脱出計画 003 "犠牲の日"
・「、」
…縦に並べて時間の経過を表す。
多いほど時間の経過は長くなる。
・「///////////////////////////////////////////////////////」
…一人称視点の人物変化時に使用する。
・「―――――――――――――――――――――」
…データ、省略。
・「……………………………………………………………………」
…回想シーンと現実の切り替え時に使用する。
―懐中時計→3E―
傑
「もう3Eだ」
俺たち三人はもう拠点に戻ってきている
英たちは何やってるんだ
井伊
「帰ってこないんやったらもう」
「そう判断するしか、」
佐野
「井伊さんはどこまで言ったらそんなに非情なんですか?!」
井伊
「それは、」
傑
「あと少し待とう、あと少しだけ」
その時だった
ズズズ、、
俺がもっているトランシーバーから通信が繋がる音がなった
トランシーバーが繋がっていいときはルール5、奴に見つかったときだけ
もしかして
英
「緊急事態!」
傑
「奴か?」
英
「うん!現在別棟1、もう脱出計画を実施しよう」
英は息を切らしながら俺にそう伝えた
今、走っているのだ
傑
「俺たちはどうすれば」
英
「拠点についているなら、」
「今すぐに荷造りを頼む」
「報告書を送信するやつとか、色々!」
傑
「了解」
そして俺はトランシーバーを切った
佐野
「ということは、?」
井伊
「まて、まだ経路の確認が」
「いや、これ以上しても無理か、」
傑
「一か八かってところだ」
圧倒的絶望な状況で笑うことしかできない
だが、そんな時にこそ俺は本気になった
…………………………………………………………………
《数ヶ月前:M.E.G.トンネル拠点》
英
「大丈夫、傑は今まで頑張ってきたから、絶対昇格できてる」
傑
「ふぅ〜、」
今日の俺はやけに緊張していた
なぜなら、俺が所属しているこの調査団でのシステムがあったからだ
それは、四ヶ月に一回本部から位の昇格、降格、継続の通知が来ることだ
昇格すれば、本部から支給される物資が良くなる
もちろん、本部から専用の通貨が送られ、それによって本部が作ったサイトで買い物をすることだってできる
もしバックルームから脱出することになったとしたら、その分のフロントルームで生活するためのお金をもらうことができる(まあ、バックルームから脱出するということはほとんど想定されていないし、脱出する時は一瞬なのでそのお金を受け取る暇もないのだが)
その量が増えるというのが昇格することのいいところだ
しかし、昇格すると、任務が多くなる上、危険なレベルに行くことが多くなる
ハイリスク、ハイリターン、昇格したい人もいれば、したくない人もいるわけで、四ヶ月に一回のこの瞬間は個人にとって大きなイベントになっているのだ
俺は昇格したい人だった
今、トンネルの拠点の中で俺と傑だけ
他の人は調査に出されている
英
「ずっと隊長になりたかったんだろ?」
「なれる!傑なら」
傑
「まじ?」
英
「まじ」
俺はその言葉を信じて、目の前のパソコンに隊員No.を打ち込んだ
そして、
カチ
Enterキーを押した
思ったよりもすぐに画面の読み込みが早く終わった
俺はその文字を見る
そこには
英
「昇格!」
「よかったじゃん!」
傑
「え、え」
俺よりも先に英が反応した
俺はその昇格という文字を見ても訳がわからないままだった
英
「頑張ってくださいよー隊長」
傑
「お、おう!」
英
「上がったからって調子には乗んなよ?」
「隊長は、いつだって周りの状況判断、隊員のことだって冷静に見えてないといけない」
「だから、どんなときでも目瞑るなよ?」
「絶対だ、約束」
傑
「ありがとう」
俺達は小指を結んだ
流石俺の親友だ、俺はそう思った
…………………………………………………………………
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谷
「色々!」
俺と谷さんは本館の拠点を目指して走り始めた
谷さんは通信機で隊長と連絡を取ってるみたいだ
俺は走りながら色々と頭の中に考えが巡った
黒仮面の向こうには翔琉の顔、確かに声を思い返してみれば完全に翔琉だった
なぜ気づかなかった、そしてなぜ
翔琉は俺を襲った?
谷さんの連絡が終わった頃、俺は谷さんに言った
凛裕
「谷さん!あの黒仮面の人、俺の弟なんですけ」
谷
「は?!」
谷さんは俺が話している途中でそうリアクションした
そして
谷
「それでも命を狙われていることには変わりない!」
「今は逃げることを考えよう」
谷さんは俺の「弟を助けたい」「弟だから安全なはず」という意志を汲み取ったかのようにそう言った
谷
「長いことバックルームにいて、精神が狂った人間の行く先は死ぬか、生きるかだ」
「生きたとしても手遅れ、もうそれは自我を持っていない!」
ゴゴゴ
谷さんが話している時に、天井から天板やコンクリートが崩れ落ちてきた
それはだんだんと道を塞いでいった
谷
「Decayも早まってる!クライマックスだ」
「もっと速く走るぞ!月島、ついてこい!」
俺はその言葉通りに足を速めた
そして廊下を駆けていった
、
―懐中時計→3W―
、
谷
「順調だ」
谷さんは走っている最中ずっと懸念していたことがあった
階段が瓦礫でふさがれ、拠点に戻れなくなってしまうということだ
しかしそういうことはなく、俺達は拠点のある階に到着することができた
そしていつもの廊下に出た
井伊
「早く!入れ」
井伊さんがドアから顔を出してこちらを向いてそう叫んだ
俺達は遠くにいる井伊さんに向かって全力で走り始めた
しかし、長く走った、かなり疲れが来てしまっていた
最初よりも全然遅いスピードだった
その時だった
凛裕
「あ、あれ、」
谷
「は、井伊さん!後ろ!!」
井伊
「え?」
向こう側の廊下から複数体のエンティティがやってきた
うさぎのように跳ねて来るデカいやつ、スキンスティーラー(人間みたいなやつ)、針金長身なやつ、そしてのっぺらぼうな子供
各種類は一体ずつじゃない、複数体
そして全力で走る俺達よりも断然スピードが速かった
確実に間に合わない、そして確実に井伊さんたちがやられちまう!
凛裕
「井伊さん!!!閉めろーーー!!」
俺は年上に対して初めて命令形を使った
そして井伊さんはその言葉に反応してドアを閉めた
俺と谷さんは銃を取り出し、スピードを緩め、照準を合わせた
変わらずハイスピードで奴らが来る
俺達はエンティティに向かって銃を撃った
ドン、ドン
何発も、何発も
それでも奴らは来た
もうすぐで追いつかれる、その時だった
谷
「下がれーーーー!!!」
俺はそれに従い、後ろに大股五歩くらい下がった
そして
ドン!
谷さんが斜め上の天井に銃を撃った
その瞬間だった
ゴゴゴゴゴ
凛裕
「は、」
俺達とエンティティの間に瓦礫が落ち、完全なる壁を作った
この一本の廊下は瓦礫によって完全に塞がれた
何体かは瓦礫に押しつぶされた
谷
「ふぅ、」
凛裕
「す、すごい、」
俺は思わず心の声が漏れた
谷
「感心してくれるのは後だ」
「今は」
そう言って通信機を取り出した
谷
「傑、拠点の扉の前はだめだ、裏口から集合しよう」
神矢
「了解!」
谷
「裏口だ」
凛裕
「裏口?」
谷
「ああ、拠点の裏口は、二階につながってる」
「月島が思うより、俺たちが作った拠点はデカいぞ」
そう言いながら谷さんは荷物を漁った
そしてアーモンドウォーターを二本取り出した
片方を俺に差し出したので、俺はそれを受け取った
谷
「これが最後の休息だ、最後の悪あがきに備えよう」
俺達は乾杯した
最後の休息、というのは、もうアーモンドウォーターが残っていない事を言っているのだろう
最後のアーモンドウォーターだ、しっかり味わおう
飲み終わったあと、谷さんは言った
谷
「二階に行こう」
凛裕
「はい」
、
―懐中時計→4N―
、
コンコンコンコン、ココンコン
谷さんはリズムを作って裏口と呼ばれるそのドアを叩いた
それが暗号としての役割をしていたようで、すぐに三人が出てきた
たくさんの荷物を抱えている
すると井伊さんが俺にバールと、かつてお腹にくくりつけられていた縄を渡した
俺はそれをバッグの中に入れた
井伊
「俺を助けてくれた時のバール、そしてここに来た時についてたロープ」
「今返す」
凛裕
「ありがとうございます」
「あ、あと、さっき命令口調ですみませんでした」
井伊
「まあまあ、いいんだよ」
「おかげで助かったわ」
神矢
「行くぞ」
俺たち全員はその言葉に頷いた
そして走り始めた
最初の頃より体力が保たれていた
神矢
「ルートは?」
谷
「どこを探しても四階は無かった」
「もしかすると別棟2かもしれない」
佐野
「2?まだそこまでの経路は」
神矢
「わかった、探しながらだ」
「月島、色々と特徴を言ってくれ」
凛裕
「まず、廊下に軍用のヘルメットが落ちていたことと、あと、」
「臭かったこと、とか」
井伊
「おい!後ろから!」
神矢
「なるほどな!」
俺は後ろを見た
また大量のエンティティが追いかけてきていることが確認できた
ドン!
俺は突然鳴ったその音の方向を見た
するとそこには、時たまに後ろを一瞬だけ見て一瞬で銃を撃つ隊長の姿があった
そして走りながらだ
その銃撃にどんどんエンティティが倒れていく
谷
「傑は銃がうまいんだぜ」
「だから隊長になったんだ」
なるほどな、
実力が評価される世界なんだなと思った
ただ、それでも数はなかなか減らなかった
神矢
「空き缶は?」
谷
「あるよ」
隊長の言葉に従って俺達はアーモンドウォーターの空き缶を複数取り出した
神矢
「一斉に!」
「せーの!」
そして同時にエンティティの方に全て転がした
するとエンティティはその空き缶を踏んで転んでいく
転んだエンティティに引っかかって後ろのエンティティも転んでいく
連鎖だ
だが、天井を伝ってくる奴がいた
ドン!
しかしそれも隊長が銃で始末した
神矢
「行くぞ!別棟2なら、別棟1から行けるかもしれない」
「他は全て調査済み、全部そこに賭けよう」
、
、
―懐中時計→4S―
、
、
神矢
「もうすぐで別棟1だ、踏ん張れ」
流石に皆疲れ果ててきたときに、別棟1に繋がる渡り廊下まで辿り着いた
だが、ここは崩壊が進んでいて、地面は完全に瓦礫で覆われていた
見るからに進みづらいだろう
神矢
「エンティティは撒いた、ここはゆっくりでいいから着実に進もう」
隊長が先陣を切って進み始めた
それに続いて、佐野さん、谷さん、井伊さん、俺という順番でついて行った
足場が不安定でゴツゴツしている
転んでしまえば大きな怪我、もう終わりだ
そんな事を考えながらのろくついて行っていると、前との差が開いていることに気づいた
俺はまずいと思いながら少し焦り始めた
その時だった
ゴゴ、
俺と井伊さんの間に大きめの瓦礫が落ちてきた
その瓦礫が地面についた瞬間だった
ゴゴゴゴゴ、、、
凛裕
「あああっ!!」
その地面もろとも崩れ、下に落ちた
しかし下にも廊下があり、そのまま落ちていかずに済んだ
井伊
「月島!」
そんな声が聞こえ、少し経つと、上に開いた大きな穴から井伊さんが顔をのぞかせてきた
井伊
「皆!、月島が」
「月島、上がれるか?」
大きな穴まで少し高い
余裕で腕は届かなかった
俺は諦め半分で首を横に振った
すると、続々と他の人も顔をのぞかせてきた
佐野
「どうしよう、」
神矢
「置いていってしまうことも視野に入れるか、?」
俺はこの廊下を見渡した
すると、奥の方に頑丈そうな鉄扉があることに気づいた
凛裕
「こっち、鉄扉があります!」
谷
「降りる、か?」
井伊
「、でも、危ないよな」
俺は立ち上がり、そんなに遠くない鉄扉に向かって行った
そしてドアを引いてみる
しかしそれは開かなかった
鍵がかかって、いるようだ
谷
「月島ー、大丈夫か?」
俺はここから上がれない
だから、ここで解決しなければ確実に置いてかれ、ここで死ぬだろう
俺は色々考えた
そして、
凛裕
「鍵だ、」
谷
「今なんて?」
俺はさっき汚い液体から取り出した鍵をポケットから取り出した
この一個の鍵にかかっている
俺はその長い鍵を鍵穴に刺した
そして恐る恐る回してみる
すると
ガチャ
凛裕
「あいた!あきました!」
「こっちです」
神矢
「、、、信じてみよう」
「皆降りるぞ」
しばらくすると、皆がこっちに降り終わった
そして俺は扉を開けた
少し重い扉を開けた先は、電気が通っていた
そしてその廊下に、
佐野
「ヘルメット、」
神矢
「月島、」
俺達は言葉を交わさずとも走り始めた
凛裕
「部屋はヘルメットから大体五個先です!」
少し遠いヘルメットに向かって走っていたが、廊下の向こう側から人影が現れた
翔琉だ
井伊
「奴だーーー!!!」
すると翔琉も走り出した
俺は複雑な気持ちだったが、脱出のことを優先にして走った
ヘルメットを過ぎ、一、二、三、四、五個目
俺達がそのドアの前で止まった時だった
谷
「うおっ!!」
神矢
「英!」
谷さんは方向に切り返しをミスし、転び、廊下を滑っていった
原因はすぐに浮かんだ
探索していたときに、液体の中に転んだからだ
それで身体中がヌメヌメしていたのだ
井伊さんは扉を開け、その中へ進んでいった
佐野さんもそれについて行った
俺と隊長は扉の前で立ち止まっていた
谷さんが翔琉の足元まで滑っていったとき、翔琉は、谷さんの首を絞め、立たせて固定した
谷さんは抵抗しながら銃を取り出し、翔琉に向かって引き金を引いた
しかし弾は出なかった、弾切れだ
翔琉
「こいつはもらった、今から殺す」
「さあ、お前らはどうする?」
そう言いながら注射針を取り出し、谷さんの太ももに刺した
谷
「あああああっ!!」
その瞬間に叫ぶ
すると
ドンドンドンドン
俺はその轟音に驚き、後ろを向いた
大量のエンティティが来ていた
凛裕
「隊長!」
すると隊長は銃を取り出し、翔琉に向けた
神矢
「放せ」
翔琉
「おお、勇気あるなあ」
谷
「す、ぐる」
意識が朦朧とする谷さんは最後の声を発した
そしてそのまま目を閉じた
神矢
「撃つぞ」
翔琉
「ああ来いよ!」
もうエンティティが近い
井伊
「バッグをくれ!」
俺はバッグを手渡した
もう部屋の中で経路を見つけたようだ
俺は隊長と翔琉の方を向く
時間がない
そう直感したのか、隊長は震える手でトリガーを引いた
ドン!
緊張の瞬間に、俺は目を閉じた
誰も声を発さない
俺は目を開けた
するとそこには、目を見開いて手が震えたままの隊長がいた
その目線の先を見る
俺は、、唖然、とした
凛裕
「谷、さん」
神矢
「すぐる、」
「すぐる!!」
翔琉
「弾は貫いたが俺の急所には当たらなかった」
「殺し代行、感謝する」
その弾は谷さんの脳天を貫いた
井伊
「早く入れ!」
そして井伊さんは俺と隊長の腕を取り、引っ張って部屋の中に入れた
そしてドアを閉めた
井伊
「谷は?」
体が震えたままの隊長と、何も言えない俺を見て察したようだった
しかし、隊長が殺してしまったことには気づいていないようだった
バゴッ
俺はその音の方向を見た
佐野
「バールで天井を開けました!ダクトがに繋がってる!」
井伊
「ナイス!」
ドン、ドン、ドン
扉が強く押される音が何度もなった
向こう側でエンティティが押しているかもしれない
突き破られたら終わりだ
佐野
「でも高くて届かない!」
井伊
「任せろ!」
「俺の肩の上に乗れ」
そして佐野さんは井伊さんの上に乗り、ダクトに入った
井伊さんはバッグから取り出した俺の縄を佐野さんに渡し、ドアを押さえ始めた
井伊
「その輪っかで俺たちを引き上げてくれ!俺が最後だ!」
なるほど、と思いながら俺は隊長を押し、動かした
隊長はゆっくりとした動きでその縄をつかみ、ダクトの中に入った
俺もそれにならって、隊長が上がったあと縄をつかんだ
ドン、ドン、ドン!
だんだん強くなっていくその音、
俺が完全にダクトに上がったあと、佐野さんはもう一度縄を下に下げた
佐野
「井伊さん!」
井伊
「無理だ、」
佐野
「え?」
井伊
「無理だから、先にいけ」
佐野
「そんなの、!」
井伊
「まあまあ、また会おうよ」
その瞬間だった
バゴン!
ドアが突き破られた音がしたあと、大量のエンティティに飲まれる井伊さんを俺は見た
佐野
「いやあああああ!」
この脱出計画 003で生き残れたのは、三人だけになってしまったのだ