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6 ギャル

 「噂は聞いてるけど、まあ、どうでも良いかな。君は変わってないって確認できたから。何にも変わってなかったよ。素敵なままだった。」


 校外学習のバスの移動の時、隣に座ってきた高橋君の言葉。

 悪い噂の流れている金髪ギャルから皆んなが離れて行く中で、ただ一人彼は私が変わっていない、素敵なままだと言ってくれた。


 中学の頃に気付いた他の人と少し違う私の性格。クールと言えば聞こえは良いけど、冷めた性格をしていた。どこか高い所から俯瞰して解説までしてくれるもう一人の私がいて、ネタバレ映画を見ているような何となくしらけた感じ。何事にも熱くなれなくて、何事にも興味が持てなくて、皆んなと同調できなくて、空気読んで、表情見て、話合わせて、愛想笑いしてた。

 高校になっても何も変わらなかった。学力テストで全国順位一桁をとっても少しも嬉しくなかった。先生や友人達の褒め言葉が空々しく感じていた。

 

 だからという訳ではないけれど、ギャルになってみた。正確にはギャルのコスプレ。街で見かけるギャルは友達とキャーキャー騒いで楽しそうで、私のできない事を集めて出来た私と真逆の存在のような気がしていた。コスプレをしたからって、私の性格が変わる訳では無い事ぐらいわかっている。変わるキッカケになれば良い、なんて事も思わなかった。本当に何も期待しないで、軽い気持ちでコスプレをした。ギャルは可愛いし、ギャルに憧れていたんだと思う。


 この地域で有数の進学校では、ギャルは異物だった。学校でただ一人の金髪ギャル、すぐに悪い噂が流され誰も近付かなくなった。私は孤立した。でも、ギャルをやめようとは思わなかった。ギャルをやめたら噂を認める事になりそうだし、私は何も変わっていないのに向こうが悪いという思いもあった。それに自分で言うのもなんだけど、意外と似合っていて可愛かったし。

 

 同じ図書委員の高橋君もカウンターの中で私の方を見なくなった。この人も私と距離を取りたがっている、そう思っていた。


 だから校外学習の時、バスの隣の席に高橋君が座ってきたのには驚いた。

 

 「噂は聞いてるでしょ。こんな所に座ったら、アンタも変な噂流されるかもよ。」


 誰も座りたがらない私の隣、座られる事は嫌ではなかったが、一応忠告はしておいた。


 「噂は聞いてるけど、まあ、どうでも良いかな。君が変わってないって確認できたから。何にも変わってなかったよ。素敵なままだった。」


 返答に困る言葉。それっきり彼は黙ってしまった。


 何が変わっていないのか、何を確認したのか、何が素敵なのか。


 水曜日の放課後、図書室で少しづつ訊いてみる。


 「その脚だよ。その脚のせいなんだよ、僕が君の方を向けないのは。見て良いなら喜んで見るけど、そうじゃ無いならもう少しスカートを長くしてもらえると助かる。その脚、ちょっと反則だよ。」


 「君の周りにある空気みたいなやつ、それが素敵だなって思うんだ。そこはかとない奥ゆかしさみたいなものを感じるんだ。あっ、キモいよね。でも、本当にそう感じるんだよ。」


 どう受け止めて良いのかわからない。彼は変な人だった。少し不思議で凄く新鮮、彼の話は面白かった。


 スカートを長くして彼に見せる。


 「どう?」


 ルーズソックスを履いて彼に見せる。


 「どう?」

 

 水曜日の放課後、図書室のカウンターの中、話のネタを用意して話しかける。週に一度だけの彼との会話。

 水曜日が楽しみになっていた。彼との会話が楽しみになっていた。この時間を大切にしていたかった。だから教室では話しかけない。他の人の前では話しかけない。彼に悪い噂が流れないように。

 

 眠そうに授業を受けている高橋君。

 友達と和かに話をしている高橋君。

 窓の外を見て、何か考えているような高橋君。


 気がつくと彼を目で追っていた。


 「ねぇ、アンタ、アイツの事好きなの?いつもアイツを見てるよね。」


 委員長の明日香に声をかけられた。バレていた。


 「好きとかじゃないけど、興味があるのは確かだよ。」


 「そう。私と一緒だね。」


 それから明日香は話しかけてくるようになった。明日香と高橋君は家が隣同士の幼馴染。でも、明日香にも彼に話しかけられない事情があるらしい。教室で二人が話をしている姿を見た事がなかった。

 明日香と二人、高橋君の話をする。図書室での高橋君を明日香に教える。小さい頃の高橋君の話を明日香から聞く。いつの間にか高橋君という人に興味を持ち、話題を共有する友人ができていた。


 図書室の高橋君しか知らなかった私に、少しづつ新しい高橋君が増えていった。


 2年になると、愛衣と麻衣の双子姉妹が高橋君に積極的に絡み始めた。満面の笑みで話しかけ、好意を隠そうとすらしていなかった。


 「アイツね、あの双子を見分けられるんだって。正確には、二人の違いを感じているらしいんだけど。」


 明日香が教えてくれた。


 『君の周りにある空気みたいなやつ。それが素敵だなって思うんだ。そこはかとない奥ゆかしさみたいなものを感じるんだよ。』


 以前彼の言ってくれた言葉を思い出す。彼は何をどう感じているのだろうか。双子姉妹の何を感じているのだろうか。私の何を感じて素敵だって言ってくれたんだろうか。知りたい。彼の話をもっと聞きたい。彼の側にいて、彼が何にどう感じているのか聞いてみたい。


 「なんなら私も彼女になって、ハーレムにしちゃおうか?」


 放課後の教室から聞こえてきた明日香の声。愛衣と麻衣と明日香、三人で高橋君のハーレムを作る話をしていた。


 「もし、高橋君のハーレム作るんなら、私もメンバーに入れてくれないかな。」


 思わず話に割り込んでしまう。高橋君ともっともっと話をしたい。側にいたい。でも私が彼に近づくと彼に迷惑をかけてしまう。だから水曜日の図書室だけと決めていた。でも、複数の中の一人なら近づけるかもしれない。これはチャンスなんだ。


 「あら、良いんじゃない。美少女双子姉妹と天才金髪ギャルの三人が彼女なんて、断る男いないわよ。だから私も混ぜてね。私も彼女になりたいの。」


 明日香が後押ししてくれた。


 明日香の家に場所を変え、四人で計画を話し合う。皆んなが目指すところは同じ。表情なんか伺わなくても、愛想笑いなんかしなくても、三人と同調していく。

 

 話し合いは進んでいく。

 

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