Ep.0+α【記憶の彼方】
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名もない音が流れる
流れる、というより、音を感じた
自分は何者なのか
何もわからないまま
自分は大きい図書館の真ん中で目を覚ました
誰もいない
人気もない
更には
自分がなぜここにいるのかもわからない
何も憶えていない
突然として消し去られたかのような
そんな感覚がするのだ
頭の中にただ空白という記憶だけが残って
それが冷たい何かを発している
ただ、憶えていることはあるにはある
どれも当たり前なことばかりだが
一つずつ挙げていく
まず、人間であること
次に、感情があること
そして、今までも生きていたこと
その4、男性であること
最後に、言語だ
まだ細かく言えばもっとあるんだろうが
今はこれしか思いつかない
それよりも、空間的に広すぎるこの図書館に一人、取り残された気分がとても不快だ
不意に感じる不安という感情が自分の心を突き刺してくる
自分を邪魔するなにかがあるようで
とても忌々しい
この図書館は非常にお金がかけられているようだ
赤に豪華な装飾の施されたカーペット
このカーペットがこの図書館の床を占めている
そして非常に上質だと思われる材木
適度にブラウンで、光を発している
この木がこの図書館の大体の見た目を占めているだろう
本棚には無数の本がびっしりと並んでいる
それぞれ色が違うが、明らかに分厚い
だが、同じ色が横に連続に並べられ、綺麗に整頓されていて気分がいい
同じ色の本が何冊も横に並んでいる
一つ一つが分厚く、重い
中身をパラパラ見ると、おそらく同じ色の本で横に並べられているものは内容が繋がっているという規則性があるということが分かった
シリーズ形式か
この図書館はいま自分がいる場所以外にもあるようだ
受付にある地図を見る限り、3館あるが、今自分がいるここが本館のようだ
本館を1階の中心部から見上げると大きなシャンデリアが吊り下がっている
そして、大きな階段が天井の上に繋がっている
おそらく2階だ
自分は本館を適当に歩いていると、周りに比べて一際目立たない場所と色をしている本があった
何冊も連なっている
自分は逆に気になった
目立たないものほど、興味をそそってくる
自分は一番左の一冊を手に取った
色はダークブラウンで、表紙には何も書かれていない
単色だ
自分は今暇であるかを確認しようとしたが
今では記憶も何も無い
暇でも何でも無いのだ
そういうことに気づき
自分は小説の一頁目をめくった
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