一種の気絶状態だ」
凛裕
「、、、こあ?」
琥珀
「核に関しては、女王に仕えていたときに教わった」
凛裕
「、、、」
核って、漫画とかそういうのでしか聞いたことないけど、
琥珀
「、、核と聞いて非現実的なものを感じた?」
凛裕
「はい」
琥珀
「意外と近くにある」
「ここに」
琥珀さんはそう言いながら俺の左胸に指を置いた
置かれた瞬間に、鼓動を感じた
凛裕
「心臓?」
琥珀
「人間として生きるための核は、心臓だ」
そう言いながら琥珀さんは指を離した
俺は右手を自分の左胸に置いた
心拍は未だに強い
琥珀
「バックルームには、エンティティがいるだろ?」
「もちろん、エンティティは人間じゃない」
凛裕
「つまり、」
「エンティティとしての核もある、と?」
琥珀
「そうだ、」
「エンティティの核がある」
「エンティティは人間と違って、それぞれに“能力”がある」
「つまり、エンティティの核を持った“人間”は能力を持つことができるんだ」
凛裕
「え、、でも、エンティティは人間ではないって」
琥珀
「人間であり、人間ではない」
「バックルームに長くいると、正気が失われる」
「失われるにつれて、エンティティの核が体内に形成されていく」
「基本的にエンティティの核の強さに人間は耐えられない」
「耐えられなかった人間は人間を死に、エンティティへと生まれ変わる」
「ただし、一例として悪魔の七星は奇跡的に核が二つ共存した人たちだ」
「核を二つ保有してる者は強い、」
「ただ、核を壊された時、体に反動が襲いかかる」
凛裕
「それがさっきの、気絶状態」
「なるほど、」
心臓という名の核は現実世界で動物が動物として生きるためのものであり、
エンティティがエンティティとして生きるためにはそれ専用の核が必要
フロントルームで生物が形作られたように、バックルームでも同じ事が起こってたんだな、
つまり、現実世界と同じほど長い時間を要したはずだ
現実世界と違う生態系を作るためにはなおさら、
凛裕
「、、、、」
琥珀
「、、、、」
しばらくの間沈黙が流れた
俺は少し気になっていたことを話した
凛裕
「琥珀さん、その、背中に背負ってる剣って」
琥珀
「ああ、これ?」
凛裕
「そうです」
琥珀
「これは、、」
「昔に柏堵から貰ったものなんだ」
「大事な時以外は、絶対に使わない」
凛裕
「絶対に?」
琥珀
「うん」
「柏堵との約束でね」
凛裕
「約束、」
琥珀さんにとって柏堵は、悪者ではないのか?
凛裕
「その、琥珀さんと柏堵の関係って、」
その時だった
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
凛裕
「うおっ!」
琥珀
「しゃがんで!」
この空間が強く揺れ動き始めた
するとそれと同時に
凛裕
「は、」
ズズズズズズズ
黒い壁、黒い幕が裂け始めた
その向こう側は
いずれにせよ、真っ暗だった
黒い幕が大きく裂けたあと、空間の揺れが収まった
凛裕
「どこだ、ここ」
俺は裂け目の向こう側を凝視した
このパソコン室の電気の光が外へ漏れ出し、少しだけ照らされて見える
琥珀
「洞窟?」
琥珀さんの言う通りだ、多分
光りに照らされた、ゴツゴツとした岩肌が目に見える
琥珀
「行ってみよう」
凛裕
「え、ちょっと」
裂け目をまたいでズカズカと洞窟に踏み入っていく琥珀さんを恐ろしく感じながらも、置いてかれてはまずいと思いついて行った
かなり足場が悪い、よく見ないと
裂け目から数歩歩いたところ、少し明かりがなくなったように感じた
まさかと思い後ろを向いたら
さっきまで俺達がいた空間が丸ごと消えていた
俺は引き返さなかった
とりあえず、
琥珀さんについていくだけだ
少し進むと、琥珀さんが立ち止まった
琥珀
「あまりにも明かりがないな」
凛裕
「ですよね」
俺はやっと立ち止まってくれたかと思い腰を下ろした
少し鋭い岩が俺のお尻を突いた
凛裕
「いて、」
ただ、これまでの痛みと比べるとどうってことない
なんせ、まだ治ってない痛みばかりだからな
体中に巻かれた包帯、軍病院
井伊さん、谷さん、
まずい、色々思い出しちまった
アーモンドウォーターが一本しかない今、精神を狂わせてしまっては危ない
落ち着こう、深呼吸だ
琥珀
「凛裕」
凛裕
「は、い!」
琥珀
「しーー、」
静かにという合図だろう、俺は琥珀さんの視線の先を見た
凛裕
「は、」
火の玉だ
??
「誰かいるのか!」
聞き覚えのある声、すぐに分かった、だが
保険はかけたい
すると琥珀さんは腰にかかっている剣の持ち手を持った
??
「おーい!」
だいぶ近づいてきている
琥珀
「名を名乗れ」
??
「わかった」
「橋村 優駿だ」
凛裕
「優駿さん!」
優駿
「嘘、凛裕?!」
姿は見えないが、声で通じ合った
俺は立ち上がり、火の玉に近づいた
すると
優駿
「久しぶりだ、よかった」
凛裕
「よかったです、」
火に照らされる優駿さんの姿が見えた